SMAPが不動の人気を得ることになったことと「SMAP X SMAP」という番組は大いに関係があるのですが、「SMAP X SMAP」はバラエティー番組であって「アイドル番組」ではなかった。これも実は大きな問題だった。
ジャニーズ事務所は完全にアイドルに特化した事務所です。もちろんそれがジャニー喜多川の本意だったかはわからないけど、少なくとも世間は「ジャニーズ事務所=男性アイドル専門」と見ている。
しかし、アイドルである以上年齢的に厳しくなる時が、いずれ来る。だけれどもSMAPの場合、純粋なアイドルグループというよりはエンターテイメントグループとして人気が出たという背景があるわけで、男性アイドル専門事務所の、いわば鬼っ子のような存在とすらいえたんじゃないかと。
こうなると、方法はひとつしかない。
「所属事務所傘下に、SMAP事務所(仮)を立ち上げて、担当マネージャーを社長に据える」
つまりはドリフターズとまったく同じやり方です。
それにこうすれば、必ずしもアイドルという枠に収まる必要がなく、仮に将来的に解散しても、権利関係もバラバラにならないし、幻影で商売することも可能になる。これもメンバーが鬼籍に入って、グループとしての活動が難しくなった今でも幻影で商売が出来るドリフターズと一緒です。
<そこ>にかんしての詳しい報道がないのではっきりしたことはわからないのですが、たぶん解散騒動が起こる前の時点から、<そこ>(傘下に専属の事務所を作る)に向けての話し合いはあったはずなんです。
だってそうするしか上手い方法がないんだから、最悪でも検討はしていたと。さすがにこの手の方法が思いつかない、そしてもはやそうするよりしょうがないことくらい、ジャニー喜多川もわかっていたはずです。
つまりかなり早い段階で、SMAPを存続させるかどうかはともかく、傘下とはいえ所属事務所を離れるのは決定的だったのは間違いないと思う。
それが、どういう事情があったのかはわからないけど、この話は潰れた。はっきりしているのは、担当マネージャーが辞めたことだけです。
しかしどんな事情があれ、「最高責任者」である担当マネージャーが辞めた時点で、グループとしてバラバラになることは誰でも予想できる。つまりグループとしての活動は不可能に近くなったといっていい。
こんな最悪手は普通ではちょっと考えられない。ハードランディング、いやエマージェンシーランディング(緊急着陸)もいいところで、幻影としての商売が極めて難しくなる。当然個々での活動というかイメージも多大なダメージも受けるわけで、将来どころか今現在の商売にさえ差し支える。
そういえば、たしか1990年代後半に入ったくらい(つまりSMAPが一線級になって間もない頃)に「SMAPを平成のドリフターズにしたい」とジャニー喜多川氏が言っていた、みたいな話を聞いたことがあります。
SMAPとドリフターズはまったく成り立ちも違うし、カラーもターゲットもまるで違う。どちらかと言えば、バラ売りをほとんどしなかったドリフターズではなく、大々的にバラ売りをしながら特定の番組(「SMAP X SMAP」など)やステージでのみ集結するというやり方はクレージーキャッツに近い。
クレージーキャッツにしろドリフターズにしろ渡辺プロダクションのタレントです。となるとやはり、ジャニー喜多川の思い描いていたのは渡辺プロダクションの<やり方>を踏襲することだったのではないかと。
というかね、ジャニー喜多川ほどの人が「アイドル<だった>タレントの行く末」を考えてないわけがないと思う。
1970年代前半の男性アイドル不毛期において若い女性の人気を一身に集めていたのはドリフターズのメンバーだった加藤茶です。
タレントが若い頃は若い女性からの支持を受ける、つまりアイドルでいい。しかし徐々にファン層を広げていき、いずれ、つまりそのタレントが中年期に入る頃にはクレージーキャッツのような老若男女から愛される存在にする。そのための「若い女性だけじゃない、老若男女誰が見ても楽しめる」ショウ番組=オールドスタイルのバラエティー番組が必要だと。
昨今のジャニーズ事務所はタレントの高齢化が進み、若いタレントがデビューする一方で「40代、50代のアイドル」という、ちょっと常識では考えられない存在が増えています。
