さて、Page1では主にカラーをテーマに<テレビ>について書いてきましたが、ここからは同じくテーマはカラーですが<サイケ>というワードから書いていきたい。
1968年という年をグラフィックデザイン的、アート的に言えば、間違いなく<サイケ>です。
サイケ、つまりサイケデリック。とくに日本では横尾忠則と田名網敬一がサイケデリックアートのベースを作っていきました。
もちろん<サイケ>の発祥は日本ではない。というかそもそも日本で言う<サイケ>とはごく一部を拡大解釈したもので、実体は少し違うものでした。
わかりやすいようにWikipediaから引用しておきます。
サイケデリック、サイケデリアは、LSDなどの幻覚剤によってもたらされる心理的感覚や様々な幻覚、極彩色のグルグルと渦巻くイメージ(またはペイズリー模様)によって特徴づけられる視覚・聴覚の感覚の形容表現である。しばしばサイケと略される。精神科医のハンフリー・オズモンドが「サイコロジー(心理学)」と「デリシャス(おいしい)」(別説ではギリシャ語のpsyche/精神+delos/出現)を組み合わせた造語に由来する。その翌年1957年に、精神分析学会で言葉を紹介した。幻覚剤の影響下にある時に出現する幾何学的な視覚パターンは、フラクタルとしてコンピュータで再現でき、ジャック・コーヘンとバード・アーメントロウトが、サイケデリックな幻覚の数学に基づく幾何学的形態に関する理論を提唱している。
ま、掻い摘んで言えば『LSDなどの幻覚剤の影響で起こる幾何学模様のような幻覚症状』が<サイケデリック>の正確な意味です。
しかし日本では、当然『LSDの影響による幻覚』というところは後ろ回しにされて、もっぱら「幾何学模様をモチーフとしたデザイン、アート」に主眼が置かれた。
何しろ「幻覚症状のイメージ化」なので、その色彩は「狂ったようにカラフル」であり、また「意味不明なほどゴチャゴチャ」している。
ここまで派手なものが持て囃されたのはデザイン史上でも非常に珍しい。少なくとも以降、この<サイケ>期を超えるような派手なデザインが一大ムーブメントになったかというと、一度もなってない、ということになります。
ではいったい、<サイケ期>前と<サイケ期>でどれほど変わったか、これはレコードジャケットを見るのが一番わかりやすい。
サイケ期直前、と言えば日本でもビートルズが席巻していた頃ですが、ビートルズの日本盤ジャケットをご覧いただきたい。
これは専門用語で言うなら「二色刷り」(正確には特色二色かね)というヤツで、ま、フルカラーですらない。というか1960年代前半のこの時期は日本人のレコードジャケットもだいたいはこんな感じで、それこそアタシが敬愛するクレージーキャッツのレコードジャケットもこんな感じでした。
これが1960年代半ばになると、さすがに二色刷りジャケットは減り、この頃からフルカラージャケットが一般的になる。ビートルズで言えばこんな感じです。
で、問題のサイケ期、つまり1968年以降になるとこうなる。
さらにわかりやすくするために別の例を挙げます。
ビートルズやベンチャーズの影響で日本でもエレキサウンドが広まり、あまたのエレキバンドが日本中で結成された。
そしてエレキバンドを「商業的に」発展させたのがグループサウンズ(以下、GS)です。
GSはざっくり分けると3つのカテゴリに分けられる。(「以下、<ザ>は省略」)
・古参、転向組 スパイダース、ワイルドワンズ、サベージ、ブルーコメッツ
・全盛期組 タイガース、ゴールデンカップス、テンプターズ、カーナビーツ
・末期組 オックス、アダムス、オリーブ、ズー・ニー・ヴー
正直、GSについて語り出すとキリがない。ま、アタシはGSマニアではないけどマイナーなグループのものを含めて一時期ずっと聴いていたことがあるし、GS研究家の第一人者である黒澤進の著作を片っ端から、何度も何度も読み返した。
というか「1968年」というテーマならば、むしろGSを中心に据えてもいいくらいなのですが、どうもアタシは天邪鬼なのでね、そこそこ知識のあるGSをあえて「素材のひとつ」として消化してしまいます。
さて、古参組ながらGSブーム末期まで高い人気を誇ったスパイダースのレコードジャケットを見て欲しい。(「スク・スク」(丘優子)は演奏のみ)
こうやって見れば「二色刷り期→フルカラー期→サイケ期」のジャケットデザインの流行の変遷が一目瞭然です。
さらに別の視点からも書いていきたい。
これはPage1の「テレビ」とPage2でここまで書いたサイケデリックデザインの両方にかかる話なのですが、サンプルとして面白いのがレナウンのCMです。
まずは1965年、シルビー・バルタンが出演したことで、んで日本語で歌ったことで話題になったコレから。
ここからたった2年後、つまりは1967年ですから今回の主題の1968年から一年ほど前になってしまうのですが、こう変わる。
