さまぁ~ずの三村が「オレら世代にとったら「仕事ギチギチで寝る時間もない状態」ってのは、イコール、ピンクレディー状態」みたいなことを言ったことがあります。
そういえば、たしか「驚きももの木20世紀」のピンクレディーの回だったと思うけど、ゲストの新沼謙治が「よく(最近)仕事が少なそうで大変ですね、なんて声をかけられるけど、とんでもない。売れてないより売れてる方がよほど大変なんだから。ハタで見ててピンクレディーは本当に大変そうだった」みたいな話をしてたように憶えてる。
とにかく、一定以上の年齢の人にはピンクレディーと言えばヒット曲の多さでも、アーティストとしての能力でもなく、とにかく寝る間もないほど忙しかった、というようなイメージなのです。
このイメージがどれほど強固のものか、それはピンクレディー全盛期に子供だったさまぁ~ずと、ほぼピンクレディーと同世代で数々の番組で共演してきた新沼謙治がそう言ってたってだけで証拠としては十分でしょう。
ピンクレディーの全盛期は1977年から78年にかけてだと思う。1979年にアメリカに進出して以降、露出が減ったためか「第一線から退いた」と目されるようになり、帰国後はすでに往時の勢いはなく解散につながった。
しかし、1977年からの2年間の勢いがあまりにも凄まじく、まさしく<ピンクタイフーン>と呼ぶに相応しいレベルで売れに売れたんです。
老若男女問わず、これほど爆発的に売れた芸能人をアタシはひとりも知らない。んなもん、ライバルと言われていたキャンディーズはもちろんのこと、1960年代のコント55号、1980年代のザ・ぼんち、1990年代の小室哲哉や安室奈美恵、最近で言えばフワちゃんなど、悪いけど、こと<勢い>だけで見れば問題にもならない。
デビューからたった3年でアメリカ進出したのもある意味当然で、レコードもテレビも完全制覇し、映画にまで出て、もうこれ以上日本でやることがないところまで到達したんだから。ま、もし無理矢理当てはめるならイチローが一番近いケースだと思うわけで。
ただし、その勢いがあまりにも凄まじすぎたせいで、<芸>(歌唱力やダンスはもちろん、芸能人として一番大切な人々を惹き込む力)の評価はどこかに置き去りになってしまった。
ピンクレディーを裏方から支えたスタッフは実に良い仕事をしたんだけど、それもまた、あれから40年以上経ったのに、いまだにキチンとした評価をされていない。
とにかく令和になった現今でもピンクレディーと言えば「超絶売れっ子であるが故の忙しさの象徴」でしかないのです。
当時のピンクレディーがどれほど忙しかったか、どれほど寝る時間がなかったか、そんなことは今検証しても何の意味もありません。というか売れっ子が寝る時間もないってのは当たり前であり、ピンクレディーに限らずそんなエピソードは山ほどある。
谷啓が一方通行を逆走して警察につかまった時にスケジュール帳を見せると「ああ、もういい。次から気をつけて」って言われたとか、ビートたけしが「関西への営業が嬉しかった。何故なら新幹線の中で寝れるから」とか、そんな話は腐るほどあるわけです。
ならば、今こそ、ピンクレディーから<忙しさ>という視点を抜いて評価するべきなんじゃないか。何故ピンクレディーがあそこまで、芸能史の中でも突出したレベルで人気が爆発したか、そこの検証をね、やっぱやるべきなんじゃないかと。
しかし正直、アタシにはその資格はないし、ヤル気もない。
たしかにアタシの小学生の頃とピンクレディーの活動期間はピッタリ重なっており、しかも彼女たちのメインターゲットが小学生だったんだからドンピシャと言える。小学2年生の時に彼女たちがデビューして、解散したのがちょうど小学校を卒業するタイミング。そういう意味ではあまりにもキレイに当てはまる。
だから、当然のように、新聞のテレビ欄をチェックしてね、出演者のところに<ピンクレディー>とあれば、その時間になるとそのチャンネルに合わせた。
そこだけ取り出せば、資格十分っぽいんだけど、それだけっちゃそれだけです。
後年になって一度もピンクレディーについて調査も精査もしたことがないし、やろうとも思ったことがない。それどころかピンクレディー的要素がある女性デュオ、いや別に女性でもデュオでなくてもいいけど、そういうのに引っかかることもない。
つまり、今のアタシに何の影響も与えていないのです。そういう人間が大上段に構えてエラそうに<検証>するなんて、それは違うんじゃないかと。
これから書くことは検証ではありません。(だから「複眼単眼」カテゴリではない)
個人的に気になるところだけを抜き出して、自分なりの解釈を求めようとしたにすぎません。
それでも、このエントリを書くにあたって、リアルタイムで未発表だったものを含めて1981年に解散するまでのほぼ全レコーディング曲を聴き直したし、主演映画(「ピンクレディーの活動大写真」)も視聴した。(公開当時は観てないので<再見>ではない)
