2/2
オーフナ行進曲
FirstUPDATE2022.4.10
@街 #神奈川 #生活 #映画 @戦前 #松竹 全2ページ 大船 蒲田行進曲 深作欣二 キネマの天地 @山田洋次 城戸四郎 日本映画傳 蒲田 撮影所 鎌倉シネマワールド 京浜東北線 地盤

 松竹大船撮影所がなくなったのは1999年です。
 しかしこれは、見方によれば「意外と長く保った」とも言えるんです。

 さて、ここで日本映画界の話をしておきます。
 1960年代まではほぼ隔週替わりで2本立て映画が上映されるのが常だった。さすがにすべてをひとつの撮影所で賄うのは無理なので、東宝なら東京映画や宝塚映画、東映ならば第二東映などの「配給先を持たない傍系の製作会社」にも作品を振ることで、何とか年間50本ほどの映画を製作していたのです。
 しかし松竹には傍系の製作会社がなかった。撮影所は京都にもあったのですが、もともと現代劇の強い松竹は時代劇専門の京都撮影所が活躍することは少ない。
 当然、大船撮影所はフル回転する。そしてここで小津安二郎作品や「男はつらいよ」などの名作が誕生するのです。
 しかし1970年代に入って映画の<あり方>はあきらかに変化しました。
 はっきり言えば映画産業が下火になった。というかもっとはっきり言えばテレビに食われて、映画館に足を運ぶ人が劇的に減ったんです。
 こうなるともう隔週替わりのプログラムは無理で、当然製作本数は激減する。さらに「傍系ではない製作プロダクションに作らせて配給だけをやる」ということも増えて、あれだけギュウギュウにたて込んでいた大船撮影所は、気がつけば年に一回か二回の「男はつらいよ」と、あと数本の撮影にしか使われなくなっていました。
 と書くと語弊があるな。実際は松竹製作(と松竹製作以外のものも含む)のテレビドラマの撮影でも使用されていたけど、別にそれはもっと小ぶりな他の撮影所でも可能で、1995年、松竹は撮影所の一部を「鎌倉シネマワールド」というテーマパークにしてしまったのです。

鎌倉シネマワールドで「学生時代アルバイトをしていた」という人に話を聞いたことがあるけど、惨憺たるものだったらしい。
 開園当初こそ人は来たけど、その後はガラガラで、しかも設備も不備が多く、とにかく人は来ないわ問題だらけだわ、だったそうな。
 「映画を主題にしたテーマパーク」はユニバーサルスタジオジャバンがそうだし、京都の太秦映画村もそうです。が、鎌倉シネマワールドは太秦映画村と比べるのもおこがましいレベルで、たった3年で閉園する、というとんでもない大失敗事業になってしまいました。
 ただでさえ本業の映画が苦しいところに、渥美清の逝去で松竹映画唯一のドル箱「男はつらいよ」も終了の憂き目にあってしまった。それに輪をかけて副業とも言える鎌倉シネマワールドの大失敗。
 ついに松竹は大船撮影所の閉鎖を決めた。
 これで「シネマタウン」としての大船は完全に終了しました。
 今では大船駅から大船撮影所があった場所まで伸びる道路が「松竹通り」という名を残すのみで、もう、昔ここに撮影所があったという痕跡はほとんどなく、元撮影所の場所には鎌倉女子大学のキャンパスがあります。

 それでも抜群の<利便性>は撮影所関係なく大船を発展させることになった。
 正確にいつからかはわからないのですが、1950年代くらいから駅前に商店街が出来た。そしてこれが大船の最大のストロングポイントに育っていきます。
 もう、今の時代、かつて賑わっていた商店街の大半はシャッター通りに様変わりしてしまった。つまり「商売としてやっていけなくなったので店を閉じてしまった」商店だらけになって、商店街でもなんでもない、ただ寂れた「商店街跡」になっています。
 ましてや「今も昔と変わらない活気がある」商店街など非常に少ないのですが、その数少ないひとつが大船の商店街なのです。


 ここからは今現在の大船について書いていきます。
 これはもう、地方に長く住んでいる人が決定的に誤解していることだと思うけど、東京は物価が高い、いや東京都内でなくても東京近郊でも、少なくとも安くはない、という思い込みです。
 しかしこれは完全な誤認です。東京で高いのは家賃だけで物価は別に高くない。(てな話はココに詳しく書きました)
 ましてや東京近郊ならば、むしろ地方よりも安いくらいで、何も知らない人が大船の商店街に来たらビックリするんじゃないでしょうか。
 野菜も魚もとにかく安い。しかも質もぜんぜん悪くない。日本でトップクラスに美味いとは言わないけど、日本でトップクラスに安いとは思う。そんなレベルです。
 もし「東京都内でなくてもいいから東京近郊に住みたい。でも家賃を抑えたい」なんて人で、しかも「料理を作るのが好き」とかならば、もう、無条件で大船を勧める。
 生鮮は商店街があるし、スーパー(西友)だってある。駅ビルには成城石井も入ってるから「良い(=高級)」ものも手に入る。
 とにかく「コレがない」とか「コレが高い」とか、少なくとも食材にかんしてはまったくゼロと言っても過言ではありません。
 「料理なんかしないよ」という人にも、ひとり飯に向く店がいっぱいあるのも強い。

