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複眼単眼・準キー局
FirstUPDATE2022.5.22
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 NET肝入りの「モーニングショー」はアメリカのテレビ局NBCの「TODAY」の模倣というか、「TODAY」を思いっきり下世話にしたことで成功したのですが、1971年から始まった「23時ショー」も、はっきり言えば「11PM」のパクリで、さらに下品なお色気を売りにした番組でした。


 Page1で書いたように大阪のテレビ局は新聞社との結びつきが強く、また視聴者層的にもあまり下品な番組は好まれない傾向にあった。
 当初は毎日放送も「23時ショー」をネット受けしていたのですが、というか「23時ショー」は製作体制もまるまる「11PM」を模倣しており、金曜日は毎日放送が製作していました。
 ところが毎日放送は思い切った策に打って出た。何と準キー局兼(金曜日だけとはいえ)共同製作まで行なっていた毎日放送が「23時ショー」のネット受けを打ち切ってしまったのです。
 このことは当時大問題になったようですが、おそらく毎日放送側に相当の鬱憤があったのでしょう。普段からロクでもない番組(=視聴率が取れない番組)しか作らないクセに、関係の強い新聞社をも刺激するような番組までネット受けさせられたんじゃたまらない。もう勘弁ならない、という感情が強かったと思われます。
 ま、もちろんNETも「毎日新聞の顔を立てるかなんだか知らないけど、オツに済ましやがって」というのもあったんだろうけどね。

 おそらくこの事件から、もともと悪かった毎日放送とNETの関係は最悪になったと言っていい。
 「23時ショー」が始まった1971年の春、というのは偶然にも毎日放送が製作した「仮面ライダー」の放送が開始された時期でもあり、毎日放送側は「ウチは人気番組をちゃんと作ってNETに受けさせているのに」と、一方NET側も「そもそもあれはウチとの関係が深かった東映テレビ部の作品じゃないか。横取りするような真似をしやがって」というのも、あったかもしれない。
 さすがにここまで拗れると修復も難しく、結果的に田中角栄の企みは両者にとって渡りに船になった。
 ま、今もテレビ朝日と朝日放送(ABC)、TBSと毎日放送の仲が良いとはとても言えないけど。

 こう見ていけばわかるように、キー局と準キー局の仲が悪いのが普通なんだけど、主従関係があるようでない、というか、キー局、準キー局という名前だけを見ればキー局に主導権がありそうなんだけど、準キー局は準キー局で新聞社とのつながりが深く、新聞社をピラミッドの頂点と考えるなら準キー局の方が力があるようにも思える。

 さて、ここで少し視点を変えます。
 先ほどアタシは『(関西の)視聴者層的にもあまり下品な番組は好まれない傾向にあった』と書きましたが、違和感のある人がいるかもしれません。
 完全に「関西人=下品で下品なものを好む」というイメージが定着していますが、実は「23時ショー」以外にも似たような事例があります。
 とくに「オールナイトフジ」をネット受けを見送り同時間帯に自社製作の「エンドレスナイト」を始めた関西テレビの例が顕著です。(「エンドレスナイト」の詳しい記述はココ
 関西テレビは毎日放送や朝日放送に比べると新聞社との結びつきが薄く、というか「フジサンケイグループ」という名称を見てもわかるようにキー局であるフジテレビの方が新聞社との結びつきが強いのです。
 だからオールナイトフジにかんしては新聞社云々は関係ない。それよりも、やはり、オールナイトフジの悪辣で下品な内容をネット受けしたくない、したところで関西の視聴者にはウケない、という判断があったのだと思う。

 オールナイトフジのネット受けを断ってまで始めたエンドレスナイトはオールナイトフジ同様女子大生(もしくは相当する年齢の女性)を数名アシスタントに使いながら下品さのカケラもなく、お色気を振りまくどころか「素朴な近所のお姉さん」的な健全ムードを漂わせていたんです。
 以降、テレビ史上に残るほどの下品なお色気番組だったフジテレビ製作の「殿様のフェロモン」も、司会者のひとりが上方芸人の今田耕司だったにもかかわらず関西テレビではネット受けされず、「オールナイトフジ・リターンズ」もやはり、ネット受けされなかった。

