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沖縄まんきつまんユル旅
FirstUPDATE2007.5.16
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 アタシとNは折り詰めを手にレンタカーに乗り込みました。
 クルマに乗った瞬間、どちらともなくふたりとも笑い出した。マジで、フフッ、エヘヘへッ、ギャハハハッ!!みたいな感じでね。

「見た?後ろのガイコクジン?」

「もちろん!初めて見ましたよ、お腹いっぱいになって悶絶してるガイコクジンとか」

 もうホテルへの帰り道、ふたりっとも笑いっぱなし。お腹いっぱいガイコクジンの話から、信じられないくらいの量のソーキそば&汁、そしてAランチとBランチ。話としてはそこまで面白くないのかもしれないけど、実体験としては強烈すぎる。そりゃもう、笑えるとかと言うよりは笑うしかないよねって話で。
 Page1にてアタシは「Nとは喋ったこともなかった」とか「如何にも勉強が出来そうな」とか「あんまり面白くなさそう」みたいに書いたけど、これで一気にNと打ち解けた。
 たしかにNはエリートっぽい感じなんだけど、フツーの感覚を持った面白い奴だった。前言撤回するみたいだけど、この沖縄出張の相方がNで本当に良かったと思ったわけで。
 ま、これで終わればメデタシメデタシなんだけど、ホテルについてしばらくしたらNから電話がかかってきた。

「ヤバいですよ。とにかくテレビを見てください」

 アタシはすぐにテレビをつけた。すると天気予報をやっていて、どうも明日あたり沖縄に台風が直撃しそうだと。
 うーん、これはたしかにヤバい。そう言えば雨も降ってきたし、明日飛行機が飛ばないことは確定なんじゃないか。

 それよりもヤバいのはアタシの手持ちです。
 完全に2泊3日のつもりで来たので、余分なカネをまったく持ってきてなかった。もし明日飛行機が飛ばないとなると沖縄でもう一泊することになる。しかしどう考えてもホテル代はない、と。
 翌日になりました。やはり台風は直撃したようで、窓の外は暴風雨になっている。うん、空港に電話するまでもなく欠航は確定だ。
 とりあえずS社に電話すると、悪いけどそっちでもう一泊してくれ、ホテル代は後で精算するから建て替えておいてくれ、と。
 もうこうなったらしょうがない。Nに頼むしかない。
 幸いNは多めに持ってきており、快く貸してくれたけど、何だか非常に申し訳ない気になってね。
 つか、何とも言えない情けなさがあったと言うべきか。

 沖縄で延泊、と言っても外は暴風雨なんだからホテルから一歩も出られない。ホテルの中で食事して、あとはテレビを見るだけ。こんなつまらん沖縄もない。
 まァ今ならいくらでも暇の潰し方はあるんだけど、何度も言うように1999年の話だから。ネットもない時代に(なくはないか。ま、ネットもない環境で、ですか)、何もやることがなくホテルに缶詰めは辛すぎます。雑誌も本も何も持ってきてなかったし。
 ああ、何で、オレ、沖縄になんかいるんだろう・・・。

 ま、何とか沖縄3日目が終わったのですが、翌日は早朝にチェックアウトして、すぐさま空港に向かった。
 天候は清々しいほどの晴れ。台風一過ってヤツですか。しかしこの後が清々しくない。
 航空会社の受付カウンターへ行くと

「申し訳ないのですが、空席待ちになります」

 だと。
 そりゃさ、当日のチケットを持ってる人の方が優先かもしれないけど、こっちだってそっちが欠航したから待たされたんだよ。ま、台風のせいだから仕方ないけど、それにしても空席待ちかよ、と。
 幸いなことに次の福岡行き便で空席があるという。順番に並んで、よしギリギリ乗れるってところまで来たんだけど、何と空席はあとひとつだと言うんですな。
 NはS社では先輩とはいえ年齢はアタシの方がだいぶ上。ここは年長者パワーで「ではお先に」とやっても良かったんだけど、どうも前日「ホテル代を建て替えてもらった」ってのが引っかかる。たしかにS社に戻れば精算してもらえるんだけど、カネのないアタシに都合をつけてくれたのはNです。

