「スーダラ伝説」期の、つまり植木等ブーム再燃の頃に発売されたCDアルバムをあらためて振り返る第三弾です。
ただし今回のはブーム再燃期からはちょっとズレている。前アルバム「スーダラ外伝」から4年の歳月が経ってからのリリースだからです。
ま、でも近年リマスタリングCDが発売されたし、記念ってことで。
「植木等的音楽」の構想の元となったのは「Duets」だったと言われています。
もういろんな人が「Duets」って同コンセプト、同タイトルのアルバムを出していて、それこそフランク・シナトラからトニー・ベネット、日本でも山下久美子が「Duets」ってタイトルでアルバムをリリースしています。(ココに書いたけど、山下久美子の同タイトルのアルバムには植木等も参加している)
要は曲毎に異性(同性の場合もあるけど)のゲストヴォーカルを迎え、名曲をデュエットでカバーするって趣旨なのですが、「植木等的音楽」もアルバムタイトルこそ違えど、まァ「Duets」の亜種と言えるはずです。
完全にデュエットになっているかというと植木等ソロの楽曲も含まれているのですが、オープニングとクロージングの短い楽曲以外は全曲カバーである、という線は守られている。
デュエットの仕方も多種多様で、文字通りっつーか文句なしにデュエットと呼べるのは2曲だけ、あとはゲストがコーラスやセリフという形で参加したり、演奏で参加など、そういう意味では本家の「Duets」よりも面白いと言える。ま、どれが本家かはわからんけど。
それでは一曲ずつ見ていきます。
1.イヤ、どうも!(オープニング・ヴァージョン)
11.イヤ、どうも!(クロージング・ヴァージョン)
曲目が発表された時点でアタシはてっきり「日本一の断絶男」の挿入歌のカバーだと思ったんだけど(「どうもどうも」。名義は違うがこの曲も実質植木等の作詞作曲)、完全なオリジナルでした。
「ハイそれまでョ」のエンディングで呟いて以来、「どうもどうも」で具現化されたこの言葉は、実は植木等の名台詞のひとつだと思う。つかこれほど日本人気質をあらわしている風刺精神の強い言葉もそうそうない。
それを今アルバムでは逆に高らかに歌い上げるっていうね。単独で聴いたらどう思うかわからないけど、そうした植木等の流れを知っていたら、これはこれでかなり面白い。
2.新二十一世紀音頭 with 三波春夫
優れたコメディアン・ヴォードビリアンってね、張り合う相手がいた時に俄然輝きが増すものなんです。
エノケンこと榎本健一だって二村定一や柳家金語楼、広沢虎造を相手にした時には負けん気を発揮してより光っていたわけで。
植木等も同じで、三波春夫という稀代のエンターテイナーを相手にして、さらにパワーを増しており、ほぼ同じアレンジの原曲(「二十一世紀音頭」)よりはるかに出来が良い。
歌詞的に言えば<インターネット>ってなワードが入ってるのが、今となれば重要でして、植木等の生きていた時代とインターネットの時代は短いながらも重なっていたという証拠になってるっつーか。
そういやアタシは未見なんだけど、この曲のレコーディング風景が当時のワイドショーの芸能ニュースとして流れたことがあるらしい。
これ、誰か映像持ってないかね。というか植木等のレコーディング風景って見たことないんだよな。
4.FUN×4
たぶん、オチのセリフ同様、ファンハウスからのリリースだから選曲されたんだろうけど、これが意外なほど良い。
もちろん大瀧詠一の曲なんだけど、内輪受け感はほとんどなくて、というのも完全に植木等が持ち歌として手中に収めてる感じがあるんですよ。
何回聴いても可笑しいのが「♪ おッどりなッがらカッレッジィの~」の箇所で、植木等が歌うとどうしてもペアで踊るダンスではなく、例の<がに股踊り>を連想してしまう。
「ニッポン無責任時代」の「やせがまん節」みたいな感じで踊りながら「カレッジの名前を聞き出」すのもすごいけど、そんな奇異な野郎に教える女性も女性です。
しかし、だからこそ、恒久的なハッピーエンドの歌詞が違和感がないものになってるってのがすごすぎる。見事なまでの「割れ鍋に閉じ蓋」理論カップルですよ。
5.ナイアガラ・ムーン
このアルバムをプロデュースした草野浩二は「植木等シナトラを歌う」みたいなのをやれば良かったと語っていますが、たしかにこの曲はシナトラの持ち歌じゃないし、つかこれも大瀧詠一のだし。
