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マストアイテムを探せ!
FirstUPDATE2021.12.5
@Classic #音楽 #1970年代 #1980年代 #物理メディア 全2ページ POPEYE およげ!たいやきくん 黒ネコのタンゴ ピンクレディー ルビーの指環 寺尾聰 ラッキーパンチ コレクターズアイテム PostScript #1950年代 #1990年代 #2020年代 #iPhone #おもちゃ #ゲーム #映画 #本 #雑誌 画像アリ 動画アリ

 スグレモノって、わかりますか?ま、漢字で書けば「優れ物」ってことになるんだろうけど、優れ物とスグレモノではまるで違う。ニュアンスが違うというよりは、意味そのものが違うような気がするわけでね。

 正確にいつかは知らないけど、スグレモノって言葉を<発明>したのはPOPEYEらしい。セーラーマンじゃないよ。雑誌のPOPEYEね。
 POPEYEは若い男性向けファッション誌としてスタートしたわけですが、その後ファッションだけにとどまらずライフスタイル全般にも首を突っ込み、やがて「カタログ文化を作り出した雑誌」とまで言われました。
 もうカタログ文化って言葉自体通じないだろうけど、要するに「ライフスタイルのカタログ化」で、服から持ち物、挙句はデートコースやセックスの仕方に至るまで、雑誌内で「定番」を作ってしまった。
 本来自分で考えるべきことまですべてマニュアル化して、まるでマニュアルを読む如くライフスタイルをおくる、そういうのを総称して「カタログ文化」なんていったわけです。

 しかし当たり前ですが、定番を作るには読者をノセなきゃいけない。つまりその気になるように誌面を作らなきゃいけないわけです。
 読者をノセるため、「気分は◯◯」とか「◯◯大好き少年」みたいな、いわゆる「POPEYE語」みたいなのを次々に作っていった。例えば「これを着ればまるで西海岸で戯れるヤツらみたいになれるぞ!」ってのなら「気分は西海岸」と表現するわけです。
 たしかにこれならわかりやすい。クドクドしてないのも雑誌のコンセプトにマッチしています。ま、下手に流行ってしまったので、今では古臭い表現になってしまいましたが。
 そんな中に「スグレモノ」というのがあった。
 と言っても別にたいしたことではない。つか高性能とか高品質と「スグレモノであるか否か」はほとんど関係ないと言ってもいい。だからスグレモノは優れ物とは違うんです。

 ではどういったものがスグレモノなのかと言えば、これはちゃんと書こうと思えばかなり難しい。調べてわかるってことでもないし。だからここからは私見です。
 まず、デザイン的に優れていなければならない。トレンドに沿ったものであるのはもちろん、定番品よりもデザイン的に劣ったものを紹介しても読者は食いつきませんから。
 そしてスグレモノのスグレモノたる所以は、ソイツが「ほんの少しだけ気が利いている」ものであることなんです。
 ほんの少しでいいんですよ。ジーンズなら「こんなところにポケットが付いてて便利」とか、万年筆なら「インク補充が意外とカンタン」とかね。そのレベルでいい。もちろん、実は定番モノよりも劣るところは隠蔽する。ま、それは所詮雑誌だからしょうがない。
 問題はそれを如何にして読者に魅力的に見えるようにするかなのです。
 「気の利いた」箇所はテキストで触れればいいけど、デザイン的な良さは写真に左右されます。
 だからメチャクチャ凝った照明にしたりして、極力カッコ良く写る努力をするわけです。
 メイン記事よりはるかに凝ったカッコ良い写真にすることによって、より「スグレモノ感」が引き立つというか。

 もうひとつ、何より大事なのは「定番の外し方」です。カタログ文化=定番を作りたがってる雑誌で定番を外すってのは変だと思うかもしれないけど、あえてそういうページを設けることで奥行きを出すってのは、まァありがちっちゃありがちな手法です。
 定番ではない=少なくとも現時点では流行ってない=まだ誰も持ってない=突出した存在になれる!みたいなね。それはそれで意味があると思うし。
 かと言って流行からかなり離れているものを紹介するわけでもない。ほんの少しだけズラしたってのが大切なのです。ズレすぎたらたんなる大ハズシ野郎になるだけだからね。
 トレンドには沿ってるけどマイナーな存在、そこが大事なわけで。

 当然、定番があるからこそ定番外しが成立するのですが、では定番=誰でも持ってるものか?というと、それもちょっと違う。
 例えばリーバイスの501。今はどうかは知らないけど、アタシの大学時代は定番中の定番ジーンズでした。
 じゃあみんながみんな、501を持ってたのか、履いていたのかというとそんなことはない。あくまで「持ってる人が多かった」ってレベルにとどまる。
 定番のさらに上、となると「マストアイテム」ってことになる。ま、実際には雑誌などで「マストアイテム」なんて言葉が使われる時は「(これが今の時代の)マストアイテム(になるべきものだ)」ってことが多いですし、冷蔵庫や電子レンジレベルで本当に持ってるのが当たり前ってモノになると、もうそれは生活必需品です。
 今の時代で生活必需品と言えるのは、例えばスマホなんかは完全にそうです。んで実際、スマホのあるなしで生活が変わるのかというと、変わる時代になってるとも思う。
 しかしね、生活必需品とマストアイテムでは、やっぱり、またぜんぜん違うのですよ。
 マストアイテムってのは「生きていく上で必須アイテムではない。持ってないからといって社会生活に支障をきたすわけではない」ものでなければならないのです。