老眼が進み、白髪染めをし、若作りした50代の、若い女性をターゲットにしたアイドル、なんて、良い悪い抜きで、やはり、まとも、とは思えない。いくら時代が変わり、昔に比べたら<老いる>年齢が遅くなったからといって、50代アイドルは如何にも無理があるし、これから時間が経って60代アイドルとか70代アイドルといった存在が出てくれば、間違いなく「気持ち悪い」と思う層も出てくると思う。
もし世間が「ジャニーズ事務所=男性アイドル専門事務所」と見ているのであれば、無理矢理にでも女性タレントを所属させてそういうイメージを払拭するべきだし(一時期女性タレントが所属していた頃があったものの上手くいっていないけど)、もしくは一定以上の年齢になったタレントは「アイドルという足枷を外してやる」という意味<だけ>でも、傘下の別事務所に移してやるべきだと思う。
実際、SMAPの件で余程懲りたのか、TOKIOにかんしてはそれに近いことをやったけど、現時点ではTOKIOが唯一の例外で、元ジャニーズ事務所のタレント、と言えば「モメて事務所を飛び出した問題の多い連中」みたいな扱いになってしまっています。
つまりジャニーズ事務所には受け皿がない。アイドルとしての活動には限界を感じているけど、芸能人としてはやっていきたい、と思うタレントにとって向いてるとは言えない。
それこそ風間俊介のような「およそジャニーズ事務所らしくないタレント」もいるけど、彼がジャニーズ事務所に所属するメリットは「こう見えて実はジャニーズ事務所なんですよ」というくらいしかない。むしろ「どうせジャニーズ事務所なんだから」という目で見られるだけ、というデメリットの方が大きいように思う。
そこで、もし、あくまでジャニーズ事務所傘下であっても「男性アイドル専門」ではない受け皿があれば、もっと活動しやすくなると思うし。
そもそもですが、ジャニー喜多川氏の、というかジャニーズ事務所からデビューする条件に<ルックス>が入ってなかったというのは本当だと思う。もちろん極端に醜悪な顔はノーサンキューだったろうけど(それはどの芸能事務所も一緒)、むしろ「この程度の顔のコイツを踊らせることによって、如何にカッコよく見せることが出来るか」に興味があったんじゃないかと。
それが結果的に、彼が手掛けるのはアイドルってことになってしまったけど、理想が具現化出来るのがアイドルという枠しかなかったからアイドル専門になったんじゃないかと。
どうでもいいけど、ジャニー喜多川氏がマネージメントをやり始めた当初はまだアイドルという言葉はなかった。まったくではないけど、アイドルというカテゴリっつーか境界線もあやふやで、つまり「ないものを目指すはずがない」んです。
だったら何もアイドルという枠組みにこだわる必要はないわけで、仮にフロント企業はジャニーズ事務所だったとしても「男性アイドル専門のジャニーズ事務所」と「様々なタレントが所属する傘下の、それこそ渡辺プロダクションのような事務所」に分離する方がジャニーズ事務所そのものを変えるより余程簡単だと思うわけで。
個人的にはジャニーズ事務所とモメて辞めたタレントの権利関係がグチャグチャになる、というか、それこそ「かつては自分の持ち歌だったのに辞めた瞬間に一切歌えなくなる」方が問題だと思う。
2017年11月、ジャニーズ事務所を退所して「新しい地図」をはじめた稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人はAbemaTVで「72時間ホンネテレビ」というインターネット放送史に残る大番組をやってのけましたが、番組の最後は3人によるソングパフォーマンスで、しかし72曲にも及ぶセットリストの中にただの一曲もSMAPの楽曲が含まれていなかった。
これを<異常>とか<奇異>と思わない方がおかしい。
たとえばそこらの芸人ならば、ギャグとして「♪ シェイシェイブギィなむゥなさァわぎ~」と口ずさんでも何の問題にもならないのに、2022年で引退した糸井嘉男は登場ミュージックとしてずっと「SHAKE」を使っており、甲子園に行けば5万人近い人が絶叫していたのに、新しい地図の3人は歌うどころか曲名を口走ることさえ憚られている。
紛れもなく、自分たちが歌った楽曲なのに。
