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PHSに花束を
FirstUPDATE2021.2.23
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 何しろ古い話なのでどのプランを選択したのかは忘れたのですが、2002年になってアタシはDDIポケットのコンパクトフラッシュ型PHSカードを購入しました。

 当時アタシはJornada568というPDAを買ったばかりで、何とか、もうちょっといい感じに活用したいと思ってね。それでDDIポケットと契約したんだけど、「iモードが馬鹿らしい」と思っていたのが一番大きい。
 今となっては信じられないかもしれませんが、この当時、iモードの公式サイトを閲覧するには「月額料金」がかかっていたのです。ま、NetflixやAmazonプライムのようなサブスクリプションとも言えなくもない。
 しかし閲覧出来るのは映像でも音楽でもない、ごく普通のサイトです。ケータイでの閲覧を考慮してはあったけど、有料ならではのコンテンツが用意されているわけでもなく、パソコンで見たらタダなのにケータイから見ると月額料金が発生してしまう。
 しかしPDAからならパソコンサイトを閲覧することになるので当然タダ。ってこれはこれでPHSの料金がかかるし下手したらそっちのが高いのかもしれないけど、気分的にはスッキリするわけで。

 何より「閲覧しやすいソフトウェア越しにネットが見れる」魅力が大きかった。
 この頃、PDA、というかPocketPC用に「2++」という非常に優れたソフトがありました。
 名前から何となくは察してもらえるかもしれないけど、本来はいわゆる2ちゃんねるブラウザなのですが、RSSやメール受信をサポートしたことで一気に万能ブラウザになったのです。
 ま、万能は大袈裟だな。しかし「定期的に巡回するサイトを見て回る」のにこれほど適したソフトはなかった。というか2++の使い勝手に相当するソフトはiPhoneやAndroidのアプリにさえない。

 とくに大きかったのは「ネットがつながる場所で巡回させてしまえば、閲覧はオフラインで出来る」ところで、会社のWi-Fiで帰る前にRSSや2ちゃんねるスレを巡回させておけば(ま、いろいろユルい時代でしたから)ネット回線を敷いてなかった家でもサイトの閲覧が出来る。
 これは本当、便利きわまりなく、当時のPDAが「ネットにはつながっていないことが前提」というのを逆手にとったような、実に優れた機能でした。
 とはいえね、オフラインで閲覧できるのは、遡ること数時間前に取得した、まァいや古い情報です。やはり、出来ることなら、いつでもどこでも最新情報を取得したくなるってのが人情でして。

 この当時のPDAというかPocketPCはブラウザの性能が著しく低く、まともなサイト閲覧が難しかった。画像を一切表示しないテキストブラウザなら、まだ何とか、というレベルで、もし2++がなければアタシはDDIポケットと契約はしなかったと思う。
 2++があるからPDAの性能でも快適に特定のサイト閲覧が出来る、という前提条件があったから、んでどうせなら2++で最新情報を取得したいという欲望があったからDDIポケットと契約したわけでね。

 2003年に入ってからのことです。
 DDIポケットのエアーエッヂに対抗して、もうひとつのPHSキャリア(もうこの頃はアステルは死に体だった)であるNTTドコモが勝負を挑んできた。それが「@FreeD」です。あ、ちなみに「アットフリード」と読みます。つかこの当時のネーミングってこんなんばっかだな。
 @FreeDは月額4,800円でDDIポケットより1000円安い(どうもこの時点でDDIポケットのつなぎ放題コースは5,800円に値下げされてたらしい)のにプラスして、通信速度が64kbpsとDDIポケットの倍。あ、これはいいかも、と思い乗り換えを検討し始めたんです。

 DDIポケットの若干の不満点は「絶妙に通信速度が遅い」ことで、というのもこの当時、大阪のMBSラジオがね、大阪でしか流れない「ありがとう浜村淳です」のストリーミング配信をやっていたのです。
 東京に在住していたアタシはこれが聴きたくてチャレンジしたのですが、DDIポケット回線ではどうしても、数秒に一回止まるんです。これがものすごくイライラした。ああ、せめてISDNレベルの速度なら、何の問題もなくストリーミングが聴けるのに、と。
 @FreeDのサービスが開始してから約一ヶ月後の5月3日、アタシはDDIポケットからNTTドコモに乗り換えた。何で日付までわかるかというと日記が残っているからで、生々しい感情をお伝えする意味で、この日の日記から(若干割愛しつつ)@FreeDにかんして書いてある箇所だけを転載します。