 準キー局にネット受けされたお色気番組と言えばテレビ東京の「ギルガメッシュナイト」で、これは準キー局のテレビ大阪がUHF局というある種の治外法権感があったからこそ許された感じでした。
 というか、あくまで「準キー局では」お色気番組が好まれなかっただけで、独立UHF局のサンテレビでは1980年代前半から「おとなの子守唄」なるお色気番組を製作・放送していましたので、まったく、関西人は下品なお色気に拒絶反応があるわけではない、と特記しておきます。


 アタシは1980年代まで関西在住だったのでその頃の関東のテレビ事情はあまり知識がないのですが、キー局と準キー局では予算などを超えた違いがあったのはわかります。
 たとえば「11PM」を見れば一目瞭然です。
 「11PM」は月曜、水曜、金曜が日本テレビ製作、火曜と木曜はよみうりテレビ製作でしたが(この体制は後継番組の「EXテレビ」にも受け継がれた)、下品さは圧倒的に日本テレビ制作分の方が上で、よみうりテレビ制作分は火曜日の温泉紹介のコーナーでチラッとバストトップが見える程度のものでした。
 とにかく新聞社とのつながりがあろうがなかろうが関西のテレビ局は頑なにお色気を拒絶した。やむを得ない場合には実に「あっさり」やった。

 やはりそれは視聴者層が好むものの違いだと思う。というか関西の番組はお色気もそうだけど、あまり悪辣なものもないのです。
 これは深夜枠でさえ同じで、悪辣さや毒が薄い、どちらかというとアフタービートの番組が好まれた。
 とくにアフタービートの番組作りが上手かったのが毎日放送で、「夜はクネクネ」や「テレビのツボ」、あと1990年代後半以降で言うなら「豪快!御影屋」とか「爆裂!シャンプー」も印象的だった。
 深夜番組にありがちな毒気の強さだったりお色気要素を完全に排除しており、どちらかというと「ユルさ」や「まったり」「しみじみ」という形容が似つかわしい<作り>で、キー局制作の深夜番組特有の悪辣さは皆無なのです。
 もしこんな番組をキー局、というか東京で流してもまずウケないし、キー局が制作したらインパクトをつけようとして悪辣になるに決まってる。

 テレビから逸れる話ですが、性風俗にかんしても関西は「お盛ん」とは言えない。
 関西発祥の性風俗として有名なのはノーパン喫茶ですが、ノーパン喫茶第一号店は一般には「上品」とか「お高くとまっている」と言われている京都です。つまり、何かとあげつらわれる大阪ではない。
 こうした実態との乖離にたいして、アタシは何度も書いてきた。とくに「さかい親子」のカテゴリにて、なかばフィクション形式で「現今の大阪のイメージは完全な東京からのゴリ押し」と記してきたのです。
 しかし「東京からのゴリ押し」というのは正確ではない。正しくは「キー局からのゴリ押し」です。

 当たり前ですが、新聞は大阪をこういうふうには取り扱わない。雑誌も、そりゃ面白おかしく大阪を取り上げることはあるけどテレビほどしつこくはない。
 でも本当、テレビ、いやキー局が制作するテレビ番組はまるで大阪のことは何を言ってもいい、くらいのレベルで、しつこく、大阪=下劣な場所とガナってきた。
 これで準キー局が気持ちが良いわけがない。とにかく大阪の悪いところを、それも実態にそぐわないことを大きく取り上げ、わずかに大阪の良いところを取り上げたとしても「人情」なんてありもしないものを取り上げる。
 私見では大阪っ子と東京っ子なら大阪っ子の方がドライで、悪い言い方をすれば醒めているように感じる。ま、それはアタシの受け取り方の問題かもしれませんが、どちらにせよキー局はずっと大阪サゲ=準キー局サゲを延々と、しつこくやり続けてきたのです。