ま、厳密には<サイケ>とは違うんだけど、その色彩の鮮やかさはまさに「カラー時代の到来」を物語っています。
というか、↑の「レナウン・イエイエ」のCMほどカラーテレビで見ないと意味がないものもない。いや、モノクロテレビからカラーテレビに変えた人たちがもっとも衝撃だったのは、実はこのイエイエのCMだったのではないか、と思えるんです。
残念ながらアタシの年齢ではリアルタイムでの反応は知らないし「カラーテレビで初めて見たイエイエCMの衝撃」について書いた文章も読んだことがない。なのですべて推測でしかありませんが、ついに、モノクロは時代遅れである、これからはカラーの時代だ、と高らかに宣言したCMが作られ出したってのは、やはり、この頃に「カラー文化が始まった」と言えるんじゃないかと。
さて、話をつなげていこうってんじゃありませんが、レナウンと言えばかつて存在したアパレル企業でした。
正直、まさかまさか、あのレナウンが消滅してしまうなんて考えもしなかったことで、アタシの中では日曜洋画劇場X淀川長治XレナウンのCMは完全にセットでしたから。
レナウンのCMは上記の「ワンサカ娘」や「イエイエ」以降も、基本的にはアパレル企業らしくクールなタッチを貫いており、どれも実にオシャレに思えた。
それでも、やはり、クールでありながら絶大なインパクトをも兼ね備えた「イエイエ」は突出していると思うわけで。
ちなみに「イエイエ」とはれっきとしたブランド名で、ニット生地の服飾にこのブランドがあてがわれていたのですが、ちょうどテレビから「イエイエ」が流れ出した頃、もうひとつファッション関係の潮流があった。
それが「ミニスカート」です。
当時をご記憶の方なら「ミニスカート=ツイッギー」と即座に浮かんでくるはずです。
ツイッギーはイギリスのモデル兼女優で、当時の雑誌には
・168センチ、41キロ
・バスト78センチ、ウエスト58センチ、ヒップ81
とあります。(ま、孫引きですが)
とにかく、ツイッギーに代表されるように、ミニスカートは細いほど似合う。
良く言えば華奢、悪く言えば・・・はまァいいか。とにかく若い日本人女性にはうってつけのファッションで、足が長く見えるというのも欧米人に比べたら低身長で足が長くない日本人には向いている。
ここで当時、つまり1968年当時の、欧米諸国と日本における「ミニスカートブーム」の一端をご覧ください。
うん、やっぱこの辺が時代というか、日本の場合は「ためらい」が見えますな。
でも、どうですか?やっぱ、これまた「カラフル」なんですよね。というかもっとはっきり言えば派手。派手ったってゴチャゴチャした派手さではなく、1960年代らしく「全体としてはシンプルでシックなのに色遣いだけは派手」って感じです。
つまり、どこからどう見ても、街を歩こうがテレビを見ようが雑誌や広告を見ようが、色が付いてることに意味があるものが世に溢れ出したのがこの1968年ではないかと。
そういや1982年、GSの雄だったザ・タイガースが再結成されて、リリースされたシングルのタイトルが「色つきの女でいてくれよ」だったのは実に示唆的です。
「色つきの女でいてくれよ」はグループサウンズ的なサウンドではなく今っぽいし(もちろん1982年っぽいって意味)、そもそもジュリーは「♪ いつまでも、いつまァでも~」の箇所しかソロパートがないのですが、GS最盛期を表す言葉として「色つき」ってのを使ったのは実に深い。ま、本当にそういう意図だったかは知りませんが。
さ、この辺で<カラー>ってテーマを閉じて「ルックバック」らしく年表を貼り付けておきます。あ、例によって極力政治絡みの話はオミットしてあります。ま、時代がわかりやすいように最低限だけは残しましたが。
1月9日 円谷幸吉が自殺
2月6日 グルノーブル冬季オリンピック大会が開幕。2月17日までの12日間開催
2月12日 大塚食品工業が世界初の一般向け市販レトルトパウチ食品「ボンカレー」を発売
3月1日 服部時計店(現在のセイコー)が「トランジスタクロック」を発売
3月27日 宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンが、ジェット戦闘機の飛行訓練中に墜落死
4月8日 日産自動車が「ローレル」を発売
4月12日 「2001年宇宙の旅」(MGM)がテアトル東京、中日シネラマ劇場、OS劇場の3館でで封切り
4月12日 東京都千代田区に日本初の超高層ビルである霞が関ビルディングが完成。高さ147メートル
4月13日 「猿の惑星」(20世紀フォックス)が日本で公開されて大ヒット
4月15日 トヨタ自動車が「スプリンター」を発売。当初の車名は「カローラスプリンター」
4月29日 ニューヨーク・ブロードウェイのビルトモア劇場で、ミュージカル「ヘアー」開演
5月8日 イタイイタイ病を公害病に認定
5月16日 日本で十勝沖地震(M7.9)発生。死者52人
