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複眼単眼・ほのぼの
FirstUPDATE2021.12.29
@Classic #複眼単眼 @エノケン @中村メイコ #YouTube #アニメ・漫画 #アニメ・漫画 #戦争 #性 #東宝 全2ページ サザエさん 三谷幸喜 ちびまる子ちゃん クレヨンしんちゃん マイメロディ マイメロ クロミ メンヘラ 動物キャラ化 ドックはおもちゃドクター @江戸ッ子健ちゃん フクちゃん 悪夢

 軽く検索してみてもまったくわからなかったので記憶だけで書いてしまいます。
 三谷幸喜がアニメ版「サザエさん」の脚本を書いてたってのは今では有名ですが、実は舞台版の脚本も書いててね。どうも1994年が初演だったらしい。それだけはわかった。

 アタシとて実際に観に行ったわけではなく、何かで読み齧っただけなのですが、終電がなくなってしまったためにサザエさん一家が長い距離を家まで歩いて帰る、みたいな話だったらしく、結構ハードな展開も用意されていたようです。
 いろいろあってね、サザエさんという作品世界に不似合いの<ややこしい>キャラも出てきて、その人らにたいしてついにマスオさんがキレるシーンがあったそうで

「あなたたちは、何で、もっと、ほのぼの出来ないんですか!!」

 このセリフはすごい。三谷幸喜の面目躍如というか、完全に(アニメ版の、ですが)サザエさんをメタフィクションとして捉えています。

 さてさて、どうもね、トシのせいか、毒っ気の強いものに関心が行かなくなってしまいました。
 若い頃は毒のない作品とか笑いとか「ヌルくて面白くない」と思っていたけど、今はそうじゃない。いや毒のあることはいいと思うんだけど、安直にソコに行くのはね、みたいなのはある。
 だけれどもそれより、メチャクチャ単純に、ほのぼの系の方が見てて楽しいんですよ。
 だからこそ、ほのぼのを標榜した文章を書こうと試みたこともあったし、ま、結局は挫折したんだけど、じゃあ何で上手くいかなかったか、<ほのぼの>を書く才能がなかったとしても、その才能っていったいどんな才能なんだ、ってのが引っかかる。
 いや実際、自分でほのぼのにチャレンジしてみてわかったけど、才能かどうかはともかく、かなり向いた資質の人と向いてない資質の人にくっきり分かれるな、と。

 というわけで、今回の主題は「ほのぼの」です。
 そもそもですが、ほのぼの、という言葉自体が曖昧というか、ちなみにデジタル大辞泉にはこうあります。

1 かすかに明るくなるさま。「東の空が仄仄としてくる」
2 ほんのり心の暖かさなどが感じられるさま。「仄仄(と)した母子の情愛」
3 わずかに聞いたり知ったりするさま。
「かく、ささめき嘆き給ふと、~あやしがる」〈源・夕顔〉
【二】[名]夜明け方。


 しかし、<1>や<3>、はたまた名詞の意味で<ほのぼの>を使う人は、少なくとも現今においてはほとんどいない。
 ということはつまり<2>、『ほんのり心の暖かさなどが感じられるさま』という意味で使うことが大半だと思う。
 しかし、どうもね、『ほんのり心の暖かさなどが感じられるさま』からズレてる気がするんですよ。もちろん辞書が間違っていると言うことではなく、時代の変化で意味がズレてきてしまってるんじゃないかと。

 ま、それはとりあえず置いておきます。
 <ほのぼの>について考えるってのは、もしかしたら<セックス>、いや<セックスアピール>について考えるのと同意ではないか。
 え?何を言い出すんだ?と思われるかもしれませんが、まァ、ゆっくりと説明します。

 例えばです。とある女性がYouTubeを始めたとしましょう。
 彼女は、アタシも大好きな福井のカズさんが運営する「カズチャンネル」のような、<ほのぼの>を標榜としたような動画作りを目指しました。
 チャンネル登録者数は順調すぎるくらい順調に増えましたが、残念ながらコメント欄は<ほのぼの>とは程遠い、セクハラ紛いのコメントで溢れたのです。
 何故、彼女のチャンネルはこんなことになったのでしょうか?

