ナマこそ至高、にならなかったのは
FirstUPDATE2019.8.25
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こないだのエントリで「テレビの根幹と言える番組はスポーツ中継である」と結論付けたのですが、ま、その続きっつーか別角度から深堀りしようと。

また、そのエントリ(現注・リライトしたものをココに置いています)では「スポーツ中継、テレビドラマ、<中継>という形で芸を見せる番組以外は、たとえニュースであってもテレビというメディアにおいては枝葉」とも書いた。
まァ、何というか、これだとちょっと誤解を生みそうだなと。それこそアタシが熱心に見てきたバラエティ番組さえ<枝葉>なのか、となってしまう。
何とか上手く説明出来ないかな、と思っていたところに、とあるYouTubeを見てね。

さて、何度もネタにしている「水曜どうでしょう」ですが、今年に入ってそのディレクターである藤村Dと嬉野DがYouTubeチャンネルを開設しました。
アタシはどうでしょう藩士、ではないけどファンであるのには違いないのでマメに見ているのですが、基本はふたりが酒を飲みながらくっちゃべっているだけです。とくに生配信の時は1時間も2時間もその状態が続くという。

この「何か起きるわけではないんだけど、時間だけが流れていく」ってのが実に水曜どうでしょうらしいなぁと思ってたんだけど、実は藤村Dは生放送が嫌いで、ずっと逃げ回っていたらしい。
もちろんディレクターとしての話ですが、作る側からすれば生放送なんてつまらないだけだと思っていたと。
しかし彼らのYouTubeチャンネルは何度も生配信をやってるし、生配信の面白さもちゃんと理解している。
かなり矛盾っぽいんだけど、ちゃんと理屈があるわけでして。

とは言っても「編集して良いところだけを摘んだ方が面白いだろ」みたいな幼稚な話じゃない。
藤村D曰く、何故生放送がつまらないかと言えば、どうしても作り手が「収録済み番組並みの完成度を目指してしまう」からだと。
生放送はきわめてタイムキープが難しく、グダグダになりやすい。だから厳密にタイムキープして時間がくれば問答無用で<次>に進めようとする。結果、生放送は時間に追われるだけになってしまって「生である良さをまったく活かせず、完成度の低い収録済み番組にしかならない」と。

数年前、生放送の復権が叫ばれいくつかの新番組が生放送を売りにしていたけど、プライムタイム以降の時間帯に放送された生番組は全部失敗している。それって結局、藤村Dの言う通り、出演者も裏方も(もちろん視聴者も)誰も楽しめてなかったからなんじゃないかとね。
生放送をやるにあたって一番やっちゃいけないのは「計算通りにやる」ことです。
いやね、これはアタシがテレビの根源であると定義したスポーツ中継が「筋書きのないドラマ」と呼ばれているのと同じなんですよ。

次の瞬間、何が起こるか、視聴者はもちろん、中継スタッフも、そして当の選手自身も、予測不能なのがスポーツの魅力であり、計算なんて立つわけがないんです。
ところが昨今のスポーツ中継を見てると、あからさまに「スタッフの望み」が垣間見えるようになった。「こうなって欲しい」「こうなった方がよりウケる」みたいなのが伝わってくるんですよ。
揶揄されることが多い「さあ大谷だ」とか、マジでスポーツを馬鹿にしてるとしか思えない。んでもし本当に大谷が活躍したら、さも活躍させたのはディレクターことワタクシだ、みたいに思ってんじゃないかと穿ってしまう。

正直ね、これはテレビ局の「驕り高ぶり」だと思う。実際の結果よりも自分たちが考えた筋書きの方が面白い、より視聴者にウケると思っている。つまりはスポーツの魅力を一切理解してないんですよ。これでは視聴率なんて取れるわけがない。
予測不能なのが生放送の魅力なのにがんじがらめにしてしまう。絶対コントロール出来るわけがないスポーツ中継でさえコントロールしようとするくらいだから、バラエティなんか言うに及ばずで、何というか、100点になる可能性を消して0点にならないことばかり考えてるっつーか。それでもまだすべてをコントロールしたことによって65点になるのならいいけど、結局40点にも満たない点数しか取れてないのにさ。

別にね、生放送だからといって全部をグダグダにしろとは言いません。例えば、それこそ「8時だョ!全員集合」でも前半のコントは作り込んでいた。でもその分後半はわりとグズグズにしており、押しに押して合唱隊のコントが実質カットになったり、エンディングテーマのビバノン音頭が恐ろしく速いテンポで演奏されたりしてましたからね。ま、だからそこまで厳密なタイムキープはしてなかったんでしょう。
まァ、結局は、今の時代っぽいというか、テレビ番組のようなある意味クリエイティブなものでさえ、成功したいんじゃない、失敗したくないだけなんだ、みたいな考えが蔓延しているんでしょうな。

バカウケするギャグをカマそうと思えば、同時に大スベリする可能性もあるんです。逆に言えばスベる可能性を減らそうとすればするほど、ウケたとしてもたいしたウケ方ではない、ということになる。
正直、失敗ばかりを恐れるなら生放送なんかするなよと思ってしまう。失敗上等、その代わり成功した時は世間を賑わせるほどの大成功になるんだから、と思うスタッフはいないのか。

一昨年にやった新しい地図の72時間のヤツとか、あれは失敗を恐れてなかったんですよ。つかあからさまに「成功」を目指していた。だから話題になったんだと思う。
ま、でもあれは<テレビ>じゃないけどね。つか情けないわ。ああいう「成功」を目指した番組がネット配信しかないってのが。

だから結局そこに戻っちゃうんだけど、やっぱテレビ局はスポーツ中継にもう一回力を入れるべきというか、スポーツというものを見つめ直すべきだと思う。
純粋にスポーツの面白さをダイレクトに伝える。そこにはディレクターの浅い計算なんかない。まずそれをやれるようになるべきなんですよ。
んで、それと同じやり方をバラエティに転用する。お膳立てはしっかりやるけど、本番になったらタイムキープなんか気にしない。

尻切れトンボでもいいじゃん。だって生放送に「つつがなくやり遂げる」ことなんか誰も期待してないんだから。







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