すぽぽーん!!
FirstUPDATE2016.9.3
@Scribble #Scribble2016 #アニメ・漫画 @8bitマイコン #雑誌 #サブスク/有料ネットコンテンツ 単ページ 荒井清和 べーしっ君

ムチャクチャなタイトルですが、これでいいのです。え?あ、楽しい仲間は増えませんよ。あれは「ぽぽぽぽーん!」ですからね。つか、いくらなんでもネタの鮮度として中途半端すぎでしょ、それは。

さて、Amazonで新しく始まったサービス「Kindle Unlimited」ですが、一ヶ月はお試しということでさっそく試してみた次第なんですが。
ま、Amazonで扱っている電子書籍がすべて読み放題になるわけじゃないんだけど、わりと暇つぶしになる雑誌が揃っていて、結構良い感じなんじゃないかと。今後有料に移行してからも継続するかは未定だけどね。
ただ、アタシはあんまり読まないから別にいいんだけど漫画は少ないね。漫画目当ての人にはちょっとオススメできない感じ。
それでも、ちょっと面白いのもあってね。「べーしっ君完全版」があんじゃん。これ最近刊行されたんだけど読みたかったんだよね。
でも「べーしっ君」って何?って人が大半じゃないかね。
漫画は漫画。で、4コマ漫画。ただこれ、普通の4コマ漫画じゃない。

ここでちょっと、翻ったことを書いてみます。
漫画といえば漫画専門雑誌に連載されたもの、みたいなイメージですが、もちろんそれだけではありません。
「サザエさん」や「コボちゃん」なんかの新聞漫画もそうですし、週刊文春や週刊新潮にも4コマ漫画が載ってたりします。
これらは、読者を楽しませる、というよりは、どちらかといえば箸休め的なニュアンスが強く、漫画専門雑誌と違い漫画目当てで新聞や雑誌を買う人は、まァ稀でしょう。
しかし意外と印象に残るものも多く、いつの間にかファンになっていた、なんてことも珍しくありません。

「べーしっ君」は「ログイン」や「ファミコン通信(現在のファミ通)」などに連載されていました。
何しろパソコン誌やゲーム誌なので、当然それらにある程度知識がある前提で描かれています。つまりまったく一般向けじゃない。
しかもあくまで箸休め的なものなので、たいした広がりがあるわけでもなく、誌面から浮くような極端な表現もできない。間違っても箸休めの範疇から抜け出しちゃいけない存在です。
それでも「べーしっ君」は当時の読者にかなり強烈なインパクトを残しました。アタシもリアルタイムでしか読んだことがなかったにもかかわらず、数本のネタを記憶していたほどです。
いまだに守備の下手な野球選手(たとえば伊○隼○)を見ると「スクルトおばさんに呪文を唱えてもらえ」とか思ってたほどだから。

で、ですね、今回あらためて「完全版」という形で単行本を読んでみたのですが、まァ、実に駄洒落オチが多い。上手く処理してあるので一切オヤジギャグっぽくはないんだけど、単純にネタとしてみれば、まったくレベルは高くない。
でも、もう、面白くってしょうがない。もちろん懐かしい記憶が喚起されるってのもあるんだけど、純粋に漫画として面白いのです。

この作品の凄さは擬音の特殊性で語られることが多い。エントリタイトルの「すぽぽーん!」はその代表ですが、擬音なのか擬態なのか発声なのかもよくわからない、オチで被せされるまったく意味のない謎の描き文字は、あまりにも特殊です。
本来ならここまで特殊だと箸休めの範疇を超えそうなものだけど、当時の「ログイン」や「ファミコン通信」のノリと完全に一致しており、尚且つまんかならではのほんの少しだけ逸脱したナンセンスに収まっているのです。

でもアタシが一番に感じたのはそこじゃない。
生々しさが皆無の、妙に「ふんわり」した世界観は、耳かきの反対側についている毛玉で全身を包むような心地よさがあるのです。
以前「優しい機械」というエントリで、ゾワッとした弱度の快感について書きましたが、それにかなり近しい。かなり下ネタとか毒を含んだネタもあるんだけど、それらすら「ふんわり」しているのです。
それは作者の荒井清和が持つ、独特の言語感覚もあるんだけど、よく読むと実は暴力性を異様なまでに排除してあるんです。

何しろ大半がゲームネタです。となるとどうしても先鋭的なまでに冷たくなったり、殺伐としたものになりがちです。
それを絶妙にかいくぐっている。「べーしっ君」は。
面白いのが、その後「ファミ通」誌に掲載された漫画はすべて(かどうかは定かじゃないけど)暴力性のない「ふんわり」した世界観を受け継いでいるのです。
「ドキばぐ」(柴田亜美)も「ドラネコシアター」(餅月あんこ)も「おとなのしくみ」(鈴木みそ)も、どれも毒性を持っていながらも荒井清和が作ったラインに則っているのです。

・・・などと馬鹿みたいに分析らしい話をするのが如何にバグヤローなことなのか、ま、実際に読んでもらえればわかるんですがね。
とはいえ、あの時代のあの文化に興味がない人が読んでも「すてらのなばびこーん!」でしょうが。







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