こうしたことは<制裁>とか<見せしめ>以外の何の意味もない。つまりこんなことを続けていてもジャニーズ事務所に得があるとは思えないんです。
アタシはSMAPが再結成するかどうかなんて、どうでもいい。そこはたいした問題じゃないし、年齢的にも昔と同じようなことが出来るわけでもないから「期待外れ」となる可能性も十分にある。
しかし事務所を辞めた→過去の功績がいきなりゼロになる、というのが正常とは思えないだけなんです。
田村正和が逝去した際、どうしても「古畑任三郎」のSMAP全員が出演した回が再放送出来ないと話題になりましたが、再結成なんかよりも過去の活動の封印こそ何とかするべきだと思う。
クレージーキャッツにしろドリフターズにしろ、渡辺プロダクションの<やり方>を踏襲しようとしていたジャニー喜多川が、この状況を本当に喜んでいるとは到底思えない。
もし、アタシが敬愛するクレージーキャッツの過去の活動がメディアから封印されたとするなら、発狂モノです。そんなことは許されない。
「過去にばかり目を向けるな。未来に目を向けろ」なんて綺麗事を言いますが、クレージーキャッツなんか犬塚弘氏以外全員鬼籍に入っているんですよ?クレージーキャッツというグループに未来があると思いますか?んで、そんなに遠くない未来、ジャニーズ事務所に所属していたグループも必ず「メンバーのうち、○人は鬼籍に入った」ことになるんですよ?
制裁だかなんだか知らないけど、アンタらのやってることは芸能史に黒塗りのページを作り出してるだけなんだから。
そろそろ締めに入りますが、これはもうどうしようもないことなんだけど、たったひとりでもいいから、アイドルの枠から完全に外れた、ヴォードビリアン(芸人)ではないコメディアン(喜劇人)をジャニー喜多川氏に手掛けて欲しかった。
もしそういう人が、仮にジャニーズ事務所の直属ではなく傘下ではあっても「男性アイドル専門」ではない事務所所属になっていれば、その後の事態はぜんぜん変わったと思うから。
ジャニー喜多川氏にはそうしたことが出来た。立場もそうだけど、若い女性だけをターゲットにしない、歌とダンスと笑いを同じ比重でコナせるタレントを育成出来る能力と経験値があった。というかそういうタレントが育成出来たのはジャニー喜多川以外いなかったと断言出来る。
そして・・・、一度でいいからジャニー喜多川氏と「エノケンから脈々と続く、歌とダンスと笑いを中心に据えたエンターテインメントの歴史」について、じっくり語り合いたかった、と痛切に思う。
一切<ブレ>ることなく、そういうタレント作りに邁進したジャニー喜多川氏ならば、とんでもない貴重な、卓越した話が聞けたんじゃないか、と思うと悔やんでも悔やみ切れないのです。
ざっくり言えばSMAPの解散発表直後に書いた「SMAP解散を考える」(2016年8月20日更新)と、ジャニー喜多川氏逝去直後に追悼として書いた「まさかの追悼」(2019年7月13日更新)を合体させたっつーかゴチャ混ぜにしたエントリですが、整合性を取るために、そしてより深堀りするために相当補足しております。 ジャニーズ事務所所属タレントのことを「アイドルという枠外から」論じた文章自体があまりなく、あったとしてもほとんどは音楽的側面から論じたもので、音楽とダンスと<笑い>と言ったバラエティーショウという観点からのものを読んだことがなかったので書いてみたのですが。 冷静になって精査すると、やはりジャニー喜多川氏のタレント育成力と<ブレ>のなさは突出しており、そこを中心にしたわけですがね、これ本当は、誰かが書籍に出来るくらいのしっかりした論評を書くべきなんですよ。 いや余裕でそれくらいの文量になるよ。アタシはかなり掻い摘んで書いたけど、いくらでも書くことがあるんだから。 ・・・と、ここまてPostScriptを書いたのですが、ここ(2022年11月現在)に来てとんでもないニュースが、もちろんジャニーズ事務所絡みのニュースが一気に3つも飛び込んできました。 さすがにこれに言及するとキリがないのでやりませんが、もう「草葉の陰で泣いてる」という慣用句しか浮かばないわ。 |
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