本サイトに「てなもんや三度笠」のことは書かせてもらったのですが(ココ)、今回はクレージーキャッツに焦点を絞って書いてみたいと思います。
クレージーキャッツ単独として、またはメンバー個々に「てなもんや三度笠」に何度出演したのかはつまびらかではありません。
この番組はマニアのような人が現今非常に少なく、また放送リストのようなものも公開されていないので、公式非公式問わず放送リストは存在しないってことになるわけで。(もちろん澤田隆治はデータを持ってるんだろうけど)
植木「「てなもんや」にも僕ら出してもらいましたよ。クレージーキャッツ全員で」(「文字起こし「植木等 X 藤田まことin 1991」」・1991年9月22日放送「花王ファミリースペシャル・皆んながお呼びです!植木等のスーダラ伝説」からの書き起こしより)
この流れの後、「てなもんや三度笠」のVTRが流れたのですが、それはクレージーキャッツ出演回でも植木等出演回でもなく、藤田まことと財津一郎のシーンだったんです。
だから、アタシはこれを見て、ああもう、クレージーキャッツ出演回は現存しないんだと思っていたわけで。そりゃあ、出演シーンがあればそれを流すでしょ普通は。
1970年代までのバラエティ番組の大半は消去されており、「てなもんや三度笠」も原則、ディレクターの澤田隆治が<個人的に>VTRを購入し、録画したものしか残っていません。ちなみに、Wikipediaによると再生可能なVTRは34本らしい。
300回以上の放送回数を誇り、その中で約1/10しか再生出来ないVTRの中にクレージーキャッツが出演した回があるとは思えず、もっと言えば澤田隆治がVTRを購入したのは番組の末期だということを考えても、可能性は皆無に近いんじゃないかとね。
というのもね、これは何で知ったか、たしか「植木等ショー!クレージーTV大全」の調査の時だったと思うけど、どうも1965年前後にクレージーキャッツ全員で「てなもんや」に出た、というのはわかった。わかったんだけど、それ以上がわからない。「てなもんや」の場合、サブタイトルから出演者をはかるのは不可能であり、もしかしたらゲストまで書いてくれてたテレビ番組欄もあったかもしれないけど、あの時はあまりにもスケジュール的にタイトで調べ切れませんでした。
ただ、1965年前後というと、どう考えても澤田隆治がVTRを購入する前であり、現存する可能性は限りなくゼロという判断をするしかなかったんです。
ところがです。澤田隆治が<個人的に>録画した以外にもたった一本、キネコという形で残っており、それは過去に一度だけメディア化されたことがありました。
実はこのキネコにはもう一本記録されていて、2019年、時代劇専門チャンネルでその回(第164回「賤ヶ岳の夢」)が放送された。これが何とクレージーキャッツ出演回だったんです。
それにしてもこんな偶然があるか。現存する映像はコレを除いて、そして再生可能不可能問わずすべて200回より後の回で、1~199回の、いわば「てなもんや」が脂が乗った頃で現存するのはたった一本。まァいや1/200の確率でクレージーキャッツ出演回が残ってたんだから、クレージーキャッツフリークにとっては奇跡以外の何物でもありません。
さて肝心の内容ですが、ちょっとビックリするほど面白かった。あくまで現存する映像だけの比較になりますが、もしかしたら「シャボン玉ホリデー」よりも面白いかもしれない。
ま、言うまでもなく「てなもんや」は関西コメディです。しかし、例えば吉本新喜劇の中にクレージーが混入しているみたいな違和感はまったくない。つかこれはココでも書いたけど、そもそも「てなもんや」自体、かなりモダンな方向性の番組で、それこそ吉本新喜劇とは根本的に異なります。
まず香川登志緒による台本がすごい。つかキャラクターの割り振りが完璧なんです。谷啓によって全体像が作られ、犬塚弘が全体の進行をやり、桜井センリがそのサブ。そこに植木等が登場することで<状況>が生まれる。さらに安田伸が進行させるキャラになり、ハナ肇の登場でドラマが大きく動き出す。それに拍車をかけるのが石橋エータローっていうね。
つまりメンバー7人を誰も余すところなく完全に使い切っているんですよ。
それに澤田隆治がクレージーの登場に嬉々としているのがよくわかるのがウレシイ。
澤田隆治はクレージーを買っていたというか、「ニッポン無責任時代」を激賞していました。だから何度も失敗を繰り返していた映画版「てなもんや」で、たった一本古澤憲吾が監督をつとめた作品(「幕末てなもんや騒動」)が作られる時に「古澤憲吾さんが監督をされるなら」と素直に喜んでいたらしい。
点数が辛いことで有名な澤田隆治が、一部のファン以外からの評価が低い古澤憲吾を買っていたのはちょっと意外な感じがします。しかしそんな澤田隆治だからクレージーのキャラクターを完全に掌握した上で演出したことは確実です。
とくにすごいのが植木等の登場シーンで、あのオーラの出方はちょっと「ニッポン無責任時代」のファーストシーンを彷彿させる。マジでこれを見るだけで植木等が<スター>ではなく<スーパースター>だったのがわかるくらいでして。
歌も(おそらく現場録音で)歌っており、まずは谷啓が「ホンダラ行進曲」を歌いますが、1コーラス目(レコードテイクで植木等が歌った歌詞)を歌うのが非常に珍しい。
植木等の「ゴマスリ行進曲」は、まァいつもの感じですが、動き回りながら歌っているのが可笑しい。
最後は、これはアタシも結構ビックリしたんだけど、ハナ肇と石橋エータローで「悲しきわがこころ」を歌ってるんですよ。「悲しきわがこころ」は映画の中で歌われたことがなく、映像で歌唱シーンを見るのは初めてだった。
それだけでも新鮮なのに、石橋エータローが映像付きのソロで歌っているのも、たぶんこれが唯一じゃないでしょうか。
他にもオープニングの似顔絵とか、石橋エータローのジャズ喫茶時代を彷彿とさせるようなハッチャケぶりとか、植木等とハナ肇の息の合い方とか、書き出せばキリがないほど見どころ満載で、いちクレージーフリークとして、こんな映像が現存していたことに感謝したい。
未見の方、これは絶対に手元に持っておくべき映像ですよ。