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複眼単眼・デマ
FirstUPDATE2021.12.26
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「極論を言えば、もう「布団がふっとんだ」みたいなのしかダメだと思う」

 これはアタシの友人が発した至言です。
 もちろん友人は「布団がふっとんだ」式の駄洒落に抱腹絶倒しているわけじゃない。しかしここに、あえて外した主語を加えれば、膝を叩いてもらるんじゃないかと。

「<インターネット>というものは、極論を言えば、もう「布団がふっとんだ」みたいなのしかダメだと思う」

 さて今回のテーマはデマです。ってこの時点では話がつながってないんだけど、何故布団がふっとんだ式の「つまらなくて、たわいないボケ」がインターネットでは良いのか、そして何故それ以外はよろしくないのか、んでこの話がどうやってデマにつながっていくのか、これからその辺の話をツラツラ長々書いていきます。

 さてアタシは似非もいいところですが、事件マニアです。いやマニアなんておこがましい。ホンモノのマニアは裁判記録まで読んでしまうし、松本清張なんかはフィクションであろうがノンフィクションであろうが、実際にあったひとつの事件を題材にする時にトラックの荷台が埋まるくらいの資料を用意したといいます。
 それに比べるとアタシなんか、その手のドキュメンタリー番組を見たり書籍を読んだりするのが好きって程度ですが、それでも「阿部定事件」に興味を持ったのは小学生の頃、「帝銀事件」に興味を持ったのは中学生の頃なんだから、筋金入りとまでいかないまでも筋<糸>入りくらいは行くんじゃないかと。

 そんなアタシが<デマ>と聞いてパッと思い浮かぶのが「豊川信用金庫事件」と「トイレットペーパー騒動」です。
 発生したのはどちらも1973年。いわゆるオイルショックの頃であり、トイレットペーパー騒動はもちろん豊川信用金庫事件も「世の中が漠然とした不安感に包まれていた」という当時の世相とは無関係ではありません。
 国内情勢が不安定になるとデマが蔓延する、というのはあきらかで、1910年にハレー彗星が接近した時は「空気がなくなる」というデマが蔓延してタイヤのチューブが飛ぶように売れたりとか、関東大震災の時は、まァややこしいので詳しくは書きませんが、とあるデマから某国の人を虐殺する事件が多発したりね。
 そんな古い話を持ち出さなくても、阪神淡路大震災の時も東日本大震災の時も、幾多のデマが溢れかえったし、新型コロナパンデミック下におけるワクチン接種の是非の話など、本当に、枚挙暇がない。

 よく「今はこれだけSNSが発達、浸透してるんだから、もう豊川信用金庫事件やトイレットペーパー騒動のようなデマは起こらない。もし起こってもそれはネットに疎い老人が招いているだけ」なんていう人がいますが、これはまったく関係ありません。
 テレビやネットや新聞を見てようが見てなかろうが、デマに惑わされるか否かとは何の関係もないんです。
 何がどう関係ないのか、ここで「デマが拡散される過程を考える上で最高のサンプル」とまで言われている豊川信用金庫事件にダシになってもらいます。

 豊川信用金庫事件の<始まり>は女子高生のたわいない会話からです。
 高校3年の、3人の女子高生が雑談をしている。そのうちのひとりが「豊川信用金庫に就職が決まった」というのをサカナにして、です。
 ま、半分はやっかみもあったのでしょうが、信用金庫という手堅いところに就職が決まった子を、他のふたりが茶化した、みたいな感じだったと言います。

「信用金庫って危ないらしいじゃん」

 当時、つまり1970年代より前は今よりずっと銀行強盗が頻繁にあった時代です。先程書いた帝銀事件や、時系列は後になるけど「三菱銀行人質事件」なんて大事件もあったし。
 つまり豊川信金に就職が決まった子(以下、A)を除くふたりが「危ない」と茶化したのは「銀行強盗に巻き込まれるかもしれないから」「危ない」ってことでした。

 しかしこの、冷静に考えればたわいない<茶化し>がAの心に引っかかった。そうか、信用金庫は危ないかもしれない・・・。
 Aは(おそらく不安を払拭したいがために)親戚に相談した。本当に信用金庫は危ないのか、と。
 ここから勘違いの連鎖が起こる。どこの時点から「銀行強盗の話」から「豊川信金の経営状態の話」にすり替わったのかはわからないんだけど、又聞きを繰り返すうちに「銀行強盗の話」はどこかにすっ飛んでいき、たった3日後には「豊川信金の経営状態が危ない」ということに固定された。それも相当拡散された時点で。

