耐え難きを耐え忍ぶ街・新橋
FirstUPDATE2018.5.7
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 新橋のサラリーマン、と聞いただけで特定のイメージが浮かぶようになったのはいつ頃からなんだろうか。
 とにかく、ホワイトカラーのオッサンをとっ捕まえて、どーでもいいことをインタビューする、なんてのは一種の発明だと思う。たしかにああいうインタビューが挟まるだけで「一般大衆のお父さんのホンネ」みたいな空気になるもんね。
 ま、くだらない発明だとは思うけどさ。

 アタシは新橋には何の思い入れもありません。
 たしかにアタシは東京でサラリーマンをしてたけど、オフィスは新宿だったので新橋はぜんぜん関係ない。飲み屋は多いはずだし、もしかしたら名店と呼ばれるような店もあるのかもしれないけど、新宿勤めの人間がわざわざ新橋くんだりまで繰り出してはいかない。何よりアタシは酒飲みじゃないからね。
 そんなアタシですが、では過去に遡っても新橋に何の縁もないのかと言うと違う。思い入れはまるでないけど、一年近く、毎週のように新橋に通っていたのです。

 あれは2002年のことです。ということはアタシがサラリーマンだった頃。さらに言えば昨年書いた超長文連作「決別に花束を」の頃です。
 新宿にオフィスがあるのに何で新橋に通ってたかと言うと、詳しくは書かないけど、新橋でね、毎週研修があったんですよ。
 アタシが勤めていたのは広告代理店だったんだけど、この研修に毎週出ることが代理店になれる条件だったんだからしょうがない。一応アタシはデザイン部門の責任者だったから行かないわけにはいかなかったんです。

 と言っても週イチの研修は他の広告代理店と合同で、時間的にも一時間半ほどで終わる。朝から直行で新橋に行って研修受けて、新橋の辺で昼メシ食って会社に戻る。
 研修は面倒だけど、内勤のアタシからすればほんのちょっと仕事をサボったような気分になれるので、これはこれで嫌ではありませんでした。
 それだけなら新橋って場所にも良いイメージが付きそうなものだけど、問題は月イチの研修です。
 こっちは合同ではなく単独。アタシと所長とオペレーターの3人で受けるんだけど、とにかく時間が長い。朝の9時から夕方の5時まで。
 え?それって普通の定時じゃん。何が辛いの?と思われるかもしれませんが、いやぁ、今思い出してもあれは地獄だわ。もう二度とやりたくない。

 かなり狭めの部屋で研修が行われる。その中にはアタシをはじめとするウチの会社の人間が3人、そしてレクチャーをする先方の人。計4人。もうこれだけで息苦しさみたいなのはわかってもらえると思います。
 そして何より辛いのはですね。
 レクチャーする側は教材を手に延々喋り続ける。喋り続けるって書くと感じ悪いけど、懇切丁寧に説明してくれているわけです。
 一方こっちは完全に聴くだけ。質疑応答どころか発言の機会もまったくないし、基本向こうは教材を読んでるだけなのでメモを取ることすらないんです。
 これを昼休憩1時間挟んで朝の9時から夕方の5時まで、ですからね。

 免許更新の時の授業みたい、と言えばわかってくれる方もいるか。
 あれも基本は向こうの話を聴くかビデオを見せられるだけだし、完全なまでに受け身です。だから眠くなって当たり前。我慢出来ずにウトウトしている人も結構いるしね。
 でも免許更新のヤツはその辺の考慮もしている。わりとどーでもいいアンケートを書かせたり、挙手させたりして、いわば「参加」させようとはしています。
 でもアタシが受けていた研修はそうしたことは一切配慮していない。何も能動的な行動を許さず、と言えばオーバーだけど、さすがに8時間ほぼぶっ通しで喋ることも手を動かすことも出来ない状況で、眠くならないわけがない。しかもそれが普段の仕事で疲れ果てていたならなおさらです。
 しかし、眠れない。ほとんど膝を突き合わせるような状態でレクチャーを受けているんだから、どう考えても居眠り出来る状況にないっつーか。

 しかし人間ってのは偉大だね。そんな状況でも眠れるんですよ慣れてくると。もちろんレクチャーする人にバレないやり方でね。
 一応半目は開けている。ま、教材に目をやってる=うつむいている状態なので、半目さえ開けていれば大丈夫です。
 んで、テキトーにうなづいたりもしてるし、レクチャーする人が教材をめくると、こっちもちゃんと同じタイミングでページをめくったりもする。
 でも意識は完全に寝ている。信じられないかもしれないけど、研修が終わった時には「軽く寝た」感覚なんです。
 もちろん研修の内容なんて何も憶えちゃいないですよ。何しろ意識は寝てるんだから。
 ま、たしかに失礼かもしれないけど、これは向こうも悪いよ。眠くなる状況を整えすぎだわ。免許更新程度でもいいからさ、ちょいちょい参加させなきゃ、せっかく研修をやってるのに研修の意味がまるでなくなるよ。
 いや仮に眠らなかったもしても「必死で眠気と戦わなきゃいけない」って時点で研修の意味を成してないわ。

 いったいこれのどこが新橋という「街」の話なんだ、と思われるでしょうが、しょうがないよ。
 だっていまだに新橋となると、サラリーマンでも飲み屋でも停車場でもSLでも芸者でもなく「眠気地獄」が浮かぶし、何なら新橋って聞くだけで眠くなるんだから。

1960年代の邦画を愛する人間にとって「新橋=芸者」でして、死ぬまでに一回は新橋で芸者遊びをしたい。前に某人に連れて行っていただく約束をしたんだけどコロナ云々でペンディングになったままだし。
いやせめて、普通の飲み屋でもいいよ。チェーン店じゃなくて個人でやってる「小料理屋」なんて暖簾を出してる店。そこでチビチビやりたい。なんてささやかな夢なんだ。




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