●速い!
単純に32kから64kになったのだから速いのはあたりまえだが、体感速度でいえば5倍くらいになった気がする。

●ドーマントうざい
無通信状態が約90秒続くとドーマントといわれる状態に入り(表面上はつながっているのだが実は切断されている、らしい)、ふたたび通信しようとするとつなぎ直すという作業を勝手にするのだが、これはかなりうざい。(中略)やはりAirKeeperのようなユーティリティは必須か?

●ネットラジオが聴ける!
ドーマントの問題をおぎなってあまりあるのが、このネットラジオが聴ける点。要するに、データをずっと流しっぱなしなら非常に高速な通信状態が保てるわけで、ネットラジオを聴くにはうってつけなのです。
AirH”ではまったく聴くに堪えなかった「ありがとう浜村淳です」がばっちり聴ける!しかもバッファ待ちは一番最初にあるだけで再生中は一切なし!思わず1時間フルで聴いてしまいましたよ。
(中略)
感想としては「酷評されてたわりには結構いいじゃん」て感じ。

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 いやぁ、AirKeeperとか、メチャクチャ懐かしいわ。そんなの使ってたなぁ。
 にしても、たかだか64kbps如きで『非常に高速な通信』と書いてるのは笑うわ。もうADSLはもちろん光回線もあった時代、いや会社の回線は光回線だったのにね。

 さてアタシは翌2004年に愛機Jornada568がぶっ壊れたのを機に再びPHSとは縁が切れるのですが、ちょうどJornada568が壊れたくらいの時期に、こんな噂が流れだした。

「どうもシャープがリナザウをあきらめてPocketPCに参入するのではないか」

 当時シャープはPalmともPocketPCとも違う、LinuxベースのPDAを発売していたのですが、どうも開発が行き詰まったようで、心機一転、マイクロソフト側に付くのではないか、という話が某巨大掲示板あたりを駆け巡りました。
 この噂は本当になった。しかもかなり驚天動地の商品を出してきた。何と、DDIポケット改メウィルコムを巻き込んで、<PDA>ではなく<スマートフォン>として出してきたのです。
 それが「WーZERO3」です。
 これはもう、当時のPDAを考えれば<全部入り>の商品で、Wi-Fiはもちろん、カメラやスライドキーボードまで搭載されている。まさしく「こんなPDAが欲しかった!」とPDAマニアが狂喜乱舞するレベルだったんです。
 しかしこれはPDAではない。スマートフォンです(まだこの頃は<スマホ>という略称は一般的ではなく<スマフォ>などとも呼ばれていた)。スマートフォンであるからには<素>のままでデータ通信はもちろん<通話>も出来なくてはならない。

 それまでアタシが使っていたのはPDAです。PDAもPHSカードを刺せばデータ通信は出来たけど、通話が出来るわけじゃない。つまりPDAがあってもケータイの代わりにはならなかったのです。
 ということは、PDAを持っていたところで別途ケータイも持たなきゃいけないってことです。つまりは必然的に2台持ちになる。
 これがWーZERO3なら通話機能も付いてるので一台持ちになれる。ついに、アタシがPDAなるものにハマった当初に描いていた夢が実現することになったんだから、そりゃあアタシだって狂喜乱舞するわけですよ。

 しかしウィルコムとシャープはより巧妙な<手>を打ってきた。PHS通信機能というかモバイル通信機能を本体内に内蔵させるのではなく、「WーSIM」という規格を作り、コンパクトフラッシュをひと回り小さくしたコイツを本体に装着すれば通話も通信も出来る、という仕組みを打ち出してきたんです。
 今考えてもこの<やり方>は画期的と言ってもいい。
 WーSIMにはSIMカードの機能はもちろん、PHS通信に必要なチップも内蔵されている。もし今後、より高速で高機能なPHS回線のサービスが始まってもWーSIMを差し替えるだけで最新の回線を使える。よしんばケータイ回線のWーSIMが発売されればケータイ回線でネットが使える。
 昨今、いよいよ5Gサービスが開始されましたが、これをWーSIMに当てはめるなら、5G対応のWーSIMが出れば、4Gはおろか3G時代に発売されていた旧機種のスマホでも5G回線が使えることになる、と。
 他にも「気分によって持ち出す端末を変えることが出来る」などのメリットもあり、若干回線の掴みが悪くなるというデメリットも気にならないほど、素晴らしい規格だったとつくづく思う。