 さて、長々と前置きを書いてきましたが、今回のテーマは「マストアイテム」です。
 生活必需品じゃない。定番でもない。ましてやスグレモノでなどあるわけがない、そんなものなどあるのか、となると、あるわけで。
 ただこれ、ちゃんと考えるとわりと面白いんです。下手したら「マストアイテム」という言葉から「日本という国」が見えてくるような気さえしているのですよ。って大仰な話だけど、とにかく始めます。

 まずアタシが「マストアイテム」といってパッと思いつくのはレコードです。
 レコードの場合、どれだけ売れようが生活必需品ってことにはなりません。それは過去に「レコードは生活必需品ではないのだから物品税の課税対象」となっていたことからもあきらかです。(物品税は消費税導入時に廃止された)
 「生活必需品じゃないのに」「持ってない方がおかしい」超特大ヒットしたレコードは完全にマストアイテムに当てはまるんじゃないかと。
 ここでレコード時代、つまり音楽メディアがCDになる前の「超特大ヒット曲」を挙げてみます。

・黒ネコのタンゴ
・およげ!たいやきくん
・一連のピンクレディーの楽曲
・ルビーの指輪


 ま、だいたいはこんな感じですか。
 単純な総売上枚数だけでなく、もっと瞬間最大風速的な話題性まで加味するとこういうラインナップになるはずです。
 念の為書いておけば、「黒ネコのタンゴ」と「およげ!たいやきくん」は準童謡、もしくは新童謡であり、ココにも書きましたがピンクレディーのメインターゲットは小学生でした。
 となると、どうしても「ルビーの指環」が浮いて見える。他があからさまな<子供向け>なのに「大人のロック」を標榜して制作されたとおぼしい「ルビーの指環」のせいで「マストアイテムと言えるレコードはすべて、子供向けとして制作されたものだ」と言えなくなってしまいます。
 が、本当にそうなのか。つまり「ルビーの指環」の購買者層は大人だったのか、これはリアルタイムで「ルビーの指環」狂騒曲を見てない人には飲み込みづらいかもしれないなと。

 いやマジで、そもそもの話「ルビーの指環」こそ、何であそこまでヒットしたのか、リアルタイムで味わってない人には、何のこっちゃさっぱりわからないのではないでしょうか。

♪ ン~ くゥもォりィ がッらッすのッ
  むッこッおはッ かッぜッのまッち


 たしかに洗練された「大人のロック」になってるし、楽曲そのものは今の感覚でも良く出来ている、とわかってはもらえるんだろうけど、何しろただのヒットじゃないですからね。もう、文句なしの特大ヒット。
 この曲は所謂サビがない。AメロとBメロを繰り返すだけです。ま、普通はね、サビのない曲はあまり大衆的とは言えないはずなんですよ。なのに特大ヒットですからね。

 作曲とボーカルを担当した寺尾聡は人気俳優ではあったけど、それこそ後に「ルビーの指環」をカバーした福山雅治のようなタイプの人気ではなかったし、というか立ち位置的には今とそんなに変わらない。たしかに当時の出演作はアクション物が中心だったけど(当時石原プロモーション所属だったからね)、主演ではなく脇を固めるタイプの役者でした。この辺は父親(宇野重吉)譲りというか、鈍く輝く、いわゆる<いぶし銀>の存在だったんです。
 また寺尾聡はかつてフォーク寄りのグループサウンズ「ザ・サベージ」(「♪ そよ風ェがぼォくにィくれェえた~」って出だしの「いつまでもいつまでも」で有名)に所属していましたが、「ルビーの指環」を歌った頃にはすでに「元・ミュージシャン」というイメージは大衆から抜けた頃でしたし。

 地味な俳優が、昔とった杵柄でレコードを出す。ま、これはいつの世にもあることです。そんなことを言えば、アタシの敬愛する植木等も「渋い役者」になった後で「スーダラ伝説」をヒットさせたんだから、似たような足跡だったと言えるのかもしれない。
 けど、やっぱり、そういうことじゃないんですよ。
 植木等は言ってもかつてはスーパースターだったわけです。「主演・植木等」というだけで映画館に観客がつめかけた時代があった。
 けど寺尾聡はそうじゃない。「ザ・サベージ」を辞めてからは「おくさまは18歳」で冴えない男を演じたのが印象に残るくらいで、たしかにフィルモグラフィーを見ると大河とか<それなり>に出てるけど、アタシが子供だったことを差し引いても印象がない。
 その後石原プロモーションに所属したことで、感覚としてはいきなり「西部警察」のようなアクションドラマに出るようになった、みたいな感じでした。

 何だか寺尾聰をディスる方向性みたいだけど、何が言いたいのかというと、寺尾聰の芸能界における立ち位置と「ルビーの指環」の特大ヒットとの因果関係はない、ということをね、言いたかったわけで。
 じゃあ、何で、売れたのか、そして話が途中になっている、制作側の狙い通り「購買者層は大人」だったのか、その辺りをPage2で探っていきます。