植木等×須川栄三×佐々木守による幻の世界
FirstUPDATE2004.5.5
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一 きのうはあの娘と恋をした

  今日はこの娘とペッティング

  あしたどこ娘とベッド・イン

  気にしちゃいけないおっかさん

  俺は日本一の断絶男

二 競馬マージャンはしご酒

  もうしませんと誓約書

  直ぐに忘れてバーがよい

  気にしちゃいけないおやじさん

  俺は日本一の断絶男

三 猛烈バンバン仕事する

  つもりがサウナで昼寝して

  あっと言うまに退社時間

  気にしちゃいけない社長さん

  俺は日本一の断然男




 いきなり歌詞で始まりましたが、タイトルはわかりません。作詞者も、おそらく田波靖男と思われるけど、はっきりしない。まァたぶん某組織にも登録されていないだろうと決め込んで、つい歌詞を書いてしまいましたが、この歌こそ「日本一の断絶男」の幻の主題歌なのです。

 クレージーキャッツの人気凋落がはっきりしたといわれる「クレージーメキシコ大作戦」から半年。東宝と渡辺プロは、それまで古澤憲吾が演出していた「日本一」シリーズの監督として、須川栄三を迎えます。
 結果出来上がったのが「日本一の裏切り男」で、それまでの「日本一」シリーズとはひと味違う、シニカルな佳作となりました。
 須川はさらに翌年「日本一の断絶男」を撮っていますが、この2本はクレージーマニアのみならず、一部の邦画ファンの中でも評価の高い作品になった。しかしそれは結果論であり、本来「大衆的でわかりやすい喜劇」を求められていたクレージー映画と、シニカルな須川栄三の作風は水と油といってもよいはずです。

 そこで2者をつなぐ役割として、脚本にまだ新進気鋭だった佐々木守と早坂暁が起用されるのですが、彼等が用意したシナリオは、ある意味2者の想像を越えるシニカルかつラジカルな要素を持っていたんです。
 実際に出来上がった「日本一の裏切り男」と「日本一の断絶男」は、まァギリギリ(本当にギリギリだけど)、東宝の枠内に収まって、いるのはいる。しかし当初用意された脚本は、当時の<昭和元禄>の気分をまんまシナリオにしたようなシロモノで、今読むと相当面白い。いや面白いというより、一時代を築いたクレージーに、自分達が築いてきた文化を自らオチョクらせるかのようなヤケクソなパワーが漲っているのです。

 ちょっと勿体つけましたが、このエントリでは現存する、しかしその存在すらあまり知られていない「日本一の裏切り男」と「日本一の断絶男」の準備稿について書いていきたい。ちなみにさきに書いた歌詞は「日本一の断絶男」の準備稿に記されているものです。


◇ 日本一の裏切り男
 まず準備稿を読んで驚くのが、実際に撮影された作品ではラストシーンになっている「日本列島居抜きで売った!」というシーンがいきなりトップシーンにあるのです。つまりこの男(主人公の日の本太郎)の回想として物語が語られる、という構成になっているわけですな。(ただし回想的な表現は一切ない)

 細部は違うとはいえ、話そのものは大筋同じで、年代別にパートが分かれているなども完成された作品と変わらない。では何が大きく違うかといえば、ラストが大幅に違う。
 完成作品でのラストは、1970年、再軍備法案が可決され、植木等が国会議事堂の上で叫んでいるというものですが、このシーンは先ほどかいた通り、トップシーンで使っている。ではどうなっているかというと、時代をさらに進めているのです。
 要するに、再軍備が可決された日本が、そして日の本太郎と大和武がどうなったかを描いており、なんと当時緊迫状態だった某国と戦争(!)になり、出兵シーンなどがあった後、ラストでは日の本を率いた大和が戦車にまたがったシーンで終わっている。

 おそらくピンときた人もおられるでしょうが、この作品の脚本のひとりとして佐々木守がクレジットされています。その佐々木守がのちにかいたテレビドラマ「お荷物小荷物」のラストは、この「裏切り男」の準備稿とほぼ同じような展開をみせるのです。
 ボツになったシナリオを再利用したというか、日の目を見なかったアイデアをリベンジさせたというか。
 なんにしろ佐々木守の執念には恐れ入る。ほんらい映画よりはるかに制約の多いテレビドラマで、このラジカルな展開を実現したのだから。ただしこの「お荷物小荷物」はかなり特殊なドラマで、当時は「脱ドラマ」と話題になった作品であり、だからこそ許されたという面はあったんでしょうけどね。


