バカとアカデミックの坩堝
FirstUPDATE2024.3.8
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 インターネットを見てるとやたら馬鹿馬鹿言いたがる人が多くて辟易してしまします。とくに某ホリエモンとか某ひろゆきとか、もう定型句のように最後に<馬鹿>と付け足すわけで。

 よく言われるように、悪口というのは「言った当人が一番言われたくない言葉」を使ってしまうものでして、要するに馬鹿と言いたがる人は「馬鹿」とか「頭が悪い」というのが最大の侮辱なんですよね。
 逆の言い方をするなら、とにかく「頭が良い」と思われることが最大の称賛と思ってる、というか。
 どうにも、個人的にそれがよくわからない。馬鹿と言われるのが最大の侮辱ってのは百歩譲ってわかるとしても、頭が良いと思われて喜ぶ心理がわからないというか。
 そもそもですが、何かっつっと、ふた言目には馬鹿馬鹿って、そんな語彙力がない人を「頭が良いなぁ」なんて思うわけないじゃん。ねぇ。

 ま、これも百歩譲って、頭が良いの反対が頭が悪いというのはわかるんだけど、頭の良し悪しと馬鹿はまた別種だろ、と。
 変な話、頭が良くても馬鹿はいるし、その反対、頭は悪くても馬鹿じゃない、というか馬鹿な言動はしない人もいる。
 もっと言えば、アタシは頭が良いのさらに上のランクに馬鹿、いや<バカ>がいると思っているのです。

ただバカっつったってホントのバカじゃダメなんだからな。知性とパイオニア精神にあふれたバカになんなきゃいけないの。リッパなバカになるのは大変なんだ。だから、バカになる自信がなかったらごく普通のリコウな人でいたほうがいい。


 これは「バカとは何か、天才とは何か」をとことん突き詰めてギャグを作った赤塚不二夫の言葉ですが、馬鹿を連呼せずにはおれない某ホリエモンや某ひろゆきがこの言葉を聞いたら何て言うんだろ。

 それにしても『リッパなバカになるのは大変なんだ』という言葉は、やはりアタシの胸を打つ。
 赤塚不二夫実質最後の仕事は点字絵本でしたが、アルコール依存症になり、どうしようもない醜態を晒しながらも最後まで社会的弱者に寄り添う姿勢を崩さなかったのは、アタシは十二分に『リッパなバカ』として天寿を全うしたと思うわけで。

 にしてもです。
 赤塚不二夫同様、2024年になって逝去した坂田利夫はバカ、というか関西弁でいうところの「アホ」を全うした人生でしたが、私生活では知性のあるダンディな人というのは有名で、知性があればこそアホを極められたと思うし、アホを「リコウの上」と定義してないとあそこまでアホに徹することは出来なかったと思う。

 坂田利夫にしろ赤塚不二夫にしろ、いわば「人生を捧げてまで」バカ(アホ)を突き詰めようとしたのです。しかし普通はそこまではなかなかやれない。人間、そこまで開き直れない。ましてや「バカ」が悪口と思ってるような人には絶対に不可能なことです。
 そして『知性とパイオニア精神にあふれた』バカが如何にすごいものなのか、「とっかかり」としてどこから始めたら良いのか、教示してくれる人もサンプルもほとんど見つからないのです。
 赤塚不二夫は先述の通りの言葉を残していますが、TPO弁えずガナり立てていたわけじゃないし、坂田利夫の知的さも伝聞という形で伝えられるだけで本人が知性をテレビなどで垣間見せることはほとんどなかった。
 むろんそれは彼らのポリシーだろうし、わかりやすく言うなら「そんなことをガナるのはカッコ悪い」と思ってたんだろうけど、こうなると「バカはリコウのさらに上」とわからせてくれる存在は皆無ということになってしまいます。

 しかし、たったひとつ、アタシが高校生の頃に「知性とパイオニア精神にあふれた」バカこそ素晴らしい、と説いてくれたメディアがあった。
 それがログインという雑誌です。
 ログイン、と言えばパソコン(マイコン)雑誌、もしくはパソコンゲーム雑誌として長らく存在したのですが、少なくとも1990年代半ばくらいまでのログイン誌は基本的にはアカデミックなムードにあふれた誌面作りで、けして堅苦しくなく、それでいてサラッと知的好奇心をくすぐる記事がいろいろ掲載されていたのです。
 ここからちょっと「ルックバック2022」に書いたことと重複するのですがあらためて書かせていただきます。
 当時、1980年代半ば頃のログインでもっとも「堅苦しくないアカデミックさ」を表現出来ていたのは「オールザットウルトラ科学」という連載記事でした。
 作者は鹿野司。そして米田裕の漫画が添えられる形での連載だったんですが、内容はまさしく「堅苦しくないアカデミック」な内容で、漫画も実に良いアクセントになっていた。