6月5日 ロバート・ケネディ暗殺事件(5日に銃撃され6日に死亡)
6月26日 小笠原諸島の日本復帰
7月1日 日本で郵便番号制度実施
7月5日 琉球銀行若松支店強盗事件発生
7月7日 日本で第8回参議院議員通常選挙。石原慎太郎が参院選挙全国区でトップ当選したほか、青島幸男、横山ノックなどいわゆるタレント議員が全員当選
7月11日 集英社から「少年ジャンプ」が創刊(ただし当初は月2回刊)
7月12日 南海野村克也が東京球場での対東京戦の3回表に15号本塁打を放ち、プロ野球史上初の通算400号本塁打を達成
7月25日 明治製菓が日本初のスナック菓子「カール」を発売
8月8日 札幌医科大学で日本初(世界30例目)の心臓移植が和田寿郎によって行われた。日本初のレシピエントは移植83日後タンを詰まらせ死亡(和田心臓移植事件)
8月18日 岐阜県の国道41号で、集中豪雨のため土砂崩れが起こり、観光バス2台が飛騨川に転落し、乗客104人が死亡(飛騨川バス転落事故)
9月1日 タカラが日本版の「人生ゲーム」を発売
9月17日 阪神の江夏豊が甲子園球場での対巨人20回戦で、王貞治から四回表、七回表に年間奪三振最多記録タイの353個目、新記録となる354個目の三振を奪う
9月18日 甲子園球場にて阪神対巨人22回戦が行われ、4回表に巨人の王貞治へ阪神のジーン・バッキーの投球をめぐり、バッキーと巨人の打撃コーチの荒川博が乱闘
9月27日 西城正三がプロボクシング世界フェザー級王者に
10月11日 アメリカの有人宇宙船「アポロ7号」が打ち上げ
10月11日 西日本一帯で発生した皮膚疾患に関して、福岡県衛生部と北九州市衛生局が調査を開始し、北九州市衛生局が同市小倉区(当時)のカネミ倉庫に立ち入り調査を実施。同社製のこめ油「カネミライスオイル」にPCBが混入したことによる中毒症状が発覚する(カネミ油症事件)
10月12日 メキシコシティで、第19回夏季オリンピック・メキシコオリンピックが開幕。10月27日までの16日間開催
10月17日 川端康成が日本人初のノーベル文学賞受賞
10月20日 日本シリーズの第6戦が行われ、巨人が阪急を7-5で破り、4勝2敗で阪急を下して、4年連続日本一を達成
10月21日 国際反戦デーで新宿駅を新左翼の学生らが占拠(「新宿解放区」)。後に騒擾罪適用
10月23日 日本で明治百年記念式典開催。明治改元(1868年10月23日)から100周年を記念するもの
10月31日 ソニーがトリニトロンカラーテレビの1号機「KV-1310」を発売
11月2日 兵庫県有馬温泉の池之坊満月城で火災発生、30名が死亡(池之坊満月城火災)
11月5日 アメリカ合衆国大統領選挙で共和党候補のリチャード・ニクソンが当選
11月30日 ビッグコミック(小学館)にて、さいとう・たかをの長編劇画「ゴルゴ13」の連載が開始
12月10日 東京都府中市で三億円強奪事件が発生
12月19日 第9次越冬隊(隊長・村山雅美)が日本人として初めて南極点に到達
12月24日 アポロ8号が月を周回し、月の地平線から昇る地球の写真が撮られる
12月24日 アメリカ戦争映画「トラ・トラ・トラ!」が突如、製作中止。黒澤明監督が解任
ま、こんな感じですか。
正直一番ビックリしたのは7月1日の「日本で郵便番号制度実施」です。それまで郵便番号ってなかったのか。
ついでに1968年のオリコンランキングベストテンを。ってこれ「複眼単眼・演歌」でも転載したんだけど、今回は可能な限り動画付きで。
1位 星影のワルツ(千昌夫)
2位 帰って来たヨッパライ(ザ・フォーク・クルセダーズ)
3位 恋の季節(ピンキーとキラーズ)
4位 小樽のひとよ(鶴岡雅義と東京ロマンチカ)
5位 恋のしずく(伊東ゆかり)
6位 花の首飾り(ザ・タイガース)
7位 サウンド・オブ・サイレンス(サイモン&ガーファンクル)
8位 ゆうべの秘密(小川知子)
9位 マサチューセッツ(ビー・ジーズ)
10位 シーシーシー(ザ・タイガース)
最後に、実に1968年という年がよくわかる動画を貼り付けておきます。
たぶんこれ、ここまで書いたことを踏まえて見ていただければ余計に味わい深いのではないなと。
あ、これ、実はとんでもないお宝が入っていますのでお楽しみに。って大半の人には何がお宝かわかんないだろうけど。
以上で終わり。でいいよね。とめてくれるなおっかさん。
どうも似たパターンばかりなのですが、Page1は過去エントリのリライトなのでわりとスムーズだったのに、Page2で徹底的に苦しみました。 当初、Page2は完全に私的な話にするつもりで書き進めたのですが、あまりにもイマイチなのでボツにしてサイケの話にしたという。いや私的な話をPage3にして、とも思ったんだけど、そこまでたいした話じゃないし、まァいいやと。 |
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