答え:彼女が着衣でもわかるくらい、おっぱいが大きかったから

 たった、それだけで?何言ってんだこのエロジジイ、と思われるかもしれませんが、実際、マジでこんな感じなのです。
 人間というのは本当に浅はかなもので、目の前に<エロ>が転がっていると、どうしてもソコに意識がいく。
 つまり、何が言いたいのかと言えば、<ほのぼの>に<エロ>は天敵なのです。しかも先ほどの例でもわかるように、作り手にエロを押し出すつもりがあるかないかは一切関係ない。ほんの少しでも、しかも対象者がマイノリティと言えるフェティシズム的なものだったとしても難しい。
 こう言えばわかりやすいか。
 要するに<ほのぼの>を実現させるためには徹底的に、一縷の隙もないほど完璧に<エロ>を排除する必要がある、と。

 他の要素、例えば一見ほのぼのと相性が悪そうなサスペンスフルなものとか、あとはユーモアだとかは、実はほのぼのとそこまで相性は悪くない。
 もちろん残虐性の高いものがほのぼのと相反するのは当然なのですが、残虐性は意識的に排除することは可能です。
 でもエロを意識的に排除するのはかなり困難で、YouTubeで言えば、まだ男性ひとりだけ、とかなら排除しやすいけど、女性、それも見栄えの良い女性になると難易度が一気に上がる。に加えて「おっぱいが大きい」体型だと、もう<ほのぼの>は絶望的、と言っていい。
 こうなると開き直って胸元が開いた服を着て「エロ売り」にした方が、逆にセクハラ紛いのコメントは減るとさえ思うのです。

 冒頭に「サザエさん」のことを書きましたが、たしかにサザエさんの世界から<エロ>は徹底排除されている。ココに原作とアニメの違いについて書きましたが、原作、アニメ問わず、どちらもエロが排除されているのは共通している。
 ただ、下衆の勘繰りくらいは可能っちゃ可能で、寺山修司は「サザエさんの性生活」のという一文をしたためたことがあります(1972年発表)。もちろん、サザエとマスオのセックス事情を「かなりマジメに」論じたものですが、寺山修司がこの文章を書いた頃はまだセックスレスなんて言葉はなく、3人、4人、子供がいるのが当たり前だった。(実際、タラオの妹として「ヒトデ」という子供をもうけている)
 サザエとマスオは新婚といっても差し支えない。しかも両者ともまだアラサーで「まだまだお盛ん」な年頃と言えるわけで、寺山修司がソコに目をつけたのは、当然と言えば当然です。

 ある意味、エロがある限りは<ほのぼの>にはならない、というのを逆利用したのが「クレヨンしんちゃん」だと思う。
 原作の「クレヨンしんちゃん」は週刊漫画アクションという大人向けの雑誌で連載されていたように、とくに連載開始当初は毒とエロギャグが笑いの中心だった。それがアニメ化されることよって、つまりお茶の間に入っていくために毒とエロを大幅に後退させたわけです。
 それでも完全にエロを排除したわけではなく、ほのかなエロ要素を残存させることによって<ほのぼの>を遠ざけた。(ただしほのぼのとは別の感動路線は受け入れている)
 ほのぼの、は難しいものであると同時に「ヌルい」とも「ユルい」とも評されがちで、自作を<ほのぼの>と言われることを好まない作者もかなりいる。
 つまり<ほのぼの>は、とくに刺激を求めるというか、刺激的であればあるほど高評価を下しかちな若者に「馬鹿にされやすいもの」でもあるんです。だからほのぼの路線を避けようとする、というのも、十分理解出来ることではあります。