「乗ってっていいよ。次の便で帰るから」

 もうそういうしかなかった。

 飛行機で沖縄に行かれた方ならご存知だろうけど、沖縄の空港は実に狭い。その狭い中に人がごった返している。そりゃこの日搭乗する人に加えて前日搭乗する予定だった人までいるから当然なのですが、腰を下ろすところを見つけるのもやっと、といった状態でした。
 しかもアタシは荷物が多い。一応「スチールカメラ撮影の出張」として沖縄に来ているのです。私物の量はたいしたことないんだけど、とにかく機材が多い。そして重い。ジュラルミンのカメラバッグがふたつ、んで私物が入ったリュックがひとつ。
 これを持ってトイレに行くだけでもひと苦労です。
 これだってもしNがいれば「荷物見てて」と言えば済む話なのに、下手に動いてしまうとせっかくの居場所も取られてしまう可能性があるので、おちおちとトイレにも行けない。
 うーん、トイレでさえ難儀しているのに、メシを食いに行くなんかとんでもないぞ、と。

 昼過ぎ、ようやく次の福岡行き便が来た。よしよし、何とかこれで帰れる。
 しかしホッとしたのもつかの間、何とこの福岡行き便には空席がひとつもないというのです。
 順番的にひとつでも空席があればアタシは乗れる。けど、どこまで運がないのか、たったひとつの空席もない。しかも次の福岡便は夕方。軽く見積もってもまだ5時間はある。
 当然その夕方の便だって絶対空席があるという保証はない。いやもっと言うなら本日中に搭乗出来ない可能性だってゼロではないわけです。
 アタシは全身の力が抜けた。もし仮にすべてが上手くいったとしても、この状況をまだ5時間も続けなきゃいけないのかよ、と。
 最悪の状況になったら、今度こそホテルに泊まるカネもないし、空港で夜を明かすことになってしまうわけで。


 いやいや、そんな先々の悪い想像をしてもしかたがない。つかもう午後1時を回っている。つまりはメシ時も過ぎている。腹も限界に近い。
 そうだ、とりあえずはメシだ。しかし・・・どうやって?
 売店までの距離は約50m。とりあえず、見通し良好。これだけ見通しが良ければカメラバッグを置いて、腹に溜まりそうなものを速攻で買って、全力で戻ってくれば大丈夫。よし、行くぞ・・・。

ダッシュ!
買う!
再びダッシュ!


 ・・・ったく、何やってんだった話ですよ。
 そりゃね、周りはファミリーばっかりなんだからこの重たいカメラバッグが盗まれるケースはゼロに近いけど、言ってもこれは借り物だから 絶対に何があっても盗まれるわけにはいかない。S社のいい加減さを考えると、仮に盗まれても笑って許してもらえそうだけど、さすがにそれはね、人としてヤバいと思うし。
 それにしてもたかだか昼メシを買いに行くだけで、何でここまで苦労せにゃならんのだ。つい2日前は「どうやってこのソーキそばを片付けようか」と苦悶していたのに、今は菓子パンひとつ手に入れることさえ、ここまで苦労する有様かよ、と。
 ああ、やっぱ先にNを帰すんじゃなかった。いや待つことはしょうがないとしても、ひとりでただ悶々と待ち続けるのは、あまりにも辛すぎる。もちろんスマホも何にもない時代だからさ。退屈をしのぐ手立てが皆無っつーね。
 アタシは人見知りだなんだと散々書いてますが、さすがにここまでの状況に追い込まれたら、そんなことは言ってられない。
 せめて誰かとこの苦悩を分かち合いたい。しかしNはいない。周りを見渡してもファミリーばかりで話しかけられそうな人はいない。

 しかし、たったひとり、アタシ同様ツレがいなさそうな人が近くにいた。
 ただ、声をかけるのに躊躇した。もしその人がオッさんとかおばあさんとか、若い兄ちゃんとかなら、普通に話しかけたと思う。
 だけれどもその人は女性。それも若くて美人だったし。これはやっぱり逆に声をかけづらいわけですよ。ま、要するにナンパだと思われそうで。
 でも、アタシの精神状態的に、そんなことを言っていられる場合じゃなくなった。思い切って声をかけてみよう。

「あの、おひとりですか?」

 すると、同じく孤独に耐えかねていた女性はにこやかに話に乗って来た。やっぱ、寂しかったんだね。そりゃそうだよこの状況じゃ。
 それからしばらく、その女性と話をした。しばらくったって、たぶん3時間とか4時間ですよ。十分たっぷり、と言える長さですね。