けど結果的には「マジメじゃないけどフザけてもない」植木等が歌いたがったようなジャズふうナンバーに仕上がっています。(あくまでジャズ<ふう>だけどね)
6.旅愁 with 谷啓[Tromborn]
本来は谷啓のトロンボーンと植木等のギターのセッションでやる予定だったのが「長く弾いてないのでギター演奏の自信がない」と植木等が断り、一度はペンディングになったものを「せっかくアレンジまで完成しているのだから」と植木等のヴォーカルと谷啓のトロンボーンが絡む形で実現した、らしい。
個人的に大好きな曲で、老境に達した植木等が歌ったことで初めてこの歌の歌詞「恋しや故郷、懐かし父母」の意味がわかったという。
急に話が変わるようですが、1970年代前半に当時人気絶頂だった天地真理を主演に据えたバラエティがTBSで放送されていました。
定期的にタイトルを変えていたのでどれかははっきりしないんだけど、このシリーズに谷啓は準レギュラーで出演しており、その録音が某ユーチューブにアップされてて。
んでその中に「旅愁」を「天地真理他が歌い、谷啓がトロンボーンで絡む」のがあったんですよ。つまりこれもまた「スーダラ伝説」同様、いきなりこんなものが出来たわけではなく、ちゃんと先駆的作品があったというね。
7.しかられて
「パパと一緒に~植木等と上原ゆかりの童謡集~」にて童謡のカバーをしていましたが、これは徹底的にシンプルなアレンジで「メロディを聴かせる」のに徹しているのが心地よい。
8.花と小父さん with 裕木奈江
「どうしても花と小父さん」でも書いた通り、これはエクスキューズ的な存在だなぁ。たぶんこれを入れるからアルバムをやると了解したんだろうし。
相手が裕木奈江ってのは今考えるとフシギな感じだけど、何か時代が出ててこれはこれでいいんじゃないでしょうか。
9.サーフィン伝説
「ひとつはメドレーを入れよう」ってことなんだろうけど、ま、完全に大瀧詠一の趣味ですね。
もともと植木等には<夏感>みたいなのがない人だけど、これも皆無に近いのが逆にすごい。
あ、ぜひ「植木等ショー」で谷啓と伊東ゆかりと歌った「夏の歌メドレー」と聴き比べて欲しいんだけど、これ、DVD未収録なんだよね。映像はしょうがないとしても音源だけでも何とかならないもんかしらね。
3.針切じいさんのロケン・ロール(オリジナル・ヴァージョン)
10.針切じいさんのロケン・ロール(アルバム・ヴァージョン)
今でも憶えているけど、ダウンタウンが司会をしていた「HEY!HEY!HEY!」でのセールスランキングのコーナーで植木等の名前が見えてひっくり返ったんですよ。
この頃の植木等は「スーダラ伝説」の余波が終わった、まァいや小康期で、セールスランキングに入るようなCDを出すなんて思ってなかったし、アニメの「ちびまる子ちゃん」もちゃんと見てなかったので、まったくこんな楽曲の存在を知らなかった。
結果的には植木等最後のヒット曲ってことになったのですが、60代後半になってまだヒット曲を出したのは驚異的ですよ。なんともはや。
アルバムとしての完成度は「スーダラ伝説」と「スーダラ外伝」よりもはるかに上で、大瀧詠一の<手立て>が手練てきたせいか、植木等もかなり納得してノッてる感があります。
たしかに有名曲は入ってないけど(ま、「針切じいさんのロケン・ロール」はヒット曲だけどさ)、植木等のヨサがかなり詰まった佳作になってると思うし、ファンであれば持っておきたいモノになったって感じか。
けどさ、何というか、ようやく、なんだよね。こんな感じで「スーダラ伝説」の時からやってくれてたら良かったのに、と思うのは欲を張り過ぎかね。
「昔のヒット曲に頼らない」「それでいて最高に植木等らしい」のが自身最後のアルバムになった「植木等的音楽」ですが、とにかく聴いて欲しいのでこんな考察を書いてみました。 「植木等ショー!クレージーTV大全」の鼎談であったように「植木等フランク・シナトラを歌う」は実現して欲しかったな。ま、「植木等ディック・ミネを歌う」でもいいけど。 ベストは「植木等スタンダードスイングジャズを歌う」だけど。 |
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