えと先週、コラムニストの泉麻人にかんする動画をアップしたのですがね。
ま、泉麻人の「街のオキテ」という書籍の一部をコスったんだけど、この本、一部ではなく全部を読んでも面白い。
とくにアタシが引っ掛かったのは綱島理友(現在はプロ野球のユニフォーム研究で知られるが、書籍が発売された1980年代後半頃は雑誌「POPEYE」の編集スタッフ)との「パンチパーマ」についての鼎談で、こんなやり取りがあるのです。
綱島 ゴージャスって言葉とパンチパーマっていうのは、ピッタリくるけれどね。
泉 だから食べ物なんかでも、ゴージャスってことから一番つながってくるのが、ステーキだと思うんだ。
(中略)
泉 (前略)食べ物はやっぱりサービスステーキに代表される肉食だろうね。
「パンチパーマのヒトはサービスステーキを好む」という、今だったらアウトな発言ですが、何よりおかしいのは「サービスステーキ」というワードです。
これはこの鼎談が行なわれた1980年代だろうが2020年代だろうが、やっぱり「ステーキ」という食べ物にはゴージャスなイメージがつきまとう。よほどの高級部位、例えばシャトーブリアンのステーキでもない限り、実は下手したら焼肉のが高いかもしれないけど、それでもステーキと聞くと「高い」というワードが反射的に浮かんでしまうのは、もうしょうがないと思うんですよ。
しかし、しかしですよ。ステーキという無敵の「高そう」ワードの前に「サービス」というフレーズが付いてきたらどうでしょう。
何かもう、一気に「庶民のもの」というふうになる。一流企業勤めではない、そこいらのサラリーマンがランチで、別に値段にビビることもなく食ってる、そうした「躊躇しなくていい感じ」が庶民っぽさに拍車をかけています。
と同時に、どこか「侘しさ」のようなものも感じる。よりによってゴージャスの代表選手のステーキのランクを一気に5段階くらいダウンさせる「サービス」という言葉の強さがすごい。
実際、この「サービス」というワードは何でもイケる。
サービス高級車、サービスゲーミングPC、サービス一戸建て。ま、さすがに「サービス一戸建て」は手を出す人は少ないだろうけど。
もうひとつの、似たパワーワードとして「見切り」というものがあります。主に「見切り品」などというシールを貼られてワゴンの中にあるのですが、こちらは少しニュアンスが変わってくる。何か少し、若干の安全性に問題がありそうな感じがある。
それこそ「サービスステーキ」ではなく「見切りステーキ」なら「もしかしたらちょっと腹が痛くなるかもしれないな」と思うはずです。
しかし「サービス」にはそのような心配が一切ない。たぶんあんまりステーキに相応しくない部位を使って、つまり素材を安く仕入れることで安価で提供してるんだろうな、みたいな感じがします。
もちろん、何しろ「サービス」なんだから「ステーキ」と聞いてイメージされる味よりは劣るかもしれない。もしかしたらかなり硬くて噛み切るのが大変かもしれない。
でも安全面は保証済みだし、多少硬いくらいなんだ。実はそういうところの方が肉の旨味が濃いんだ、と自分を納得させることも可能です。
多少の硬さはパンチパーマのヒトたちが持つパワフルさで克服する。何より、何たって「サービスステーキを出す」ような店であれば気安いムードの店なのは確定で、かしこまる必要もテーブルマナーをマスターしておく必要もない。
・・・というイメージなのだろうか。パンチパーマ=サービスステーキって。ま、たしかに多少の侮蔑は入ってはいるんだけど、言ってることはわかる。
ただね、ここ数年パンチパーマが絶滅危惧種レベルで減っており、もはや漫画の中にしかいない髪型になりつつあります。それこそ「クレヨンしんちゃん」の組長先生とか。
結局ね、イメージってのはそういうもので「パンチパーマのヒト=怖い」と思うのは「怖いヒト=パンチパーマ」だったからです。
しかし令和の今、もちろん組織暴力の人たちでパンチパーマの人はいるんだろうけど、デフォルトってほどでもないように思う。となったら近いうちに「パンチパーマ=怖い」というイメージもなくなるかもな。当然「パンチパーマ=サービスステーキ」というイメージも。
パンチパーマは言っても流行り廃りは関係してくる。じゃあ「流行り廃りのない怖いヒトのデフォルト髪型」となれば、やっぱスキンヘッドでしょう。
でもスキンヘッドはわりと簡単に隠せる。別にウィッグなんか用意しなくても帽子を被るだけで一気にスキンヘッドのイメージはなくなります。
面白いのが、どうも「スキンヘッド=サービスステーキ」と結びつかないんですよ。スキンヘッドのヒトって「サービス」とつかない普通の、それこそゴージャスなステーキを食ってそう、というか。
じゃあ今、サービスステーキが似合う髪型は、となったらサラリーマンカットでしょうね。
固有のサラリーマンカットはないっつーか、これまた流行り廃りはあるんだけど、時代時代で「これが今の時代のサラリーマンカット」は必ずある。んでオフィス街の近くには必ずといっていいほど、ランチメニューとしてサービスステーキを提供する店がある。いやある。ないかもしれないけど、ある。
つかね、一流企業勤めでないサラリーマンなら「ハンバーグ定食」ではなく「サービスステーキ」ですよ。サービスステーキも食ったことがないようではイッパシのサラリーマンとは言えない。
逆に言えば、ブルジョアやスキンヘッドのヒトはゴージャスな普通のステーキを食いなさいよ。そういうヒトはサービスステーキなんか食べちゃダメです。
もちろんサラリーマンでもないアタシもサービスステーキを食ってはいけない。あれを食うのが許されてるのはサラリーマンか、もしくは絶滅危惧種にまで陥っているパンチパーマのヒトだけなんだから。
・・・サービスステーキ食いたいんだけどなぁ。でも今さらサラリーマンにはなれないし、となったらパンチパーマにするかなぁ。もうコテに毛根が耐えられそうにないけど。