-まず、この主題なので、当然「何故やぶにら大全なるものを始めたか」からスタートしたいのですが
「そうですね、一番最初のアイデアは「もっと過去に書いてたことを活用出来ないか」からスタートしているんです」
-つまりは過去エントリでお茶を濁そうと
「そう言われちゃ身も蓋もないけど、昔書いたことを引っ張り出してリライトするってのはずっとやってきたからね。でも、どうにもリライト出来ないっつーか、膨らませようがない文章も結構あって」
-要するに、短くて古くエントリを寄せ集めようと
「まったくその通りです。ま、無作為にやると何のエントリかわからなくなるので、テーマみたいなのを決めて、テーマに合致する短い文章をブッ込んでやろうと」
-しかし、ほぼすべての文章を書き下ろしてあるエントリの方が多いのですが
「それは当初と予定が変わったのです」
-どういうことですか
「つまりね、テーマを決めて、合致する文章を、と思って集めてみたんだけど、これが予想以上に集まらないのですよ。で、これはダメだな、と一回諦めたんです。何とかひとつのエントリとして成立しそうなテーマって、夢の話とか、Tumblrでやってた猟奇事件について書いてた「読み解かない」シリーズとかくらいで、たいしてなかった」
-ああ
「本当は「読み解かない」シリーズだって、いくつか抜粋して、ひとつの事件につきひとつの長文エントリになるものがないか、と思ってたくらいで、グリコ森永事件なんかは当初、単独のエントリにするつもりでしたから」
-まァ、ちょっとその面影は残ってますね。ちなみに諦めた時点で、すでに「やぶにら大全」という名前だったんですか?
「違いました。いや、正確に言えばジャンルにしようとも思ってなかった」
-だったらどの時点で「やぶにら大全」という名前が出てきたんですか
「これはもう簡単で、コマソンのエントリを書こうと思ってね、これがわりと楽しい感じに書けたんですよ。で、マイナーリニューアルの第一弾にピッタリだな、となって、せっかくサイト名を<やぶにら>にしたんだから冠にしてね。さすがに「やぶにらのコマソン話」とかでは面白くないので、わざとちょっと大仰にして「やぶにらのコマソン大全」にしたんです」
-そのタイミングでジャンルにしよう、と思っていたわけではないんですか
「ぜんぜん。ま、ひとつくらい、こんなフザけたエントリタイトルのがあってもいいんじゃないか、くらいの感覚でした」
-たしかに、「やぶにらのコマソン大全」が2021年4月のエントリで、次の「やぶにらのカセットテープ大全」が10月、とかなり間が空いてますものね
「そうなんですよ。というか読み返してもらえればわかると思うのですが、「カセットテープ大全」って今読むとあんまり「やぶにら大全」っぽくないんですよ」
-前半がかなりマジメにカセットテープの歴史を振り返ってて、後半のパチソンのところは「やぶにら大全」っぽいっちゃぽいですけど、その後もただのエピソードですもんね
「だからあれも当初は、もう何だったかは忘れちゃったけど、別のエントリタイトルだった」
-それがどういう意図でジャンルにしようとなったんですか
「きっかけは「和製テムプルチヤンたち」です。あれ、どうもタイトルがイマイチでね。何か別のに変えよう、と思ってた時に、あれ?これって項目立てしてあるところとか「コマソン大全」と同じだな、と気づいて。だったら「やぶにらの和製テムプルチヤン大全」でいいんじゃないかって」
-なるほど
「で、他のエントリも読み返したら「ローカル鉄道会社のざっくりしたイメージ」もやっぱり、コマソン大全と形式が同じだし、「和製テムプルチヤンたち」同様、エントリタイトルがイマイチだな、と。で、これも「やぶにらのローカル鉄道大全」でいいよな、とね」
-これで「やぶにら大全」が一気に3本になった
「そうなんですね。もうこうなってはジャンルとして認めないわけにはいかないなってなって、だったらカセットテープのエントリもついでに「やぶにらのカセットテープ大全」にしてしまおうと。でもさすがに他のと違いすぎるので、リニューアルのタイミングで「カセットテープレクイエム」にタイトルを変えましたが」
-「ついでに」だったんですね
「そう。だから「やぶにら大全」らしくないのは当然で、「やぶにら大全というひとつのジャンル」として意識して書き出したのはその次の「インスタント食品大全」からです」
-かなり「なし崩し的」にジャンルになったと
「ま、なし崩しではあったんだけど、実は「インスタント食品大全」を書き始める前の頃に、Twitterのタイムラインに流れてきたツイートがどうしても気になって、というのもあった」
-急に話が変わりしましたね
「大丈夫です。ちゃんとつながってますから。つまりね、ジャンルにするならするで、一応はコンセプトみたいなものを立てようと。あまりにも何でもアリになっちゃうと逆に書けなくなってしまうから。で、ですね、そのタイミングで「インターネットにいい加減な情報を書くな!」みたいなツイートが結構いっぱい流れてきてたんですよ」
-ありましたね。というか、ずっと前からそんな人はいますけどね
「アタシはね、それは違うだろ、と。実際問題、アタシは本当にキチンと調べたければインターネットの情報には一切頼らず、古本屋とか図書館で文献を見つけることから始める人間だし、なるべく「嘘のないことを書こう」とは思ってるんです。でもそれは他動的にやることではないだろうと。別に何も調べちゃいないけど、思い出話として「昔、こんなことがありましたね」とか書くって方が、むしろインターネットの活用方法としては王道なんじゃないの?と」
