これはあくまで「フィクション」としての話であってリアルの、つまり<戦争をするための>理由付けの話ではない、というのを了承していただいた上でお読みいただきたいと。
とは言えね、フィクションとリアルをゴッチャにしたがる人はいつの世にもいる。
黒澤明の「七人の侍」は「侍たちが戦うための理由付け」にかんして相当考えて作られているのですが、公開されたタイミングが悪すぎた。いや良すぎたというべきか。
「七人の侍」の公開は1954年4月26日です。んで自衛隊の発足が1954年7月1日。当然自衛隊の前に警察予備隊なんかがあったのですが、これを自衛隊として<格上げ>することには喧々諤々があったわけで、つまりはそんな最中、もっと言えばほぼ自衛隊になるのが決まった頃に公開されたと。
だから「七人の侍」公開当時、散々「再軍備賛成映画」と叩かれた。
黒澤明や脚本家陣にはそうした意図はまったくない。ただただ「侍たちが戦う理由付け」が欲しかっただけです。要するに再軍備云々はただのコジツケでしかないんだけど、この手のフィクションとリアルをゴッチャにしたコジツケをする人は本当にいつの世にもいるわけです。つか今でも、SNSを見ればわかるように、もう無数にいる。フィクションを見て「イジメの温床に云々」とか「差別の温床に云々」とかのたまうのが。
別にアクション映画でなくてもいいんだけど、どんなフィクションにも「対立」は欠かせない要素です。
いわゆる人間ドラマと謳われるものなら精神的な対立が必ず入ってるし、<個>対<個>もしくは<集団>の武力的な争いならアクションということになる。当然国対国なら戦争映画になるわけで。
だからフィクションの作者は必死になって対立構造を考える。そこがハナシの軸になるんだから当然です。
つまりね、言い方を変えれば、単純に「面白いフィクション」を作ろうと思えば、どうしても右寄り、もしくは左寄りに<見えやすい>のですよ。
あくまで<見えやすい>だけで、ほとんどのフィクション作家はそんなことは考えていない。ただ「面白いフィクション」を作ろうとしただけの話です。
もし対立構造がまったくないフィクションしか罷りならんとなったら、確実につまらないフィクションしか作れない。つまりね、こうしたコジツケは早い話が「フィクション潰し」、もっと言えば「フィクション絶滅論」なんです。
とくに「戦うための」理由付けは右寄りに見えやすいのです。
前も書いたけど「アンパンマン」ですら「武力的解決か否か」で言えば武力的解決なわけで、右寄りかどうかで言っても右寄りになってしまう。当然「仮面ライダー」シリーズなんかもそうです。
つか近年の仮面ライダーって複数のライダーがいるのが当たり前になってるみたいだけど、となると「正義の味方」側は一種の集団になるわけで、「集団対集団」となったら余計武力抗争に見えやすいと思うんだけどどうなんだろ。
ま、どっちでもいいけどさ。
つかさ、戦いが右寄りに見えない「戦う理由」を考えるって至難の業ですよ。
正直、メチャクチャ冷静に見たら「七人の侍」でさえ「戦う理由付け」としては若干弱いんですよ。あれだけちゃんと伏線を張って「戦う理由付け」を描いていても「命を投げうってまで戦うほどなのか」というと疑問符がつく。
ほとんどのアクション物は最終的に「敵対する勢力の殺戮」まで行く。んなもん「話し合いで平和的解決」はないとしても「殺すほどではない、どこか遠い星(島)に隔離する」なんてアクションも聞いたことがない。
こないだも書いたけど、やっぱり「人間が人間を殺す」ということはものすごい高い壁があると思うんですよ。いくら「これは正義なんだ」と自分を言い聞かせても最後の一撃を躊躇してしまうもんじゃないかと。
だからウルトラマンなら怪獣とか仮面ライダーなら怪人とか、ま、敵方を人間外生物に設定してるんだろうけど、人間外生物なら躊躇しないもんかね?それこそ動物なら、とかアタシは思えないよ。
何が言いたいかと言うと「自分が殺されるかもしれない」「人(人間外であっても)を殺す」というのはハンパでない覚悟がいるんです。
それを乗り越えて「戦う」というのは、もうよほどの理由があるか、もしくは洗脳された状態でなければ不可能なんじゃないかと。
でもさ、そんな理由付けを長々やったら間違いなくフィクションとしては冗長でつまらなくなる。何しろ「七人の侍」でさえ長いっちゃ長いんだから。
だったら、理由付けなんか「そこを深掘りしても面白くないんでね、とくに説明しないけど毎度皆様お馴染みの理由です。察してください」で構わないのかもしれない。とくに子供向けの場合なんかは。
そうなったらそうなったで、またぞろ右だ左だと騒ぐ人間が増えるんだろうけど、もうそこは諦めるしかないんかね。つか作り手も「うるせーけど無視するしかない」と開き直る以外の方法がないような。んなことより面白い対立構造を作ることで頭がいっぱいのはずだもん。ねぇ。