 彼女は沖縄にカレシがいて、定期的に遊びに来ているようだった。しかし定期的にって、沖縄に定期的にってのは遠いよな。こーゆー事態もあるし。

「どこから来たんですか?」

「関東です。知らないかもしれないけど、川崎ってところなんですけど」

 川崎?知ってるなんてもんじゃない。アタシは福岡に移住する前に湘南に住んでたんだから、川崎なんて頻繁、とまではいかないけど、何度かは行ったことがある。

「でも川崎だったら、もう半分東京みたいなもんですよね」

「え!?よく知ってますね!そうなんです。行かれたことあります?」

 みたいな感じで川崎話で盛り上がった。

「でも毎月沖縄ってさすがに大変でしょ。いっそ沖縄に移住しようとは思わないんですか?」

 そう聞くと、彼女は神妙な面持ちになり、いかに沖縄に移住するのが大変なのかを語り出した。
 とにかく沖縄は仕事がない。かと言って結婚して養っていけるほどカレシの稼ぎもない。だから川崎に住んで、向こうで稼いで、定期的に沖縄に来る方が現実的なのだ、と。

 うーん、何となくそういう話は聞いたことがあったけど、これが現実なんだ、と思い知らされた。と同時に軽々しく「沖縄に移住すれば」なんて言った自分が恥ずかしかった。

「ところでそれ、カメラバッグですよね。プロのカメラマンなんですか?」

 ・・・あ、それ、聞く?ま、たしかにね、そんなようなことはしてるけど、間違ってもプロのカメラマンとは言えない。
 かと言って正直に「ただのバイトです」とも言いかねた。つかそっちのがもっと話がややこしいし。
 しょうがないからテキトーに言葉を濁した。ま、だいたい、そんな感じです、みたいに。
 それにしても、人様に「ワタクシの職業はカクガクシカジカであります!」と言えない状況ってのは、情けないなぁ。こんなことしてちゃ、本当にダメだわ、と痛感した1999年夏。ま、今もたいして変わらないけど。

 そうこう喋っているうちに福岡行きの便が来た。今度は幸運にも空席があるという。やれやれ、ついにこれで帰れるぞ。

「じゃあ、そんなわけで失礼します。カレシと上手くいけばいいですね」

「ありがとございます。ではまた」

 ま、これがこの女性と今生の別れになることはわかっていた。連絡先の交換はおろか、名前すら聞かなかった。
 でもそれでいいと思った。お互い、絶望的なまでに孤独な状況で、何とか状況を打破出来たんだから、それで十分じゃないか。

 アタシは無事福岡に帰ることが出来ました。んでS社で精算して、ようやくNへの借りも返せた。うん、今度こそメデタシメデタシ。
 それにしても、沖縄の空港で会った女性、無事カレシと上手くいったんだろうか、とふと考えることがあります。
 この時から8年後、アタシは再び神奈川県に在住することになった。しかも「仕事関係の買い出し」で、酷い時とか川崎に週3ペースで行ってたし。
 でね、川崎に行くと、あの時の女性に会わなきゃいいなといつも思ってた。だってまだ川崎にいたとするなら、沖縄のカレシと上手くいかなかったってことになるわけだから。
 もちろん今、仮に正面からぶつかったもしても「あの時のヒト」だって認識出来ないと思うけどね。もういろいろ朧になってるしさ。何しろ20年以上前の話だから。

 ただ、神奈川県から神戸に移り住んだ今、やっぱり、あの女性ともう1度話したい気がする。
 ても、もちろんナンパじゃないよ。つかアタシも、おそらく向こうもナンパするされる年齢でもないだろうし。
 そうじゃなくて、川崎、変わりましたよね!みたいな話がしたいなと。いや今現在、その女性が川崎に在住しているかどうかは関係なくて、ラゾーナって周りづらいですよね、とか、やっぱ、さいか屋がなくなったのは寂しいですよ、とか、そういうことをね、もし語り合えたらいいなと思うだけで。

 って沖縄の話だったはずなのに最後は川崎の話になっちゃったけど、まァいいや。

最後、何だか妙に良い話っぽく終わりそうだったので、少しフザけてしまいました。
このネタ、何度もリメイクしており、最古は2007年にmixiで書いたものです。もっともその時はこんなに詳細に書いておらず、2018年に大幅増補して、ほぼ完成したんです。
ただ、本サイトには奄美大島の話の前フリとして使っただけでオミットしたんだけど、奄美大島ネタを大きくリライトすることになり、再び沖縄ネタを独立させました。基本的には2018年に書いたものがベースだけど、結構変えています。
で、2023年4月にエントリタイトルを微妙に変えた。つか微妙に下衆にしました。
っても下ネタじゃないからね!「まんユル」って「ユルーい空気感で満たされた」ってことだから!!




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