 上記リンクで全文が読めるのでお時間がある方は是非読んでいただきたいのですが、<科学>という文字を見ただけでも吐き気をもよおしそうな人がいる、一般的に<難解>と思われているものを、噛み砕いた表現で本当にわかりやすく説明している。

 何というか、鹿野司という人はあきらかに理系でありながら文系の人が書く文章に近く、得手勝手な自己合点なところが微塵もない。つまり非常に高度なところでバランスが取れており、アタシも読み返して「こんな文章が書きたかった」と強く思わされました。
 「オールザットウルトラ科学」はページ数からすれば誌面で占める割合はきわめて低い。しかし「ログインとはかくある雑誌である」を体現した連載と言っても良く、ある意味ログインの中核を担っていたような気すらします。

 しかし、世間一般で、この時代、つまり1980年代半ばから後半のログインを象徴する、いや中核と思われていたのは、何と言っても「ヤマログ」でしょう。
 「オールザットウルトラ科学」が「ほのかなユーモアをまぶした」アカデミックさなのにたいし、ヤマログはさらに突き詰めて「バカ」を全面に押し出した。後年、ヤマログをはじめとする記事だけをまとめた「バカ記事大全」という書籍まで発行されたほどで、とにかくインパクトは強烈だった。
 ナンセンスともまた違う。たしかにくだらなさ全押しなんだけど、とにかく「どれだけバカでいられるか」「バカほどすごいものはない」というのが全面に出ていて、赤塚不二夫が言うところの「知的でパイオニア精神にあふれた」バカの入門書にすらなっていたんです。

 重要なのはあくまで知的さ、アカデミックさなんですよ。そこがないと成立しない。
 そもそも1980年代半ばという時代において、もう「パソコンが趣味」というだけでちょっと「アカデミックな趣味をお持ちで」という感じだったのです。というのも当時のパソコンは「プログラミングをするためのもの」というニュアンスが強く、どこまで行っても「理系の人のためのもの」であり、入口としてはゲームからってのはアリだけど、そこで止まってるようじゃダメだ、という風潮があった。
 当然、完全な入門用であるゲーム中心のパソコン雑誌はともかく、大半のパソコン雑誌は「パソコン記事を扱っている」というだけでアカデミックに見えた。
 ログインも最初は「月刊アスキー」の低年齢版というか、ゲーム記事の多い、それでいてどこかハイソサエティなムードのある普通のパソコン雑誌だった。
 ところがいつしか、パソコンとは離れたところでアカデミックさを出し始めた。その象徴が「オールザットウルトラ科学」とかだったんです。
 こうやって「パソコンネタ以外も知的好奇心がくすぐられる」誌面になったログインは熱狂的なファンが付き始めた。そしてそんなタイミングで「お前ら知的と思われて喜んでるかもしれないけど、そこで止まってるようじゃまだまだだな。ホンモノは知性を乗り越えたバカになるんだ」と説くというのは本当に画期的だったし、さらなる熱狂的読者を生んだのです。

 今、この頃のログインのバックナンバーを読み返してつくづく思うのは、ヤマログ、オールザットウルトラ科学、そして「べーしっ君」が強烈な<柱>だったんだな、と。
 「べーしっ君」についてはココに書いたので割愛しますが、この三本柱がアタシに与えた影響は殊の外大きい。

 しかも「意識して」ではなく「無意識に」魂に染み込んでいるので、どれだけマジメなことを書こうがどこかに「バカ要素」がないと落ち着かない。何だ、これではリコウに思われる、というかリコウに思われたいみたいな文章じゃないか、もっと上を目指さなければ、もっとバカにならなきゃ!なんて考えてしまう。
 正直、いいトシしてバカと思われるのは難しい。というかいいトシした大人が「バカと思われたがってる」なんて誰も思わない。だから他人さんは心の中では侮蔑していたとしても表立ってオッサンをバカにする言動はしません。
 でもね、アタシにとって「バカ」とは「リコウのさらに上」なのです。

 東宝クレージー映画で人見明演じる課長が植木等扮する主人公の狂ったような言動にたいして、思わず「バカ・・・」とつぶやくのですが、「バカ・・・」とつぶやかれた植木等、あれが理想ですよ。
 そんな理想像を人生で初めて教えてくれたログインには感謝してもし足りないくらいでして、ええ。

このエントリはいわば「ログイン・表層編」でして、まずはログインがどんな雑誌だったかを表層だけでもわかってもらえないと次に進めないと思ったのでね。
つまりこれからもログインについてはどんどん深堀りしていくつもりです。つかいくらでも深堀り出来る雑誌なんですよ。
さすがに時間が経ちすぎているので、今読んで面白い保証は出来ないけど、今後面白さのカンドコロみたいなのを書いていければな、と思っています。




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