今だから!アルバム「スーダラ外伝」
FirstUPDATE2018.11.25
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 「今だから!アルバム「スーダラ伝説」」というエントリにて、1990年11月25日発売のアルバム「スーダラ伝説」について書いたのですが、今回は翌1991年同日発売の「スーダラ外伝」の話を。

 「スーダラ伝説」はいわば植木等復活の狼煙となったものなので語られることが多いし、「植木等ショー!クレージーTV大全」(洋泉社刊)でも座談で経緯が語られている。
 しかし、第二弾となった「スーダラ外伝」はというと、もうファンの間でさえ記憶から消えかけているのではないでしょうか。
 「スーダラ外伝」の製作はかなり早い段階で決まったはずです。少なくともコンサートツアーの前には決まっていたのは確実で、しかも植木等自身も珍しくノリノリ状態だったし、ある程度の売り上げも見込めるわけですから、一見良いことづくめに思えます。

 ただし、唯一にしてとんでもない問題があった。
 「過去の植木等を新しい形で見せる」というのは前作の「スーダラ伝説」でやった。しかも余すところなく、少しでもヒットしたものは全部メドレーの中に押し込めた。
 つまり「過去の遺産」のうち「使えそうなもの」はほぼ消費した状態でスタートしなければならなかったのです。
 先のエントリでアタシは「スーダラ伝説は植木等、宮川泰、大瀧詠一の各人がやりたいことを無理矢理詰め込んだ、コンセプトのないコンセプトアルバムみたいなもの」と言うようなことを書きました。
 次期アルバムは、見せ方のところで3種類に分けるしかない。

・過去の遺産のさらなる掘り起こし
・完全新作の植木等節
・現在の植木等の年齢に相応しい新曲

 これは如何にもしんどい。「さらなる掘り起こし」と言っても、植木等らしいパワフル且つ普遍性のあるものとなると、もう映画の挿入歌から掘り起こすしかない。
 あとはコンサートで歌った「しじみメドレー」をより完全な形で整えるのと、「スーダラ伝説」から外された「無責任」というワードの入った楽曲を仕立て直すくらいです。
 では一曲ずつ見ていきます。


1.無責任数え唄(ハイカラ版)
 アタシの記憶ではアルバム「スーダラ外伝」と同時発売シングルとして「無責任数え唄」と発表されていたはずですが、それが発売直前になってカップリング扱いに変わった。
 たしかに今聴くとそれほど悪くないのですが、何だか妙に気取ったアレンジで、植木等らしさが若干浮いている。おそらく製作者側に「あまり出来がよろしくない」という判断があったような気がする。

2.ハッスル・ホイ
 アルバムの先頭曲としてはこっちの方がはるかに良い。何故2曲目にしたのか理解に苦しみます。
 「♪ この世は春だよッおォ祭ゥりィだ~」という歌詞が省かれた理由もよくわからない。

3.やせがまん節
 リテイク曲としては「無責任数え唄」よりもずっと出来がいい。上手い具合に3コーラス分あるのも都合がいいし。
 実はクレージーの楽曲としては非常に珍しいデキシーランドアレンジなんですが、宮川泰の手腕が冴え渡り完成度が高いんですよ。

4.よろしく音頭
 「年齢相応」に相当する楽曲ですが、正直オンタイムでは「辛気臭いなァ」と思っていました。
 しかしこれまた、今聴くと結構いいんです。植木等が肩の力を抜いて軽めに歌っているのもいい。

5.デタトコ勝負
 待望の完全新作植木等節ですが、歌詞が青島幸男作のものに比べるとエスプリが弱い。しかしそれを補って余りあるのが宮川泰のアレンジで、萩原哲晶とはまったく関係ない、宮川泰独自のコミックソング解釈が素晴らしい。

6.ゴマスリ音頭
7.だめでもともと
9.今日もやるぞやりぬくぞ
 どれも映画の挿入歌ですが、うーん。悪くはないんですよ。しかし別に初期作品からの選挙にこだわる必要はなかったんじゃないかなぁ。
 後期の作品でも「なせばなる」とか「こりゃまた結構」とか「静かな午后のひととき」とか、あの辺から選べば良かったのに、と当時から思っていました。

8.ダイナ
 これはもう、完全にディック・ミネ追悼のために急遽挿入したって感じです。
 しかしアレンジも悪くないし、植木等の歌もこなれており、何だ、どうせなら全部ディック・ミネのカバー(厳密にはカバーのカバーだけど)でもいいんじゃないかと思うくらいで。ま、売れないだろうけど。

10.スーダラ外伝
 アルバムの表題曲でありながら、実はこれが一番しんどい。どうやっても「無理矢理かき集めました」感が拭えないっつーか。ラストの「スーダラ節」なんか、どうしようもないくらい<とってつけた感>があるしさ。
 いくら植木等が「その気」でも、やっぱり良い楽曲を提供してあげないとどうしようもないですよ。

11.ハイそれまでョ
 これは謎だなぁ。うーん、何で収録されたんだろ。
 いや、セルフカバーとしてはぜんぜん悪くないんだけど、もしかしたら「このままじゃアルバムとして弱い」という判断で急に入れられたんじゃないか、と勘繰ってしまいます。

12.どこまでも空

植木等の「どこまでも空」を聴くと自然に涙が出てくる。往生の寸前、珍しく体調が良くて病院の屋上で空を眺めてる時の心境としか思えない(後略)(2014年1月27日付Twitterより)


 もう引用に尽きる。「スーダラ外伝」の頃はまだまだ元気だったけど、約15年後を予感して歌ったとしか思えない。比呂公一、一世一代の名曲!


 全体としては「スーダラ伝説」よりはまとまったアルバムですし、植木等のノリも良く、また浅いファンでも不満が出づらい楽曲ばかりなのはたしかです。
 ただし、飛び抜けてコレ!というのがないのが辛い。個人的には圧倒的に「どこまでも空」なんだけど、従前の植木等らしいかと言えばらしくないわけですし。
 それでも「スーダラ伝説」のように「アルバム単位で繰り返し聴くとしんどい」というようなことはない。意外な発見がいろいろあるからね。

「映画の挿入歌から掘り起こす」てアイデアは悪くないんだけど、どうせどれも短いんだから「無責任伝説」とか「日本一伝説」とか「作戦伝説」みたいな感じでね、「スーダラ伝説」みたいにメドレーでまとめたら良かったのに。というかタイトルからして「スーダラ伝説」に勝てるのは「無責任伝説」しかないでしょうが。ねぇ。




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