 ま、事の顛末はWikipediaでも読んでいただきたいのですが、問題はどの段階で「銀行強盗の話」が消滅したのか、です。
 Aは友人に「ちょっと待って、危ないって銀行強盗がってことだよね?」と確認しなかったのか、いやAは最初から銀行強盗の話だと理解していて、相談を受けたAの親戚が経営の話だと思い込んだのか、さらに相談を受けたAの親戚の親戚が取り違えたのか。
 いずれにせよ、誰も話の出処を確認しなかったわけで、どこかの段階で話の出処さえ疑問に思えばこんなデマが広がるわけがない。だいたい女子高生が、それこそネットも何もない時代の女子高生ですよ。が、そんな大人もマスコミも知らないような「豊川信金の経営状態」なんて<シブい裏情報>を持っているわけがないんです。
 そんな一番肝心なことを誰も確認しようともしない、これがデマがここまで広まった最大の原因でしょう。

 先程アタシは「ネット時代になっても、SNSがこれだけ浸透しても、それはデマがなくなる、なくならないとは関係ない」と書きました。
 どれだけSNSが浸透してようが、誰も正確な情報を知ろうともしない、あやふやな情報をさも「紛うことなき真実」のように拡散する人間がいる限り、口コミであろうがSNSであろうがデマは拡散される。しかも情報が溢れすぎてて「何が真実か」が見えづらい今の時代の方がデマが広まる可能性が高いとすら思うわけで。

 えと、いつくらいまでかな。とにかく喜劇要素の強いテレビドラマでのルーティーンで「勘違いの連鎖から大騒動が巻き起こり、最終的に元サヤにおさまる」なんてのがありました。
 アタシはこのルーティーンの元ネタが何なのか知らない。古典落語でありそうな話だけどアタシが知ってる限り存在しないし、戦前の松竹蒲田時代の喜劇でもこういうのはない。(というか松竹の喜劇が「人情喜劇風」になったのは撮影所が大船に移転した1936年以降で、蒲田時代はどちらかというとシュールな話が多い。これはサイレント期の小津安二郎映画も例外ではない)
 しかしこの手のルーティーンが洒落になるのは「狭いコミュニティー内で完結している」からで、大騒動ったってせいぜい数家族が巻き込まれているにすぎないし、すべてがあきらかになった時点で「なぁんだ」となって元サヤにおさまれる程度の大騒動でしかないわけです。

 豊川信金の事件も本当はそのレベルなのです。ただ巻き込まれたひとつに信用金庫なるものがあったから、そして豊川信金が取り付け寸前になったから問題なだけで、それでもマスコミが報知しなければ今も豊川に住む老人たちの「昔こんなことがあって」みたいなネタになるだけだったような気がする。
 それを言えばトイレットペーパー騒動なんてマスコミが嗅ぎつけなければ完全に笑い話=喜劇風テレビドラマのルーティーンレベルもいいところです。
 だいたいいくら紙節約の呼び掛けが政府からあったとはいえ、スーパーのチラシの惹句でしかない「紙がなくなる!」を真に受けるなんて滑稽としか言いようがない。

 ただし世相を上手く絡めた惹句を作ったチラシ製作者のセンスは褒めていいと思う。少なくとも「トイレットペーパー」を「紙」としたところにこの惹句のコクがあります。
 つか惹句ひとつで売り上げに劇的な変化をもたらしたってことで言えば、もしかしたら史上最高の惹句かも、ね。

 ま、それはともかく。
 人の話をちゃんと聞かない、いわゆる<おっちょこちょい>は古典落語にもいっぱい出てきますし、「たったひとりのおっちょこちょいが早合点して」程度(つまり<連鎖>はしない)なら大昔からそんな話は山ほどあります。
 そうしたキャラクターはおっちょこちょい=滑稽=才蔵、とされてきたし、劇中内でさえ「自分は滑稽と思われている」ってのを自覚していた。
 ところが現代はそうではない。むしろ「自分は利口者」である、つまり賢者であり太夫である、と自認(≠他認)している連中が平気で<おっちょこちょい>なことをする時代なのです。

 才蔵であると自覚のある人物の言葉には説得力がない。だから騒動に巻き込まれてもどこか「本当か?アイツの話だぜ?」みたいなのがある。しかし<自称>太夫が自信満々に「あれ?そんなことも知らないの?」みたいな態度でこられると信じる人の絶対数は確実に増える。
 ほんの数年前までは「太夫ぶった才蔵」の代表はマスコミでした。ちゃんとした裏も取らずにテキトーな話をデッチ上げて拡散する。しかも適度に上から目線で。
 しかしいつの間にかマスコミは代表の座から滑り落ちた。いやマスコミが「太夫ぶった才蔵」を止めたわけではなくね、SNSが無数の「太夫ぶった才蔵」を生み出したことで若干影に隠れたというか。

 自分がおっちょこちょいである、ちゃんと話を聞いていない、聞かない人間である、という自覚が皆無で、自分は賢者であり太夫であることに何の疑いを持たない人たち・・・。
 ここいらでPage2に続きます。