-ま、調査を精査もしてないことを一切書くな!とかなったら、ほとんどの人は何も書けなくなりますもんね
「まったくその通りでね、インターネットのような、良くも悪くも気安いメディアにそんなことを求めるなよ、と。もししっかりした情報が欲しいのであれば、そもそもインターネットで知ろうとすることが間違えてる。そういう人間は論文でも読んでろよと。せめて書籍から情報を吸収しろよと」
-それはそうです
「で、アタシもヘソ曲がりなもんで、だったら、この「やぶにら大全」は、ほとんど記憶だけで書いてやるぞ!と。つまり絶対に調べては書かないと決めた」
-しかし、読む限り、それなりに調べてると思いますが
「調べてないですよ。ただ検索してるだけ。何度もしつこいけど、アタシにとって「インターネットで検索する」なんて調べたうちに入らない」
-それでも、そのコンセプトなら、もう検索もしない、という方が完全じゃないですか
「検索するのは、検索して出てきたことからさらに記憶が喚起されるからです。つまり記憶のトリガーになってもらってるに過ぎない」
-すみません。こちらもこだわるようですが、例えば「やぶにらの戦慄した事件大全」なんかは書籍からも引用していると思うのですが
「これはもう、本当に順番の話なんだけど、もし「戦慄した事件大全」を書くために書籍を読み始めたのであれば、それは調べたことになるかもしれない。でも実際はエントリを書くずいぶん前にそれらの書籍を読んでるわけでね。だからあれも一種の記憶にあるもの、と言えるんです」
-何だか詭弁ぽいですが
「どちらにせよ「エントリを書くにあたって、あらためて調査も精査もしていない」のには変わりないですから」
-ちょっと待ってください。何だか話がズレていってるような気がするのですが「やぶにらの珍ベストナイン大全」までは、一部過去エントリからの流用はあるとは言え、ほとんどは書き下ろしです
「これはPostScriptにも書いたのですが、過去エントリからの流用が多くなったのは「昭和40年代女の子向けトイドール大全」からです。ま、これは寄せ集めじゃなくて、ひとつのエントリをリライトしたに近いんだけど」
-ああ、「昭和40年代女の子向けトイドール大全」はたしか仕事用に書いたものの転用でしたっけ
「そうはいっても相当書き直してるし、項目も大幅に増やしてるんですがね」
-となると、やっぱり「寄せ集め」は「変な夢大全」からじゃないですか
「結局そうなりますか」
-ここまでお話しを聞く限り、「短い古いエントリの寄せ集め」と「やぶにら大全」は、少なくとも途中までは無関係だったように思うのですが
「ま、短い古いエントリの寄せ集めは「やぶにら大全」でやればいいじゃん、と思いついたのは去年の年末、つまり「コマソン大全Vol2」を書き終わって以降ですね」
-やっとつながりました
「ただね、これは想像よりも大変だった」
-どういうことですか
「過去エントリからのリライトは散々やったし、ふたつ、せいぜいみっつのエントリをいっこのエントリにまとめる、なんてことも何度かやったけど、寄せ集め、となるとその数ははるかに多いわけです」
-ですね
「これ、実際にやるまで気づかなかったことなんだけど、書かれた時期によって相当文体が違うんですよ。アタシは同じように書いてると思ってたんだけど、並べてみたらコンピレーションアルバムみたいなバラバラな感じになってしまった」
-ああ
「とくに「戦慄した事件大全」はメチャクチャで、最初はとりあえず過去エントリを並べりゃいいと思ってたら、あまりにも文体がバラバラすぎて読めたもんじゃなかった。だからもう、結局はかなり書き直したし、寄せ集めだからラクだと思ってたらむしろ余計に手間暇がかかったというか」
-グリコ森永事件は相当書き直しておられますが
「いや、あれは大幅に追記するつもりだったんで別にいいんだけど、一見あまり書き直してないような三菱銀行人質事件とかひかりごけ事件は<内容>ではなく<文体>を直すのが大変だった」
-お茶を濁すのも大変ですね
「まったく。手を抜こうってわけじゃないけど、ちょっと休むために策を講じたら余計大変になって余計休めなくなる」
-何だか「鉄腕アトム」のミドロが沼の巻みたいですね
「手塚先生もそのまま使ってやったら良かったのにね。ってそれはともかく、こういう「私見と思い入れと自分語り」だけの文章がもっと増えたらいいのに、と思う。いや自分の意思で「徹底的に調査と精査をする」ってのはその人の勝手だし、それはそれで素晴らしいことではあるんだけど、インターネットというメディアを考えたら同じくらいの比重で「私見と思い入れと自分語り」の文章が出てきて欲しいなぁと思う」
-かつてはそっちの方がスタンダードだったんですがね
「アタシはそれでいいと思うんだけどね。自分や自分の会社で完璧を求めるのは勝手だけど、それは強要しちゃいけないよ」
-それ、手塚先生の話ですか
「一般論です。でもね、せめてアタシだけは、そういうことをやっていきたいんですよ。それも勝手でしょ」
-どうもドリフ成分を感じるのですが。何か「ミヨちゃん」とか志村けんのギャグっぽくないですか?
「偶然です」