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「スーダラ伝説」前夜のクレージー
FirstUPDATE2018.4.2
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 1990年当時、つまり「スーダラ伝説」発売前の時点で、クレージーキャッツに興味を持つ人間にとって、状況はけして恵まれたものではありませんでした。
 この頃、普通のレンタルビデオ屋に置いてあった東宝クレージー映画は

・ニッポン無責任時代
・日本一のホラ吹き男
・日本一のゴマすり男
・クレージーだよ・奇想天外
・クレージーの怪盗ジバコ

 あと鴨下信一が編集した東宝クレージー映画のアンソロジービデオ「CrazyCatsDeluxe」を含めても、たった6本。シリーズNo. 1の呼び声の高い「ニッポン無責任野郎」も、円谷英二が特技監督をつとめた「大冒険」も、超大作「クレージー黄金作戦」も観ることが出来なかったのです。
 ただし、うらぶれたレンタルビデオ屋に行くとたまに1970年代に発売された作品を置いてあることがあり、アタシはそれで「日本一のショック男」のビデオを手に入れた。
 ま、1970年代に発売されたものはトリミング版なので、今となっては何の価値もありませんが。

 一方CDはというと、これも数種類の「ベスト盤」が発売されている、といった程度で、さすがにこの頃買ったベスト盤は手元にない。そこで「クレージー映画大全」を参考にさせてもらいます。

・クレイジー&ドリフCDベスト
・クレイジーキャッツCDベスト
・クレージー・キャッツ・デラックス
・ビッグアーティストベストコレクション・ハナ肇とクレージーキャッツ

 これで、すべてです。もちろん収録曲は似たり寄ったりというか、ほぼ「ダブり」で「スーダラ節」や「ハイそれまでョ」なんかはすべてのCDに収録されているのに、マイナーな曲はまったく収録されていない。「ベスト盤」と銘打っているんだから当然かもしれませんが。
 志村けんが「ウンジャラゲ」をリバイバルヒットさせた影響で、一番後発の「ビッグアーティストベストコレクション・ハナ肇とクレージーキャッツ」にはクレージー盤「ウンジャラゲ」が収録されているのですが、アタシは「ウンジャラゲ」を聴きたいという理由だけでこのCDを購入しています。
 あと「スーダラ伝説」発売直前に「あっ!!元気がでるCD」というコンピレーションアルバムが出て、これには「毎度毎度のおさそいに」が収録されていたので、やはり購入しています。
 たった一曲のためにCDを買うなんて相当「濃い」ファンみたいだけど、本当の「濃い」ファンはレコードで探すからね。かといって「薄い」ファンは購入するベスト盤は一枚だけ、ビデオはすべてレンタルで済ませてるわけで、ま、当時のアタシは「中濃」くらいってことになりますか。(今考えるとCDを買うよりレコードを探した方が圧倒的に安いんだけど、当時アタシが住む大阪には歌謡曲専門の中古レコード屋がほとんどなかった。東京なら「えとせとらレコード」とかいっぱいあったんだけどね)

 ここまでの話を整理するなら

・クレージーキャッツの再活動は絶望的だった
・とくに植木等がクレージー的なことをやりたがらないという噂が根強かった
・映画はほんの一部しかレンタルビデオ屋になかった
・ベスト盤の類いが数種類発売されているだけで、主要のヒット曲以外は聴けない状況だった

 んで、当たり前すぎる話だけど、何しろ1990年ですからね。インターネットなんてないわけで。そこはYouTubeで・・・、なんて出来るわけがない。
 そんな状況下でリリースされた「スーダラ伝説」が如何に驚愕モノだったか、これでわかっていただけたのではないかと。

 さてここからは「スーダラ伝説」が発売されて、どのように状況が変化したかを書いていきます。
 「スーダラ伝説」は15曲に及ぶヒットメドレーですが、この中にただ一曲、当時のアタシがまったく聴いたことがなかった曲が含まれています。
 それが「いろいろ節」です。
 前回挙げたベスト盤のどれにも「いろいろ節」は収録されておらず、この曲が劇中で使われた映画、具体的には「クレージー作戦・先手必勝」も「日本一の色男」もビデオ化されていない。もちろん中古レコード屋を回れば手に入れることは出来たのですが、CDやビデオといったニューメディア(ってのも大概懐かしいな)では「いろいろ節」を聴く手段はなかったのです。
 この状況は1991年発売の「クレイジー・シングルス」によって打破されます。
 すべてのシングルのA面B面、ジャケット付きで復刻したこのCDで、初めて聴くことが出来た曲は山ほどありました。
 その中には当然「いろいろ節」も含まれていたのですが、最初に聴いた時は本気でぶっ飛んだ。「スーダラ伝説」での一部分だけで受けた印象とはまったく違った。
 とにかくイントロからして他のクレージーソングとは傾向が違うというか、たしかに「ハイそれまでョ」と同様に転調を活かしたパロディなのですが、あまりにもインパクトがありすぎて絶句してしまったのを昨日のことのように思い出します。
 その後「ハイおよびです!!」「植木等・女の世界」「谷だァー☆ガチョーン!!」と立て続けにリリースされて、これでクレージーソングを取り巻く状況は一気に変わった。これで公式レコーディングされた曲の大半が気軽に聴ける状況になったんです。

