このライバル感よ
FirstUPDATE2025.1.9
@Scribble #Scribble2025 #漫才 #笑い #テレビ #吉本 #芸能人 #鶴瓶上岡パペポTV @なつかしい風来坊 M1グランプリ 令和ロマン エリート 高比良くるま バッテリィズ エース 見た目 ボケとツッコミ 太夫と才蔵 真空ジェシカ わざとらしさ 単ページ

ま、「ルックバック2024」でもちょろっと書いたのですが、もうちょっとM-1グランプリについて書き残しておこうと。

というのもTVerでアナザーストーリーを見たのですが、令和ロマンの完成って高比良くるまの「見た目」の完成だったんだな、と。
令和ロマンが初めてM-1グランプリに参加した時の映像も流れていたのですが、まず感じたのは「くるまがぜんぜんくるまじゃない」ってことで、けむりはあんまり変わってないんだけど、くるまはもう完全に別人で、もうモブ感がすごい。何と言うか、十把一絡げの新入社員って感じで、オーラもヘッタクレもないんですよ。

ところが、あの髪型にして、眼鏡を装着したことで、「あのくるま」になった。
モブ新入社員が超有能エリートサラリーマンに変身したかのようで、それが合ってる。もともと高学歴コンビなので、あの「有能なんだろうけど冷徹非道」な見た目の方がしっくり来るんですよね。
しかも、実はくるまってメチャクチャ声がいいんです。これまた仕事がデキそうな声で、こんなキャラが狂った言動をするだけで面白そうになる。

漫才の難しいのは「ネタが面白い」だけでも「技術が高い」だけでもダメで、やっぱフラがないとどうしようもない。つまり、何もしてない状態、センターマイクの前に立った瞬間から「何かやってくれそう」みたいなのがないと客がノッてこない。
相当試行錯誤したんだろうな、と思う。たぶんネタや技術には絶対の自信があったはずで、でも<殻>を破るには、ある意味完成されているけむりではなく、ボケのくるまのキャラを何とかしなきゃいけない。
そこを見事にブチ破ったのはね、本当にすごいな、と。

しかもM-1グランプリ2連覇を達成したことで、エリート風漫才コンビは本当の、エリート中のエリートになった。
こうなると、アングラ寄りの真空ジェシカでは太刀打ち出来ない。アングラはどこまで行ってもカウンターカルチャーでしかなく、メインストリームが輝いて初めて自分たちも輝くのです。
そうなったら、エリートに太刀打ち出来るのは、徹底的な雑草で、エネルギッシュで、人間としての業を背負ったような男にしか無理なのです。
でも令和の今、そんな人材が、と思っていたところに登場したのがバッテリィズだったわけで。

エースは早くから売れると目されていたようで、相方の寺家は先輩芸人からずっと「エースが売れないのはお前が書くネタが面白くないからだ」と言われ続けていたらしい。
だからバッテリィズというコンビは、とにかく「エースをどう活かすか」が勝負というか、そこで試行錯誤していたはずで、そこでたどり着いたのが「ボケもツッコミもない漫才」だったんだろうな、と。
「アナザーストーリー」で「ツッコミのエース、ボケの寺家」という紹介のされ方で、メチャクチャ違和感があったんだけど、もうあれこそ、アタシがずっと言ってる、漫才の本来の形なんですよ。

もう、20年以上前からアタシは「漫才コンビをボケとツッコミに分けるのはおかしい」と言い続けてきて、本来漫才は「話を進める方」と「話の腰を折る方」に分けるべきなんです。で、話を進める常識人というか博識な方が太夫、知識が薄い、結果として話の腰を折ってしまう方が才蔵だと。これにかんしては「複眼単眼・鶴瓶上岡パペポTV」にしっかり書いているので御一読のほどを。

この関係性がちゃんとしていれば、特段ボケもツッコミもいらない。というかあからさまなボケやツッコミは「わざとらしさ」と表裏一体で、少なくとも会話からは逸脱しています。
会話から逸脱する、となったら多少なりとも演劇的な要素が必要になるわけで、実際、令和ロマンは、というか高比良くるまは圧倒的な演技力で漫才を高めていった。
しかし演劇的漫才になるとエースのようなキャラは死んでしまう。つまり「よく出来たおはなし」になればなるほどバッテリィズは面白くなくなるわけで、年長でありブレーンでもある寺家が如何に頭を悩ましたのか想像出来ます。だって「面白いネタでなければいけないけど、面白いおはなしではダメ」なんだから。

そして苦心の末にたどり着いたのが、漫才の本来の形である「太夫と才蔵」スタイルだったってのが面白い。
アナザーストーリーを見てて痛感したけど、もうエースはキャラも生い立ちも完璧で、あんな主人公感のある芸人はそうそういないですよ。
そしてキャラと経歴だけでなく実績も超エリートとなった高比良くるまとの対比で考えたら、こんな理想のライバル関係はないぞ、と。

何から何まで違う、くるまとエース。アナザーストーリーの中でくるまが「何かメチャクチャ仲良くなれそうな気がする」と言っていたけど、何だか山田洋次の「なつかしい風来坊」のような、妙に惹かれ合うエリートサラリーマンと粗暴で気のいい男みたいな感じで(さすがにエースに粗暴さはないけど)、この同い年であるというふたりが漫才界をリードしていくような気がして仕方がない。つまり令和ロマンとバッテリィズがどちらも頑張れば漫才という芸は安泰だわ、とね。

そしてある意味一番オイシイのが真空ジェシカで、アタシは「ルックバック2024」で「どうもガクが合わない」と書いたけど、どちらの勢力にも引っ張られない、第三の存在としては真空ジェシカほどの適材はいない。主役にはなれないけど常に一定の距離感で一定の輝きを得るポジションを獲得したと言ってもいい。ま、本人たちはそれでは不満だろうけど。

そういう意味で、2024年のM-1グランプリは「漫才の未来が見えた」非常に大きな意義のある大会になったと思う。
ここにきて、M-1グランプリもだし、近々書きますが紅白が復活傾向にあるのは非常に喜ばしい。ま、それもこれも、まだまだ出演者におんぶに抱っこなんでね、テレビが復活するかと言われると、なんだけど。







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