いきなりですが、ファミリーコンピュータ、通称ファミコンの基本的なスペックを書いてみます。
・CPU 6502カスタム
・RAM 2kbyte
・VRAM 2kbyte
・音源 CPU組込
・グラフィック 256x240ドット
・表示可能色数 52色
・スプライト 64個表示可能(但し水平方向には8個まで)
・発売 1983年7月
・価格 14,800円
ま、細かいことを言い出せばキリがないし、本当は補足もいっぱいしなきゃいけないんだけど、とりあえずこれでいい。
ここで注目して欲しいのは<52色表示>と<1983年7月>と<14,800円>の3つです。
表示可能色数にかんしても、実は56色とも言われており、また一画面に同時に発色出来るのは25色らしい、という補足が必要っちゃ必要なんだけど、とにかく、52であろうが56であろうが25であろうが「8色以上」ではあるわけで、そこさえはっきりさせておけば問題ありません。
さらにファミコンと同時期に発売されたセガSG-1000の性能も見てみたい。ってもアタシが重要と位置づけた<色数><発売日><価格>の3つだけ。ま、発売日はファミコンと同じなので割愛すれば
・表示可能色数 16色
・価格 15,000円
色数はあきらかにファミコンに劣りますが、それでも<8色以上>であることには違いない。
そしてもうひとつ、この時期(1983年)に発売されていた主要パソコン(当時はマイコン呼びの方が一般的だったかパソコンで統一する)の、これまた例の3項目から発売日を抜いた2項目を見ていきます。
・日立 ベーシックマスターレベル3 Mark5(色数 8色、価格 118,000円)
・NEC PC-6001mkⅡ(色数 15色、価格 84,800円)
・NEC PC-8001mkⅡ(色数 8色、価格 123,000円)
・NEC PC-8801mkⅡ(色数 8色、価格 168,000円(最廉価モデル))
・NEC PC-9801F(色数 8色、328,000円(最廉価モデル))
・シャープ MZ-2200(色数 8色、価格 128,000円)
・シャープ X1C(色数 8色、価格 119,800円)
・ソニー SMC-777(色数 16色(オプション装備で4096色)、価格 148,000円)
・MSX(統一規格、色数 16色、価格 50,000~70,000円前後)
この中でソニーが販売していたSMC-777のみやや特殊ですが、色数<だけ>に着目すると不思議な感じがするかもしれません。
他の箇所(つまりグラフィック以外)の性能ががパソコンの方が上なので価格帯が高いのは当然として、こんな傾向が見える。
・10万円を超えるパソコン(SMC-777を除く)=すべて色数が8色
・10万円以下のパソコンやファミコンなどのゲーム機=すべて色数が8色以上
つまり「高価なマシンほど色数が少なく、低価格帯のマシンほど色数が多い」という逆転現象が見て取れるのです。
というか14,800円のファミコンでさえ52色扱えるのに、最廉価モデルでさえファミコンの20倍以上の、30万円を超えるPC-9801Fが8色って、ちょっと舐めてるの?と思われるかもしれない。いくらゲームに特化したマシンじゃなくても、さすがに8色は少なすぎるだろ、と。
当時のパソコンメーカーはそんなに色数をケチりたかったのか、ですが、これにはちゃんとした理由があります。
まず10万円以下の、いわゆるホビーパソコンやゲーム機が何故8色以上表示出来るようになっていたかですが、すべてに共通する仕様として「RF端子、もしくはコンポジット出力端子を標準装備している」のです。
RF端子を平たく言えば「テレビのアンテナ線につなぐための端子」です。そしてもうひとつのコンポジット出力端子は別名ビデオ端子とも言われていたことからもわかる通り、VHS(ま、ベータでもいいけど)ビデオデッキを接続する用の端子と言えばいいか。
画質で言えばコンポジット>RFですが、当時のテレビはコンポジット端子が付いてないものも多かった。つまり、RF端子からなら100%、どんなテレビにも接続出来る代わりに画質が悪い、コンポジット出力は対応するテレビが限られているが画質は(RFに比べれば)良い、ということになります。