 一方、自ら積極的にほのぼの路線に乗ったのが「ちびまる子ちゃん」です。
 「ちびまる子ちゃん」の連載初期は、毒気さえ感じるほど皮肉きわまる視点から描かれたシニカルな作風で、また「不思議の国のアリス」的な、悪夢的なファンタジーでもありました。
 アニメの方は第一期が昭和ノスタルジーを全面に押し出し、第二期になって本来の皮肉さと悪夢的ファンタジーを押し出すようになった。ま、これがアニメ版「ちびまる子ちゃん」の全盛期でしょう。
 ところが途中からあきらかに、「サザエさん」ともまた違った、ほのぼの感のある話が中心になり、全盛期は見てたけど、というような人が久しぶりにアニメの「ちびまる子ちゃん」を見て、あまりにもユルい感じに茫然としたのではないでしょうか。

「クレヨンしんちゃん」は<ほのぼの>を拒んだ
「ちびまる子ちゃん」は積極的に<ほのぼの>路線に進んだ


 両作者とも何故か早逝されたのですが、それでも路線続行、もしくは路線変更の時点ではまだ存命で、となるともちろん作者の意思によって方向性を決めていたはずです。
 しかしまた、こうも言える。作者の意思関係なく、エロネタがある時点で「クレヨンしんちゃん」はほのぼの路線は無理で、原作アニメともにエロ要素が皆無だった「ちびまる子ちゃん」はほのぼの路線への変更が可能だった、と。
 どちらも元々毒気の強い作品だったのに、エロ要素の有無で、ほのぼの路線に変更可能かどうかが決まったとも言えると思うんです。

 いや、「ちびまる子ちゃん」がほのぼの路線に乗ったのは、もうひとつ理由があると思う。
 同じさくらももこ作「コジコジ」ほどではありませんが「ちびまる子ちゃん」も十分<悪夢的ファンタジー>の要素があり、かなり色濃く出たエピソードもあります。
 この<悪夢的ファンタジー>と<ほのぼの>、一見相反するようですが、実は相当親和性が高い。このふたつは表裏一体、紙一重だと思うんです。
 さてここでもうひとつ作品を挙げたい。
 サンリオキャラクターの中でも長期に渡ってずっと人気を保っている「マイメロディ」(以下、マイメロ)です。
 マイメロは「赤ずきんちゃん」をイメージして創作されたキャラクターらしいですが、いつしか「赤ずきんちゃん」路線はどっかに行ってしまった。マイメロのカラーも赤ずきんの<赤>から<ピンク>に変更になった。

 こうしてどんどん<ほのぼの>というよりは<ふわふわ>したムードが濃厚になったのですが、そうした路線変更とアニメ化が決定打になってマイメロの人気は確定的なものになったんです。


 サンリオキャラクターはOAVのような形でのアニメ化はありましたが、テレビで連続アニメ化されることはほとんどなく、2005年から放送された「おねがいマイメロディ」で「サンリオ作品には珍しい、世界観の拡充が極限までになされる」ことになったのです。
 「おねがいマイメロディ」では主人公のマイメロのライバルとしてクロミというアニメオリジナルキャラクターが作られた。後に逆輸入されて正式にサンリオキャラクターになったのですが、このキャラクター設定がかなり面白いのです。
 何しろマイメロが<ふわふわ>したキャラクターなので、ライバルとして当然「マイメロにたいして空回り気味に一方的に張り合う」というキャラクターになったのですが、表面上は<悪>を装いながらも根っこの部分は<いい子>で、つまり<偽悪>とも言えるキャラクター造型になったのです。
 ライバルのクロミが<偽悪>になったせいか、主人公のマイメロはどんどん<偽善>に近くなった。表向きは<ふわふわ>を装いながらもどこか腹黒い、サイコパス的なところがある、というように。

 <腹黒さ>や<サイコパス>など、どう考えても<ほのぼの>と相性が悪そうなんですが、これがまったくそうじゃなかった。
 てな話をPage2でやります。