 これはどういうことか、要するに、キー局は準キー局と、そして準キー局もキー局と、出来ることなら仲良くやりたい、という気などさらさらない、ということに他ならないはずです。
 テレビ局とはいえ普通の会社と同じように株式会社であり、Page1でも書いたように株の所有の関係もありキー局と準キー局は表立った喧嘩はしません。
 しかしそれは経営陣がそうしているだけで、経営に直接関与していない社員はそうではないと思う。というか時には露骨にキー局を、準キー局を批判する、莫迦にする番組を作ったりもする。
 ま、いわば右手で握手しながら左手では中指を立てているってのに近く、間違いなく関連会社でありながら、お互いを否定的に見ている、そんな関係のまま何十年もやり過ごしているのはおそらくテレビ局だけでしょう。

 Page1の冒頭に阪神タイガースと東京ヤクルトスワローズの奇妙な関係について書きましたが、ともに共存共栄が建前のNPBという組織に属していながら、ましてや、これも先述の通り「遠い親戚会社」とまで言えるほどなのに、何十年にも渡って揉め事が絶えないのは、本当にキー局と準キー局の関係に似ている。
 似ていると言えばヤクルトファンほど阪神ファンに悪辣なイメージを持ってる人たちもいないと思う。
 しかしこれもあくまで私見なのですが、甲子園球場(阪神タイガースの本拠地)と神宮球場(ヤクルトスワローズの本拠地)とを比較すれば、ガラの悪さはどっこいどっこいで、いやむしろ個人的には神宮球場の方がガラが悪いと感じた。(むろん「神宮球場の阪神ファン<だけ>が」ではなく「阪神ファンもヤクルトファンも」神宮球場のがガラが悪いという意味です)
 何度も書きますが、アタシは文句なしに関西の一地方である神戸出身でありながら、東京という街をこよなく愛する人間です。それはココでも書きましたが街そのものも好きだし、人間も大阪や神戸の方がドライで東京の人の方があったかいと感じるほどです。
 つまり別に関西をえこひいきしているわけではない。むしろえこひいきしたいのは東京です。
 なのに、というか、それでも、と言った方がいいか。神宮球場の方がガラが悪いと思う。

 こうなると、かえすがえすも「毎日放送のキー局化」が頓挫したのは大きいことだったように感じてしまう。
 少なくとも20世紀までの毎日放送は悪辣さ皆無の、アフタービートで、しかも面白い番組を作ることに長けていた局でした。もし、そんな毎日放送が、もちろん多少は東京ナイズドされたとしても、キー局として特異な存在になれたと思う。
 いや、もしそういうテレビ局があれば、テレビというものにたいするイメージも現今と変わっていたのではないかと思えるんです。
 偶然にもキー局で、というか東京のテレビ局でもっとも悪辣さがないのが、毎日放送が東京のネットワーク局(=準キー局)に、と目論んでいたテレビ東京で、そういう意味ではテレビ東京は毎日放送のDNAというか感覚が残存しているのかもしれません。

 そうは言っても今後、間違いなく「テレビジョン」は衰退していくメディアであり、そんなに遠くない将来「ケンカしてる場合じゃない」という感じになるのかもしれない。つまんない争いをしてると共倒れになるぞ、と。
 ま、それはそれでわかりやすい兆候というか、もしキー局制作の番組で極端な大阪サゲがなくなったら、もういよいよテレビもヤバいんだな、とわかるというか。

アタシは京都だけは住んだことがなく肌感覚がわからないのですが、大阪と兵庫は愛憎半ばとは言え、肌感覚で良さも悪さも把握しているつもりです。
ただしその良さも悪さもキー局=東京のテレビ局制作の番組がガナり立てるステレオタイプとはほど遠いもので、本文中でも書いたように、関東と関西なら関西のがドライだと思うし、関東の方が下品なものを好む傾向があるように思っている。
もちろんアタシ個人の感想でしかないのですが、実はこれ、根本原因はキー局と準キー局の対立があるのではないか、と思ったのです。
てなわけでこんなエントリを書いてみたのですが、異論反論いろいろあると思います。それは当たり前だし、アタシが思ってる以外の関西の良さ悪さもあるのは間違いない。
でもそれはけして、ステレオタイプなものではないはずで、今後もいろんな形で「アタシの思う関西の良さ悪さ」を書いていければ、と。




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