 <利便性>が高くて、<食>が充実していて、それでいて<家賃>が安い。もうそれだけでサイコーと思われる方もおられると思います。
 ただね、どうも、この大船という街、合う合わないがある気がするんですよ。
 そもそもですが、大船と呼び習わされている地域の、だいたいの住所がわかるでしょうか。
 神奈川県?いやそれはそうです。問題はその後。つまりナニ市か?ってことです。
 これ、メチャクチャ面白いのですが、駅の北半分が横浜市、南半分が鎌倉市になるのです。ってわかりづらいから↓参照。

 つまり「大船に住んでる」と言われても「横浜市在住」になるのか「鎌倉市在住」になるのかわからない。
 そんな細かい住所とかどっちだっていいじゃん、と思われるかもしれませんが、「横浜在住」というのと「鎌倉在住」ではイメージがまるで違う。
 どちらも、イメージは悪くない。というかトップクラスに「良いところに住んでますね」と思われる場所です。
 ではこの大船、横浜と鎌倉のどちらのイメージに近いのかというと、どちらのイメージからも遠いんですよ。
 アタシは長く、横浜市と鎌倉市の両方と隣接している藤沢市に在住していましたが、大船は藤沢とも雰囲気が違う。かといって上大岡あたりともやっぱり違う。
 個人的には「川崎をグッと小規模にして、コワいところをなくした感じ」というイメージです。
 いや、違うな。もっと近いムードのところがある。それは後述。
 先述の通り、今現在の大船の最大のストロングポイントは駅前の商店街です。何しろ商店街が街の<軸>になってるくらいだから当然イメージも「超庶民的」で、むやみにオシャレなイメージのある横浜や古風でハイソサエティなイメージの鎌倉とはまったく別のムードがあるって話でして。

 こう言っちゃ申し訳ないけど、大船ってね、横浜市民から見ても鎌倉市民から見ても、ある種の鬼っ子のような存在だと思う。
 たしかに大船の半分は横浜市(鎌倉市)かもしれない。しかし一緒にされては困る。ウチはあんな感じじゃない、と思われているというか。
 歴史的に見ても大船は別にヤバいところではない。しかし湿地で人が住むには向いてない時代が圧倒的に長かったのは事実で、長い歴史を誇る鎌倉市民から疎まれるのは理解出来る。
 ただ横浜も昔は何にもないところだったし、今現在で言っても「横浜のオフィシャルイメージ」の場所なんてみなとみらいと中華街くらいで、あとはおよそオフィシャルイメージからほど遠い、取り立てて何でもない住宅地が広がってるだけで、ま、はっきり言えばきわめてガラが悪い場所もいまだ点在している。
 横浜にだって六角橋商店街のような超庶民的な場所はあるんだけど、それをわかった上で、アタシも「横浜ってよりはまだ川崎っぽい」と思ってしまうのです。

 もうひとつ、商店街が中心の街にありがちなのですが、そもそも商店街というのはあくまで地元民のためのものです。
 だから、どうしても、住民でない限りは無意味なアウェイ感がある。これは「アウェイが基本」になる観光地や繁華街、そしてショッピングモールなんかでは感じないことです。
 先ほど、アタシは藤沢市に在住していたと書いたけど、何しろ藤沢から大船まではひと駅です。クルマでも行きやすい。ましてや大船と言えばとにかく「食材が安い」ので、かなりの頻度で大船に繰り出していました。
 ただどうも、何度言っても微妙なアウェイ感が拭えなかった。

いやわかってるよ。ここは地元民のための商店街だよね。でもさ、こんだけ安いんだから、ちょっと、お邪魔させてもらいますよ。ま、本当にちょっとだけ。いいよね?

 こんな気分が抜けなかったのです。
 住めばメチャクチャいいところなのは疑いようがない。ましてや、もう痕跡がほとんどないとは言え、元シネマタウンってのも、何かいい。ま、アタシは松竹派ではなく東宝派だけど。
 でも「すぐ近くに大船がある」ってのは意外とメリットが多そうで多くないというか。

 藤沢に在住していた頃、東京に電車で行く場合の行き方はふたつありました。
 ひとつは「小田急で行く」って方法。これが一番安いし、始発なので座れるのもいい。
 ただし終着駅が新宿なのが微妙に不便で、もちろん新宿に用事がある場合はいいけど、それ以外はどうも使いづらい。
 もうひとつの方法は、ま、普通なら東海道本線(もう今は「上野東京ライン」なんてわけわかんない呼称になったけど)で東京ってのがスタンダードなんだけど、これだと絶対に座れない。
 だからアタシがよく活用したのが「東海道本線で大船まで行って京浜東北線に乗り換える」という方法でした。
 何しろ京浜東北線の大船駅は始発駅なので絶対に座れるし、京浜東北線兼山の手線の駅(つまり品川~田端)が最寄りになる場所への用事が大半だったので、メチャクチャラクなんです。ま、時間はかかるけどさ。
 もしこれが大船に在住していたら、サイコーに便利だったと思う。何しろ藤沢←→大船間の面倒さがないんだから。
 でもこのたったひと駅が本当に面倒で、メリット皆無ではないけど、超便利まではいかなかった。
 って、この説明でこのキモチがわかってもらえるんだろうか。