 しかし映画は、というと、あまり変わらなかった。
 たしかに植木等がブームになったおかけで東宝クレージー映画をやる劇場は増えた。アタシは関西のあちこちに足を運び、念願だった「大冒険」や「ニッポン無責任野郎」を観る機会を得ることが出来ました。
 それでも全作、となるとほど遠く、しかも楽曲のように気軽な状況ではない。何故なら一向にビデオ化が進まなかったからです。
 理由は何となくはわかるんですよ。というのもこの頃植木等主演映画の企画が進行しており、最新作が公開された時期を見計らって旧作をビデオ化する算段だったんでしょう。
 ところが新作映画の製作は頓挫し、当然ビデオ化もペンディングになってしまった。

 しかし、時期ははっきりしないのですが、おそらく1992年か1993年頃、宝島探検隊というブランドで数本の映画がビデオ化されました。しかも1990年の時点でビデオ化されていなかった「ニッポン無責任野郎」や「日本一の色男」を含みます。
 ただ普通には手に入らない。レンタルしているビデオ屋もなく、わずかにアコムのビデオ屋だけでレンタルしていたのです。
 アコム?そう、あのアコムです。レンタルビデオ屋もやっていたんですねぇ。
 ただアコムのレンタルビデオ屋はあまり店舗がなくて、ようやく見つけた店舗でアタシは3本ほど借りたんですが、以降続刊される気配もありませんでした。

 1994年になって、ついに東宝クレージー映画のメディア化が始まります。
 末期3作品を除く全作品が対象でしたが、ところがこれがレーザーディスク。いや、手元に安価で譲り受けたレーザーディスク本体はあったんだけど、レーザーディスクとなるとレンタルではなく購入になってしまう。
 さすがに金銭的に全作品揃えるわけにはいかず、結局アタシは「クレージーの大爆発」を買ったきりでした。

 レンタルビデオ屋に行けば、ほぼ全作品観れる状態になったのは2000年代に入って以降です。しかしこれとて全作品とはいかず、「日本一の裏切り男」「日本一の断絶男」はDVD化はされたものの、何故かレンタル扱いは見送られ、もちろん末期4作品はDVD化さえされませんでした。
 2010年代に入ると講談社からムック本という形でDVDが発売されますが(「昭和の爆笑喜劇DVDマガジン」)、これも末期4作品は除外されている。
 2015年になってようやく日本映画専門チャンネルで末期4作品を含む全30作品が放送されましたが、いまだに「東宝クレージー映画全30本」が<揃い>でメディア化されたことがないのです。

 楽曲にかんしてはその後も復刻が進み、公式レコーディングされたものでいえば「パパといっしょに」に収録された数曲を除いてほぼ復刻されたと言えます。
 しかし映画はご覧の有様。つまり「スーダラ伝説」直前よりはマシになったとはいえ、劇的に「手軽」になったかというと、なってない。とにかくただの一本もBlu-rayで発売されていないのはどういうことだと思う。このご時世に。
 犬塚弘以外のメンバーが鬼籍に入られた今、「スーダラ伝説」クラスの波が来ることはあり得ないと言い切れるはずで、たとえばNetflixやHuluのような動画ストリーミングサービスで東宝クレージー映画全作が配信される可能性も、けして高いとはいえない。
 アタシがちょっとだけお手伝いした「植木等スーダラBOX」なんか、時期を考えれば本当によくリリース出来たと思うけど、もうああいうのさえ出すのは難しい時代だと思う。

 ホントにねぇ、アタシが億万長者なら採算なんか一切無視して、映画全作品はもちろん、まだメディアになってない楽曲やテレビ番組を「気軽」に体験出来るようにするんだけどねぇ。ま、そっちの方がもっと無理って話もありますが。

アタシなんか新参も新参のクレージーファンと自覚しているのですが、クレージーキャッツに興味を持ったのが「スーダラ伝説」よりほんのちょっと前だったこともあって、ギリギリ「スーダラ伝説」前夜のことを憶えていたので、こういうエントリを書いたわけです。
というか本当に書きたかったのはレンタルビデオとレンタルCDの影響力の大きさの話で、今は(CDのダビングはとくに)グレー扱いだし、そもそもサブスクがあるので存在感が薄くなりましたが、どれだけサブカル少年たちに影響を与えたか、どうもそこが蔑ろにされてる気がして。
ま、それなりに書けたんじゃないでしょうか。




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