何が言いたいのかというと、これは単なる思い出話でも、いい加減な気持ちで書いたものでもありません。ただ、本格的な検証をするにはまったく調査も精査も足りないわけで、さすがに自分の中に強く影響されたものがない以上、これ以上はヤル気はないし、こういう形で自分のサイトに書くってのもね。いくらなんでも大規模すぎてウェブ上でやるには逸脱してしまう。(ま、カネをもらえるならやりますけどね)
しかもアタシが一番書きたいと思うポイントはすでに指摘されたものに過ぎない。つまりは新しい視点もないってことになる。
それでも、完全に、そこだけに焦点を絞ってね、書いてみようと。
アタシが思うポイントを指摘したのはコラムニストの泉麻人です。
泉麻人はコラムニストとして独立する前、TVガイドを発刊する出版社に勤務しており、その<ツテ>というか仕事絡みでピンクレディーの解散コンサートに行っています。
そして「泉麻人の僕のTV日記」というエッセイ集の中でもこの時の感想を書いているのですが、これがすごい。ただの解散コンサート観覧記の思い出にとどまらず「ピンクレディーとはかくなる存在だった」ということを的確に表現しているのです。
当日は、とんでもない大雨で、白いバレリーナのようなミニドレスを着たミーとケイはすぐにズブ濡れになった。(中略)が、生々しいオンナ、を感じさせるものではなかった。(中略)雨のなかで捨てられた2体のマペットが踊っている。そんな景色だった。
この引用の中にある
・2体のマペットが踊っている
そして
・生々しいオンナ、を感じさせるものではなかった
このふたつだけで「何故ピンクレディーが爆発的な人気を呼んだか」と「何故小学生に人気があったか」がすべて説明出来る。
ピンクレディー、この場合はミイとケイと書いた方がいいけど、ふたりは大半の楽曲で、半裸に近い衣装を着て歌い踊っていました。
にもかかわらず、アタシがまだ小学生だったことを抜きにしても、一切、<生々しいオンナ>=セックスとは結びつかなかった。その感想は当時の映像をあらためて見た今も変わらない。
下がかった話になるのを構わず書くなら、どれだけセクシーな衣装を着ようが、よしんば全裸になろうが、仮に性欲を持て余した若い男性であっても、マスターベーションの対象にはならなかったと思うんです。
これまで星の数ほど芸能人がいましたが、どれだけセックスアピールからほど遠いところにいる健全ムード溢れる女性芸能人でも、フェティシズム的な目で見れば、マスターベーションの対象になり得た。しかしピンクレディーの場合、どれだけフェティシズム的観点から見ても、マスターベーションの対象にはならなかった。
そもそも「ピンクレディー」という名前からして、むしろマスターベーションの対象になるようなセクシーデュオを念頭に企画されたのは間違いない(Wikipediaによるとカクテルの名前から命名されたらしい)。なのに、結果としてはその真逆になり、副産物として「小学生でも受け入れることが出来る」ものになったのが面白い。
さあ、問題はここから。何故ここまでマスターベーションの対象から外れる存在になったかです。
ピンクレディーのデビューはけして期待されてのものではなかった。先の泉麻人の著作から再び引用するなら
僕がピンクレディーを最初に観たのは「カックラキン大放送」ではないかと思う。(中略)キャンパスのアイドル通の間ですぐに話題になった。が、その話題の方向性というのは「アレ、ちょっとヘンだぜ」といったニュアンスのもので(中略)いわゆるキワモノ(中略)パッと1曲で消える存在、と踏んでいた。
いや、視聴者というか受取手に及ばず、関係者さえその大半が<キワモノ>としか思ってなかったと思う。
彼女たちの全盛期を支えた主要スタッフ、具体的には作詞を担当した阿久悠と作編曲を担当した都倉俊一は「自由にやらせてもらった」と言っていますし、これは振付担当だった土居甫も同様だったと思う。
ベテラン土居甫は、正統とはほど遠い、ある意味下品な振りを彼女たちに付けた。デビュー曲「ペッパー警部」での股をパカパカする振付など、普通ならただただ下品なだけです。
ここで土居甫の経歴とセンスが活きることになる。
「シャボン玉ホリデー」以来のキャリアのある土居甫ですが、後に「今夜は最高!」で顔出し出演するなど、バラエティ畑で鍛えられたせいか、かなりジョークのわかる人だった。
だから、かはわからないけど、結果としては「下品も極端にすれば冗談に近いものになる」=下品なイメージが退行する、というのを見事に証明した。
以降もピンクレディーの振付はすべて、行き過ぎたセクシー=ジョーク、を突き詰めたものになっており、後年の「お嬢様言葉で下ネタを連発する=下ネタがただの冗談にしか聞こえない」黒木香に近いのかもしれません。
要は「やってることはセクシーなはずなのに、淫靡さがまるでないから冗談にしか思えない」のです。だからセックスアピールを飛び越えて「面白い」になってしまう。
