幻のクレージー映画
FirstUPDATE2004.11.30
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 <幻の>なんていうと大袈裟極まりないのですが、まぁ要するに<企画はあったものの実現しなかったクレージーキャッツの映画>のことです。

 ちょっとややこしいので今回は、田波靖男が書いた「ニッポン無責任時代」のオリジナル脚本(「無責任社員」)や、「日本一の裏切り男」と「日本一の断絶男」の没シナリオ(映画化されたものと大幅に内容が違う。詳しくはココ)のことは置いておくことにします。
 よくクレージー関連の書籍で紹介されているものとして

 「クレージー大作戦」の原型になったと言われる、古澤憲吾監督、田波靖男・松木ひろし脚本による
「クレージーの悪党宣言」

 「クレージーの怪盗ジバコ」の原型だったと言われる
「クレージーの素敵にオモシロイことしよう」(一部資料では「素敵にオモロイことしよう」)

 小松左京の原作を山田信夫がシナリオにまとめ、ハナ肇主演・クレージーキャッツ共演で、岡本喜八が映画化する予定だったがペンディングされたままになってしまった
「日本アパッチ族」

 小林信彦が渡辺プロ社長の渡辺晋にシノプシスを話したという
「無責任捕虜収容所」

 青島幸男がオリジナルシナリオを書いたものの、結局映画化されなかった
タイトル不明作

 新聞紙上にタイトルのみ掲載された
「クレージーの大忍術」

 などがありますが、これ以外のことを。



・「ぶっつけろ」
 1970年ごろ、大のクレージーファンを自認し、クレージーキャッツの映画を撮ることを切望していた市川崑が、ハナ肇・植木等主演のカーチェイスものを企画、記者会見まで行ったらしいが、結局映画は完成しなかった。

・「帰ってきた無責任」
 「帰ってきた若大将」を製作した渡辺晋が、夢よもう一度、とばかりに企画したものの、渡辺晋の体調不良、そして早すぎる死によってペンディングされたままになってしまった。

・「平成版・無責任男」(仮題)
 「スーダラ伝説」が発売された1990年、植木等の紅白出場を祝うかのように、東宝でクレージーキャッツのメンバー総出演の新作映画がつくられることが正式決定、1992年公開予定、と1990年12月30日付の日刊スポーツが報じました。
 この記事の中には「芥川賞を受賞した人気作家に脚本を以来しており、9月にはクランク・インする見込みだ」とあります。「芥川賞を受賞した人気作家」というのは誰だか不明ですが、この時点で可能性のあった芥川賞受賞者を挙げてみると

・北杜夫(かつて「怪盗ジバコ」が映画化されたことがある。ただしその出来栄えに憤慨したそうだけど)

・阪田寛夫(「みんな世のため」、「空を仰いで」の作詞者)

・村上龍(大のクレージーファンとして知られ、所ジョージ・河崎実とクレージーについての鼎談もしている)

 あたりでしょうか。まぁ当事者に聞くしか答えはわかるまいが。

 その後、翌1991年の6月6日に続報が掲載され「秋からは“平成無責任男”の映画製作が待っている」とありますが、つまりこの時点まではまだ企画は進んでいたようです。
 しかしこれ以降、まったく続報がなくなり、結局企画は中断された模様。

 そして・・・、これは記憶のみで書くのですが、この当時、ローソンのCMで高島政伸が「ローソンの若大将」として出演しており、これを映画化して「平成版・無責任男」の併映にするという話もあった気がする。これも惜しい企画で、高島政伸なら加山雄三のイメージにとらわれない、若大将と青大将を足したような新しい若大将がうまれた可能性は十分にあったと思う。

・「クレージーのオーシャンズ11」(仮タイトル)
 これはタレコミで知ったもので、「平成版無責任男」が頓挫した1992年頃、クレージーキャッツ全員主演で「オーシャンズ11のような」映画を作る企画があったらしい。
 何度か脚本作りに向けての話し合い(ブレーンストーミング?)があった後に、ハナ肇の逝去などがあり頓挫した、ということみたいだけど、これも惜しいなぁ。たぶんものすごく「日本映画っぽくない」作品になった気がするのに。

 こんなもんですかね。もしかしたらまだまだ企画段階でツブれた話はあるかもしれませんが、わかり次第書いていきます。

・付記
 正直<付記>というほどでもありませんし、付記としては長すぎるのですが、まァ読んでみてください。

 たぶんこの中で唯一、準備稿とはいえ脚本が完成し、しかも公表までされたのにペンディングになった「日本アパッチ族」のことを触れておきます。
 「日本アパッチ族」にかんして、結果的にペンディングになった理由として、ほぼふたつの説があります。