◇ 日本一の断絶男
 完成作品のクレジットでは<脚本・田波靖男/佐々木守>となっていますが、準備稿の段階では佐々木守の名前はなく、田波靖男の単独執筆だったことが読み取れます。
 「日本一の裏切り男」の場合は「構成を一部入れ替えた」程度ですが、「日本一の断絶男」の場合、ストーリー自体がまったく違う。冒頭に例の歌唱シーンがあり(ただし夢想)、八百広告社を舞台に話が展開していく。つまり日の本一郎は最初から八百広告社の社員という設定なのです。

 「日本一の断絶男」の準備稿。画質は悪いが、右下を見ると<準備稿1>の表記と<1969.7.30>の日付がある。なお実際には<東宝・渡辺プロ製作>なのだが、なぜか<製作・配給 東宝株式会社>となっている。


 脚本は田波靖男のみ。佐々木守の名前はない。


 この段階では、まだキャストは未定だったようだ。


 トップシーン。タイトル不明の歌詞が記載されている。

 他にも

・「相田雅子」というヒロインが用意されている(キャストは不明)

・完成作品で緑魔子演じるミミ子は影も形もない

・なべおさみが演じた丸山はでてくるが扱いは小さい

・セミナーなどのくだりはまったくない

・ラストでは冒頭の歌詞で暗示したとおり(?)、日の本の女好きという設定がいかんなく発揮されている

 準備稿を読んだ印象としては、笠原良三が書いた「日本一」シリーズがベースになっており、それに田波が書いた初期の「無責任」と前作「裏切り男」を混ぜ込んだような感覚になっています。あくまでサラリーマン物というベースを守りながら、そこにシニカルな要素を入れていったという感じといえばいいか。
 では完成作品とどちらが面白いかといえば、これは微妙です。完成作品の方は当然のことながら細部まで練りこまれており、アイデアのツイストもある。しかしこの準備稿も、それまでのクレージー映画に慣れ親しんだ人にとっては、こっちの方が親しみやすいともいえるんですよ。

 たとえばクライマックスのヤクザ組事務所の殴りこみシーン。準備稿では警官がなだれ込んで、そこで一件落着となりますが、完成作品では<ヒネリ>が加えられていて、踏み込んだ警官が手出しできないという設定に変えられている。だからこそ植木等のマシンガンぶっ放し、そして気球につかまっての「どうもどうも」につながるのですが、「わかりやすさ」や「カタルシス」だけを考えると準備稿もけして悪くないと思う。
 どちらが面白いかは考えるだけ無駄ですが、結局はどちらが須川栄三の好みの展開かってことでしょう。

 ちなみにアタシが見た決定稿も実際の完成作品とはトップシーンが違います。
 決定稿にはちゃんと佐々木守の名前があり、まるで「裏切り男」の復讐戦かのように夢想シーンがトップに用意されています。
 この中に<猿の心臓移植>というネタがあるのですが、面白いことに「裏切り男」の準備稿にもこのアイデアがあるんですよ。これは当時国内初の心臓移植が行われたことにたいする風刺なんでしょうが、どちらもボツになっている。佐々木守のアイデアなのは間違いないとして、これも「お荷物小荷物」のように再度トライしたのかは自分は知りません。

 「日本一の裏切り男」と「日本一の断絶男」は、須川栄三と佐々木守が植木等という素材を使って、自分たちの持つアナーキーな感覚を極限まで表現しようとした作品です。
 東宝という大メジャー会社(しかも「明るく楽しい」をモットーとする)で、実際どこまで表現できたのかは疑問ではあります。しかしこの、結果的にはボツになった準備稿を補間として読むことによって、彼等が本当にやりたかったことがわかるような気がするわけで。

今だから白状しますが、このエントリを書いた時点では「日本一の断絶男」の準備稿は所有してましたが、「日本一の裏切り男」の準備稿は持ってなかったんです。ま、見たことがあるかないかで言えば某所で(どこかは言わないけど)見たのは間違いではないのですが。
その後、「日本一の裏切り男」のボツ台本も手に入れたわけですが、蒐集、ということで言えば中途半端すぎる。というのも「裏切り男」も「断絶男」も準備稿、決定稿含めて数種類あるんですよ。んですべて微妙に内容が違うという。
でも全部集めるのはマジ大変だわ。つかそもそもアタシは蒐集家っつーかコレクターじゃないんですよね。




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