こないだのドメさん(福留孝介)の時は「さらば!ドメさん」だったのに、同じく引退を表明した糸井嘉男の場合、何で「すすめ!」なのか。って糸井=ロボケットってことじゃないから。
糸井は晩年になってFAで迎え入れるにあたってかなり難しい選手でした。
三拍子揃った、が売りの選手がオリックスに移籍して以降、まず守備が衰え、阪神に来てからもしばらくは走力を保っていましたが、これも衰えた。
相変わらずミートセンスは抜群だし、打球も速い。選球眼も悪くない。いや良い。打球が上がらないためホームランは多くはないけど、足で稼げる分二塁打三塁打も多く、あくまで打者として見れば一流であり続けました。
ただ、これはレギュラー落ちする前から危惧していたことだけど、例えば2020年の開幕前の時点でアタシはこんなことを書いています。
福留と糸井の最大の違い。それは「クラッチヒッターであるか否か」です。
福留は文句なしのクラッチヒッターですが、ずっと見てきてやっとわかったけど、糸井は間違ってもクラッチヒッターじゃないんですよ。そこがかなり大きい。
福留の場合、衰えてもクラッチという武器があるから下位打線でも起用する意味はある。でも糸井はそうじゃないから使うなら上位で使うしかない。しかしチームとしては上位打線は出来るだけ固定したいってのが当然だと思うわけで。
まァね、歴代でもトップクラスのクラッチヒッターだった福留との比較はかわいそうなんだけど、それでも、特別勝負弱いってことなかったとしても、間違っても糸井はクラッチヒッターではありませんでした。
となると代打も向いてるとは言えず、それでも糸井本人は必死で代打屋として結果を残そうとしましたが<格>のわりにはたいした代打成績を残せなかったわけで。
2022年シーズンが始まる前の時点で、大方の野球ファンは「おそらく今年が糸井の現役最後のシーズンになるだろう」と予測していたと思います。
開幕戦でホームランを打つなど、年齢を超越した結果を出してはいましたが、おそらくは加齢からくる疲れからか、どんどん成績も落ち込んでいった。
オールスター前に二軍落ちを経験し、やっと再調整が終わってさあこれから、というタイミングで今度はコロナ陽性判定を受けた。
まるで「ヨシオよ、もういいだろ」と言われてるレベルで戦力としては機能しなかったんです。
それでも隔離期間が終わったら、二軍戦に出続けた。徐々に、二軍戦とは言え結果も出始めた。
それでも糸井は、まァ、既定路線に沿うように引退という決断を下したのです。
糸井は天然だの宇宙人だの言われ続けましたが、今年のはじめだったか去年の終わりだったかに糸井を主役にしたドキュメンタリーがあり、それを見る限り、純粋で真っ直ぐな人柄だと感じた。何となく病気で引退を余儀なくされた横田慎太郎に似たようなものを感じた、というか。
こういう人が必死で怪我と戦って、何とかチームの力になろうとしている、というのがアタシの胸を打った。たぶん横田を重ねたところもあったとは思うけど。
考えてみれば、糸井がFAで阪神の入団が決まった時、飛び上がるほど嬉しかったか、というとそうじゃない。ちょうど金本政権一年目が終わったところで髙山北條原口が台頭してきて「若手の成長が楽しみで仕方がなかった」頃だったから。
ま、来てくれるなら歓迎はするけど、くらいの感じで、その数年前の城島あたりが入った頃とは違っていました。
それでも糸井は本当に少しずつ、阪神ファンの心を掴んでいったと思う。
移籍当初は思ったよりも守れないこともあって落胆させたところはあったと思いますが、「糸井はもう守れない」ってのが常識になるにつれ、つまり欠点が露呈して周知されるに従ってポジティブな箇所、つまり「打撃の素晴らしさ、カッコ良さ」でファンを魅了していった。
何より、これで3球団目になるにもかかわらず、いわゆる傭兵感がまるでなく、本当に阪神に愛着を持っているというのが伝わった結果なんじゃないか。
マジで、それこそ横田じゃないけど、糸井ってのてのは本当に愛すべき選手で、まるで親戚の子供みたいに「ヨシオ、コーチも解説者も向いてへんのに、これからの人生大丈夫かいな」みたいな気持ちで糸井を見守っていくと思う。
だからね、アタシ個人としては「糸井」ではなく「ヨシオ」なんですよ。アタシは意外と選手を下の名前で呼ぶことはないんだけど、糸井は同姓同名がいるわけでもないのにある時期から完全に「ヨシオ」になった。これはアタシの中では本当に稀有なことです。
ヨシオ、とりあえずはお疲れさん。これから何やるかはまったく想像がつかないけど、ヨシオなら出来る。ヨシオならやれるゥや~!