① 岡本喜八の前作「江分利満氏の優雅な生活」が興行的に振るわなかったばかりか、東宝本流のサラリーマン喜劇を想定していたものとはあきらかに違う異質な作品であったため東宝幹部連が激怒し、次回予定作だった「日本アパッチ族」を取り上げられた、という説

② 原作者の小松左京が断ったという説。

1960年代の東宝では、反体制的な色合いの濃い映画になりかねませんでした。私はそれがいやでした。従って私のほうから映画化を断ったのです。


 ただし

平井和正さんにもっとシュールでハチャメチャで奇想天外な映画になるよう脚色を依頼しました。しかし平井さんも忙しく、結局、映画は実現しませんでした。


 ともあります。
 実際に脚本を執筆したのは山田信夫であり、このタイミングで平井和正(SF作家)に依頼した、となれば話が違ってきます。
 もし「平井和正に依頼して」「多忙で断られた」とするなら、わざわざその後山田信夫に執筆させた上で映画化を断ったというのは話として矛盾しています。

 もしかしたら、ですが、小松左京が平井和正に脚色(脚本?)を依頼したものの断られたため映画化自体の話も断った、のは「岡本喜八監督、クレージーキャッツ主演」として企画されたものとは別のタイミングだったかもしれません。

 しかし、では①の説の方が正しいのか、と言うと、これも疑問がないわけではない。
 「江分利満氏の優雅な生活」が公開されたのは1963年11月です。東宝クレージー映画で言うなら「クレージー作戦・くたばれ!無責任」(10月公開)と「香港クレージー作戦」(12月公開)の間に公開されたことになるわけです。
 「香港クレージー作戦」の後、「日本一のホラ吹き男」と「無責任遊侠伝」まで半年ほど空白があるのは植木等が病気療養のためであり(本来は「無責任遊侠伝」は3月頃公開予定)、別に「日本アパッチ族」のためにスケジュールを空けていた雰囲気はまったくありません。

 さらに岡本喜八は1964年4月公開の「ああ爆弾」を撮影している。
 ①の説を信じるなら「岡本喜八は「江分利満氏の優雅な生活」の責任を取らされ、一時的ではあるが干された」ということになるわけですが、干されたにしてはあまりにも期間が短すぎる。
 小松左京の原作本「日本アパッチ族」をお読みになった方はおわかりでしょうが、相当破天荒な内容で、これなら岡本喜八の次回作としては危険すぎる、と判断されるのもわからないではないのですが、そんなことを言えば「ああ爆弾」もけして安全な企画とは言えず、かなり実験的なミュージカルコメディです。
 個人的には「江分利満氏の優雅な生活」の興行的失敗の責任を岡本喜八が取らされたとするなら、こんな危険な(むろん<興行的に>の意)企画にゴーサインを出すわけがないと思う。
 むしろ、内容はともかく「クレージーキャッツ主演」という<保険>がある分、どう考えても「日本アパッチ族」の方が興行的に安全な企画である、と言えるはずです。

 つまりいずれの説も、アタシ個人としては<眉唾モノ>という判断をするしかなく、このふたつの説とは別の「渡辺晋が脚本を読んでクレージーキャッツを貸すのを渋った」という方がまだ説得力があります。

 小松左京による原作はまったくクレージーキャッツと相容れない内容で、何しろ舞台は大阪であり、しかも<アパッチ族>なるものは「鉄を食う」という、怪物めいた人間とは異なる種族です。
 さらにどこか同和めいたニュアンスもあり、いろんな意味で危険な話でして、どう考えても渡辺晋が目指した「わかりやすい喜劇」から逸脱するものになった可能性が高い。
 ただしこの独自説も「渡辺晋が主導して企画が進められた」という話もあり、やはり、絶対的な説得力に欠けるのですがね。

 そしてもうひとり、クレージーキャッツ映画の統括プロデューサー的存在だった藤本真澄も、内容が内容なだけに(何しろ「ニッポン無責任時代」でさえ激怒した人だから)クレージーキャッツを主演というのは、と思っても不思議ではない。

 こうなると、少なくとも4人(平井和正も含めるなら5人)とも、断る、もしくは断られるだけの理由があり、だからといって誰も決め手がなく、「真相は藪の中」としか結論付けしようがないのです。
 すでに関係者全員が鬼籍に入っており、いまさら<真実>がわかるわけがない、ということになります。

 また何かわかりましたら、さらに追記したいと思います。

元エントリが短いので、もうちょっと何とか読み応えを、と思って「日本アパッチ族」の話を追記したのですが、追記にしてはちょっと長すぎるね。
ま、ひとつのエントリにまとまってる方が読んでいただける方には読みやすいのですが。




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