 考えてみれば、大船駅は中継駅というニュアンスが強いにもかかわらず、ただの中継駅に留まらない独特の存在なんですよ。
 中継駅なのに地元民重視だし、観光的なものはまったくない。ま、大船観音はあるけど、もし上手くやってたら観光地になれたかもしれない鎌倉シネマワールドは大失敗したし。
 でも、それもね、鎌倉シネマワールドが失敗したのも「ウチは観光客なんかいらない。そういうのが良けりゃ横浜でも鎌倉でも行っとくれ」っていう地元民の<念>だったのかもな。
 ただねぇ、それこそ鎌倉~長谷あたりで感じる「本当は観光客なんか邪魔なだけ」みたいな空気もないんだよなぁ。
 これ、もしかしたら地元民の<念>じゃなくて大船という土地の<念>かもね。

 先ほどより「大船は川崎のイメージに近い」って書いてきたけど、実は川崎よりもっと近いムードを持つ街がある。
 それは川崎よりひとつ東京寄りの「蒲田」なのではないか、と。
 蒲田も大船同様中継駅のニュアンスがあるっつーか京急の場合、京急蒲田駅が京急空港線の起点です。さらに超庶民的であり、特別な観光スポットがない。かつ<利便性>がすこぶる高く、家賃が比較的安価なのも似ている。
 こうやって大船と蒲田を並べて見ればまるで「生き別れの双子なんじゃないか」と思えるほど類似点があるのです。
 そして何より「松竹の撮影所があった」という決定的な共通点がある。
 もちろん松竹の城戸四郎が大船を新しい撮影所の地に選んだのは、蒲田と大船が似通った土地柄だったからではない。そもそも撮影所移転直前の蒲田と今の蒲田、撮影所移転直後の大船と今の大船は何もかも変化しています。
 ただ、もう偶然としか言いようがないんだけど、同じようなムードを持つ街並みになった。

 どちらも「元松竹撮影所があったから」なのか、非常に気安い、そして地元民以外あんまり訪れる機会のない街です。つかどちらも微妙なアウェイ感がある街というか。
 この地元民以外は微妙なアウェイ感があるってのはシネマタウンにふさわしい。
 事実、人嫌いで知られる渥美清も大船近辺ではわりと気ままにしていたっつーか、不必要に「近寄るなオーラ」を出してなかったらしい。これも「面倒だけど、でも普通に生活している地元民しかいないんだし、あんまり構える必要はないな」って感じだったんじゃないでしょうかね。

 大船と蒲田。まるで双子のようなふたつの街ですが、蒲田には「蒲田行進曲」という楽曲が、そして楽曲をタイトルにした同名の映画まで作られた。そして令和の今、JR蒲田駅の発車メロディは「蒲田行進曲」になっています。
 しかし、残念なことに「大船行進曲」という楽曲も映画も作られなかった。JR大船駅の発車メロディも、ま、汎用と言える曲です。
 そういう意味ではほんの少し大船のが不遇ですが、そこはね、双子の兄貴である蒲田に花を持たせたってことでいいんじゃないでしょうかね。

主にPage1で参考にさせてもらった城戸四郎著「日本映画傳」は本当に面白い本です。復刻されてないので古本ででもないと手に入らないけど。
とにかく旧字体が基本で小書きを使ってない(<売った>とかなら<賣つた>になる。つまり、小さい<つ>=<っ>が使われていない)ので非常に読みづらいんだけど、それを我慢して読み進めると城戸四郎という人の「人となり」が本当によくわかります。
これだけ良い悪い含めた著者の人間性が露呈した著作物は珍しく、ま、突破者というかなんというか、自画自賛話が多くて、今の時代を生きる人間からすれば「悪徳ゥ!」と思えるようなことまで自慢げに書いてるのが可笑しい。
もちろん貴重な話もいっぱいあって、ヤバい状態だった日活を、松竹と東宝で<取り合い>になった話など、あまり表舞台には出てこないネタもいろいろあります。
それに関連してなのですが、何で松竹の傍系だった新興キネマが松竹と合併せずに日活や大都と合併することになったのかも面白い。
マジでこの本は復刻するべきです。って誰が買うんだって話かもしれませんが。




@街 #神奈川 #生活 #映画 @戦前 #松竹 全2ページ 大船 蒲田行進曲 深作欣二 キネマの天地 @山田洋次 城戸四郎 日本映画傳 蒲田 撮影所 鎌倉シネマワールド 京浜東北線 地盤







Copyright © 2003 yabunira. All rights reserved.