当時のゲーム機、つまりファミコンにしろセガSG-1000にしろ、これまたRF端子が標準でついていたわけで。
何が言いたいのかというと、10万円以下のホビーパソコン+ゲーム機と呼ばれるカテゴリの製品群はすべて「家庭用テレビをモニタ代わりに利用する」ことが想定されていたのです。
逆の言い方をすれば10万円以上の、8色しか表示出来ないパソコンは「家庭用テレビをモニタ代わりに利用することを想定していない」と言うことになる。
しつこいけどあらためて書いておきます。
・10万円を超えるパソコン=パソコン専用モニタを使う想定
・10万円以下のパソコンやファミコンなどのゲーム機=家庭用テレビを使う想定
家庭用テレビを使うのであれば、というかRF出力やコンポジット出力を使うのであれば<色数>は関係ない。マシン側にそれだけの性能があれば、ですが、100色であろうが1000色であろうが表示出来ます。
ゲーム機は当然として、10万円以下のホビーパソコンも家庭用テレビに接続する想定だった理由は簡単です。
それは「パソコン用モニタがとてつもなく高かったから」です。
当時のパソコン用モニタのランクはざっくり、3ランクあったとお考えください。もちろんドットピッチがどうとか言い出したからキリがないので、とにかくざっくりとAからCランクに分けてみます。
・Aランク=4,000文字対応(正確には<4,050文字>と表記されていた)
・Bランク=2,000文字対応
・Cランク=800文字対応
当時は解像度ではなく「8x8ドット角の文字が<潰れずに>一画面に何文字表示出来るか」がモニタ(ディスプレイ)の性能を端的に表す数字だったので4,000文字だの2,000文字だのと書いたのです。
で、その価格ですが、これもメーカーによってもサイズによっても違ったりするのであくまで目安とお考えいただきたいのですが、当時の標準サイズだったと思われる14インチの場合
・Aランク=10~18万円
・Bランク=6~12万円
・Cランク=5~7万円
こんな感じです。
つまりパソコン用モニタに接続しようと思えば、本体と変わらない額が必要だったわけで、つまりは単純に購入価格が倍になる。
当時のエントリモデルであるPC-6001mkⅡは9万円弱ですが、モニタまで含めると15万円になるし、そんなのは存在してなかったけど、もしファミコン専用モニタがあれば、んでCランクと変わらない値段だとするなら、モニタが本体の5倍以上することになってしまうわけで。
というかね、ゲームしかしないのであれば、別にRF出力でもコンポジット出力でも構わないんですよ。だからゲーム機に専用モニタが必要かと言うと、まったくそんなことはない。
しかしパソコンは別です。何故なら当時のパソコン=プログラミングを行うマシンだったから。
黎明期のファミコンソフトのほとんどはアクションゲームであり、あとはスポーツゲームかテーブルゲームのテレビゲーム版でした。
こうしたゲームを遊ぶ限りは文字を読むことがほとんどない。せいぜい麻雀ゲームくらいです。
RF出力やコンポジット出力の最大の問題は「文字が読みづらい」ことです。ま、ゲームなら問題になりづらいけどプログラミングをするとなったら死活問題で、ボケボケの滲んだ、判別が難しい文字を追ったりしたら<眼>がやられる。
だからパソコンにはほぼ専用モニタが用意されていたんです。
さて、ここでちょっとだけMSXのことを語りたい。
MSXはあくまでパソコンというカテゴリとして発売されました。実際、すべてのマシンにキーボードが標準で付いてるし、当時のパソコンの必須とも言えたBASICという言語も内蔵ROMにある。そこだけ取れば十分パソコンです。
しかし、どうも、MSXを純粋パソコンとするにはためらいをおぼえる。理由は大半のMSXは専用モニタが用意されてなかった=RGB出力がなかったからです。