これらのことも「期待されてないが故」です。
主要スタッフが自由に遠慮なく、インパクト重視でやったら「セクシーなお姉さん」ではなく「存在自体が面白いヘンなキャラクター」になってしまった。
しかもそれを突き詰めると、もはや女性はおろか人間からも離れてしまったのです。
途中からは所属事務所もそれに気づいたのか、セクシーなお姉さんとはある意味真逆の「遠い星から来た宇宙人」扱いを許容するようになった。
こうなるともう、つまり地球人でないとするなら男性か女性かすら超越しているわけで、んなもん、マスターベーションの対象になるわけがないのです。
しかし本当のところ、人間だろうが地球外生命体であろうが、それすらも<言い過ぎ>で、全盛期のピンクレディーは「感情も何もない、ただ歌って踊るだけの無生物」にしか思えなかった。
つまり、泉麻人が評したように「2体のマペット」という表現が一番ピタリとくる。
昭和初期、エノケンこと榎本健一らが所属した「プペ・ダンサント」という劇団がありました。プペ・ダンサントはフランス語で、訳すると「踊る人形」になる。
もう、どのタイミングかはわからないけど、ある瞬間からピンクレディーのふたりは「生々しいオンナ」を捨てて「プペ・ダンサント」に徹しだした。それは女性らしさはおろか人間らしさの放棄でもあり、人前ではプペ・ダンサント=踊る人形として、スタッフにたいしては操り人形に徹したのです。
よく芸能人が「売れるためなら何でもする」と言いますが、ある意味ヌードになるなどを超えた「自分たちは人間ではなく人形なんだ」レベルで意思(というかエゴ)を抑え込んだ芸能人は他にいないと思う。「一寸の虫にも五分の魂」と言うけど、普通ここまで魂をゼロに出来るなんてあり得ない。
それでも、限界はある。本当の人形でない限り、スタッフたちの手から離れる毎に、彼女たちは自我を取り戻し、解散、という選択をしたのです。
彼女たちは自らの意思でプペ・ダンサントではなくなった。つまり人間に、もっと言えば女性に戻ったのです。
しかしあまりにもプペ・ダンサント時代が強烈だったせいか、何度も何度も再結成を要求された。何度か期間限定の再結成をした後、ついに永続的なピンクレディーとしての活動を再開するに至りました。
ただし活動を再開させたのはミイとケイというふたりの女性です。間違っても『2体のマペット』ではない。
もしかしたら彼女たちの中には「ピンクレディーとして活動するからには、もう一度プペ・ダンサントにならなければいけない」ってのがあったのかもしれません。
でも一度人間に戻ってしまった彼女たちは二度とプペ・ダンサントにはなれない。いくら当時の歌を歌って踊っても、そこにいるのは「生々しいオンナ」でしかない。しかもこう言ってはナンですが、かなりトウがたった女性として、です。そのせいで、全盛期には裏に隠れて見えなかった<下品さ>が浮き彫りになってしまった。
しかしそう思えば、全盛期のピンクレディーのすごさがよりわかる。
彼女たち自身でもピンクレディーの再現は出来ない。それは声がとかダンスのキレが、というレベルではない。ましてやいくらレベルが高い人たちが「第2のピンクレディー」を目指したところで、あそこまで自我を殺した完全なプペ・ダンサントになることも不可能ならば、それを100%活かせるスタッフもいない。
というか「第2のピンクレディー」を標榜した時点で期待度ゼロなんてあり得ず、つまりはピンクレディーの最初期のイメージであるキワモノではなくなるんだから。
えと、このエントリをアップした直後にTwitterにアップしたツイートを転載するのが一番のあとがきになるはずです。ので以下はツイートより。 <本文の主旨とは外れるので割愛したけど、いろいろピンクレディーの楽曲を聴いてみた結果、この人たちの持ち味は「マイナーコード」なんだよな。 マイナーコードで、今でいうところのアニメソングふうなのに良曲が集中している。> <エントリタイトルにしておいてアレだけど、そういう意味で個人的に「ピンクタイフーン」は失敗だったと思う。 いくら「in the navy」が「ピンクレディー」にソラミミしたからって、何もカバーする必要はなかった> <アメリカ進出云々よりも「ジパング」で勢いが落ちて「ピンクタイフーン」でトドメを刺されたってふうに思える。 つかどんなことがあっても阿久悠と都倉俊一を手放しちゃいけなかったんだよ。ましてやカバーなんて、ねぇ> <そもそもピンクレディーのターゲットは小学生なんだからIN THE NAVYとか知らないんだよね。 だからソラミミとか関係ない。ただただ、ピンクレディーらしくないとしか思わなった。で、ピンクレディーはもういいかなぁってなった。 ってのが当時小学生だったアタシの感想です> |
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