最近ね、「ゆっくりドラちゃんねる」ってYouTubeチャンネルを見てるんだけど、いやマジで、藤本先生ってアレだな、と。
いやね、藤本先生の<絵>って本当に「端正」なんですよ。
こうやって見れば一目瞭然ですが、とくに晩年になるにしたがって、その端正さに磨きがかかっていってる。
端正な絵と言えば藤本先生と横山光輝の二枚看板ですが、横山光輝の方がより手塚治虫の影響が濃かったせいか、まだ線が流れている。しかし藤本先生の場合、線がビタッと止まってる。たぶんこれは相当意識的に「線が流れないようにしよう」とした結果で、線自体は柔らかいのに流れない、というふうにしたことで独自の藤本タッチが生まれたと。
この端正な絵のおかげで「ドラえもん」という作品が今のような立場になった、本気でそう思っています。
内容が云々ではなく、<絵>だけ見てたら文部省(今は文部科学省か)お墨付きに見える。要するに品行方正な作品に見えてしまう、というね。
ところが実際に「ドラえもん」を読んでみると、下品だわ下卑だわハチャメチャだわ、正直<品>のカケラもない。
しつこく繰り返される、しずちゃんの裸とか、おしっこ(おもらし)ネタとか、暴力とか、陰湿きわまるイジメネタとかね、ちゃんと読んでいれば「ドラえもん」が品行方正な作品なんて絶対に言えないんですよ。
これは「あまりドリフターズを過大評価して欲しくない」でも書いたことなんだけど、今の風潮を揶揄する時に「実態のない昔のことを持ち上げる」って傾向があって、それこそイメージだけで「ドリフターズの<笑い>には差別的、イジメ的な要素がない」とか、ドラえもんで言っても「藤本先生は絶対に下ネタをしなかった」とかね、本当にあまりにも実態とかけ離れたことを平気で発信する人がいるのです。
昔の2ちゃんねるに、教えて君(というのもたいがい懐かしいな)にたいして「君の目の前にあるのはなんだい?」というコピペがありましたが、ま、要するに目の前に「検索」が出来る装置があるのに何故それを使わないのか?という話です。
さっきも書いたように、たしかに藤本先生の<絵>は端正なので騙されやすい。でもさ、「ドラえもん 下ネタ」で検索すりゃいくらでも出てくるだろうに、事実よりも俺様の脳内にあるイメージのが正解だ、という態度には怒りを通り越して憐れみすら感じます。
にしてもですよ。
やっぱ、あの端正な、それも晩年に行くにしたがってどんどん端正になっていった<絵>を見ると、ある程度騙される人がいるのもしょうがないのかもな、と。
もちろんマイナスの効果もあって、どうも、あの<絵>のせいなのか、「ドラえもん」という作品にたいして「ギャグ漫画である」という認識が薄い気がする。
やっぱね、赤塚不二夫とかは<絵>からして「ギャグ漫画でごさい」って感じだから、仮にどれだけマジメったら変だけど、人情モノっぽい展開になってても(たとえば「母ちゃんNo.1」とかでも)純粋ギャグ漫画扱いされる。
でも藤本先生の場合<絵>がギャグ漫画っぽくないから必要以上に「SF的な要素が」と言われがちのような気がするんです。
藤本先生が自身の絵柄について悩んでいたのは有名ですが(余談っつーか想像だけど「仙べえ」はそういうことから<絵>をすべて安孫子先生に任せるという策に出たんだと思う)、ある時期から自身の絵柄を逆手にとった作品を発表し出した。
端正な漫画的な<絵>で描かれる、ブラック要素の非常に強いSF異色短編とかが最たる例ですが、「ドラえもん」だって、この<絵>なら少々下品なことをやっても下品と思われづらい、という開き直りを感じる。
アタシは繰り返し書いてることですが、もう「ドラえもん」はギャグ漫画以外の何物でもない。しかも児童向けのギャグ漫画です。
藤本先生にSFマインドがあったことは疑いようがないけど、それはあくまで刺し身のツマ。とにかく子供をどうやって笑わせるか、それだけを考えてハナシを作ってる。
とくに失禁ネタは晩年まで相当しつこくやっており、当時「コロコロコミック」に連載されていた「超人キンタマン」、「ゴリポン君」、「ロボッ太くん」といった下ネタが売りのギャグ漫画よりも「ドラえもん」が一番下品だった。つかそれまでの「オバケのQ太郎」や「パーマン」あたりに比べても「ドラえもん」は下品すぎる。
「ドラえもん」という作品がウケればウケるほど、そして社会的に認められれば認められるほど、藤本先生はほくそ笑んでいたんじゃないか。
みんな<絵>で騙されてるけど、本当はこんな下品な漫画はないのに
と。たぶんこれだけ読者、いや熱心な読者ではなく、それこそイメージで語りたがる人間を騙した漫画家は藤本先生だけです。
どこまで行ってもまっすぐな安孫子先生に比べると藤本先生の方がよほど狡猾で(褒め言葉です)、ま、両先生とも天才には違いないんだけど、安孫子先生がストレートな天才漫画家なら藤本先生は天才詐欺漫画家ですよ。