つまり家庭用テレビにつなぐことを想定したもので、それを言えば先ほど触れたPC-6001mkⅡもそうなんだけど、PC-6001mkⅡにはちゃんと専用モニタもあればRGB出力も用意されていた。つまり「やろうと思えばやれる」わけで、どうやっても専用モニタにつなぐことが出来ない大半のMSXとは雲泥の差がある。
つまり、あくまでアタシの個人的な意見ですが、MSXは「パソコンライクな使い方が出来なくもないゲーム機」だったと思う。
パソコンであるからには「ゲームで遊ぶことも出来る」よりも「プログラミングが出来る」ことの方が優先順位が上なのです。つまりプライオリティの問題です。
結果としてはMSXはそのシンプルな構成から「MSXでプログラミングを覚えた」という人を量産したし、実はアタシもその中のひとりです。しかしそれはあくまで結果論であって、解像度の低さとRGB出力がない=ボケボケ滲み画面で文字を打ち込まなきゃいけないってことを考えれば、やはり、プライオリティはゲームの方が高かったと思うのです。
余談ですが、マイクロソフト+アスキーは(たぶん一番は西和彦だろうけど)「あくまで表面上はパソコンである」ことにはこだわったとおぼしい。カシオかどっかが「キーボードレスのMSX」=完全にゲーム機スタイルのMSXを発売しようとして拒絶されたらしいし。
そんなこだわるもんかね、と今になっては思うけど、当時はゲーム機なんてパソコンよりも一段も二段も下に見られてたからしょうがないか。
話を戻しますが、プログラミングがしやすい環境というのはRGB出力があるだけじゃダメで、解像度とは切っても切り離せない。
先ほど挙げた当時のパソコンで最高額のPC-9801Fは640x400ドットの解像度を誇った。今見ればSD解像度にも劣るけど、これはファミコンのほぼ4倍です。
解像度がいくら高くてもゲームの開発という面では、実はほとんど寄与することはないのです。どうしても情報量が多くなってしまって無駄にデータを食うし、当然動作も遅くなる。当時はRAMの値段が馬鹿高かったので、解像度に相当するデータを扱うだけでも相当なマシンの負担になる。
つまりこうも言える。
当時のパソコンメーカーはゲームなんてまるで眼中になかった。パソコンはあくまでプログラミングをするためのものであって、ゲームを遊ぶため(もちろん作るため、も含む)の機能なんて、どうでもよかったと。
先ほどより(主題が主題なので)色数しか言及していませんが、MSXを除く当時のパソコンはゲーム機ならば当然あるべき、これらの機能はほぼ搭載されていませんでした。
・スプライト機能
・ハードウェアスクロール機能
・ジョイスティックをつなぐための端子
もちろんこれらはファミコン(ハードウェアスクロールにかんしてはセガはマーク3から)には当たり前のように搭載されていたものです。
これではいくら解像度が高くても、色数を無視したにしろ、まともな「アクションゲーム」が作れるわけがない。
個人的にはひとつくらい、ゲームの作りやすさを優先したパソコンが出ても良かったと思うんだけど、実際には「ゲームの作りやすさ最優先マシン」はファミコン発売から4年後のX68000まで待たなければなりませんでした。
だけれども、もし、ファミコンが発売された翌年の1984年からスーパーマリオブラザースが発売される1985年9月までの間に「プログラミング優先のパソコンではあるんだけど、ゲーム開発に特化した(スプライトやハードウェアスクロールを搭載した)パソコン」が発売されていれば、ほんの少しだけ流れが変わったかもな、とは思うわけで。
具体的には
・CPU Z80H
・RAM 64kbyte
・解像度 320x200
・色数 64色中16色
・音源 FM音源搭載
・ファミコン相当のスプライト機能、縦横ハードウェアスクロール、カラーPCG装備
・ジョイスティック端子(アタリ規格)装備
・ROMカートリッジスロットorクイックディスク装備
・価格 10万円前後
こういうのを出してりゃ、ちょっとは売れたとは思うけど、ま、アタシが詳しくないだけで無理な事情があったんだろうけどさ。
ここらでPage2に続きます。