 最近はSIMロックフリーという考え方が当たり前になりつつありますが、その代わり「特定のバンドに対応してなければそのキャリアでは使えない」という、ある意味、SIMロックフリーよりもどうしようもない縛りが注目されるようになっています。
 たとえば新規参入した楽天モバイルなど、仮にSIMロックフリー端末であってもドコモやソフトバンクから発売されていたほとんどの端末ではバンドが対応しておらず使えない、というふうになってしまっている。
 こんなことも、もしWーSIMが世界的に普及してデファクトスタンダードになっていたら何の問題もなかった。今となってはたしかにWーSIMのサイズは若干大きいんだけど、これもサイズを小さくした「miniWーSIM」とでもいうべき規格も昨今の技術なら可能だったと思う。

 2010年、つまりWーSIMの規格が発表されて5年後です。ウィルコムは会社更生法の適用を申請し、結果、ソフトバンクの傘下に入ることで決着しました。
 ソフトバンクの一ブランドでしかなくなったウィルコムは積極的な、というか、それこそWーSIMのような意欲的で先進的な展開が望めなくなり、やがて名称もYmobileに変更されてPHSの取り扱いも停止した。その後はたんにソフトバンクのサブブランドでしかなくなり、2021年になってついにPHSは停波されることになりました。

 もう一度おさらいしておきます。
 「家から持ち出せるコードレス電話機」から出発したPHSは、その中途半端さを逆手にとり、データ通信に特化して生き残りをはかった。そして現在では当たり前なデータ通信使い放題の先鞭をつけることになった。
 PHSにとって通話はあくまでオマケだった。主力はデータ通信。モバイルで、つまり外出先でインターネットが使いたいという需要に応えようとしてきたし、事実、2000年代のなかばまでは「モバイルデータ通信と言えばPHSを使うのが常識」となっていた。
 しかしケータイ回線が高速化&常識の範疇まで料金が下がるとメリットが薄くなってきた。
 それでもウィルコムは孤軍奮闘した。
 次世代PHSとしてXGPの実験を続けてきたウィルコムは、会社更生法の申請がなされる前年の2009年には正式なサービス開始までこぎつけている。
 アステルが早々に離脱し、NTTドコモも撤退した中、DDIポケット→ウィルコムは最後の最後まで頑張った。PHSはケータイのサブセットではない、という姿勢で戦い続けた。

 その考えは令和になった今、どれほど正しいものだったかがよくわかります。
 現在は通話機能はどんどん蔑ろにされ、通話をするにしてもみなLINE通話やZOOMを使う。通話回線での、つまり電話番号で発信する通話はほぼビジネスの場と問い合わせくらいになってしまった。
 安定したデータ通信が出来れば通話など<オマケ>でしかない、SIMカードを差し替えることで端末を自由に選べる、というウィルコムが想定した未来は現実となったのです。
 悲しいことに、もっとも的確な未来予測をしたウィルコムへの還元は何もなかったと言っていい。実際、Ymobileに「元ウィルコム」という形跡なんて何もないんだから。

 もはやアタシが愛したPocketPC→WindowsMobileなどのPDAが人々の記憶から消えてるように、遠くない未来に誰もPHSなんて憶えてない、なんて日がくると思う。
 思えばマイクロソフトのモバイル規格であるWindowsMobileとPHSは二人三脚だったんだな、と痛感する。何のことか、アメリカで開発されたはずのWindowsMobileと日本生まれのPHSの相性は抜群だったし、片方が消えただけで共倒れになる未来しかなかったんだと思う。

 本当、それにしてはよく頑張ったよ、PHS。もう、これ以上、花束を贈るのに相応しいサービスもないと思うわけで。







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