野球はチームスポーツ？

野球の練習で、ま、試合中でも使うことはあるけど、連携プレイ、と言われるものがあります。これね、他のスポーツ基準っつーか団体スポーツ基準だとちょっと面白いのですよ。

というのもです。
例えばサッカーにしろバレーボールにしろラグビーにしろ、極端に言えば「すべてのプレイが連携プレイ」に該当するからで、わざわざ連携プレイなんて言い方はしない。だってそれが普通だから。
しかし野球の場合、大半が「個人プレイ」に近く、わずかな例外として連携が必要な場面がある、と。だからわざわざそういう言葉が用いられているわけです。

ゴルフのように「個対個」の要素すら薄い、純粋にスコアだけを争う競技はまた違うのですが、練習、とくに技術的な練習というのはなかなか「ひとり」でやるのが難しいんですよ。
それこそサッカーなんかだと何があるんだって話で、練習さえ何らかの団体に属してないとやれることが限られてしまう。
でも野球は違う。もう極論ですが、無人島かなんかでひたすら鍛えて、もし軽々160キロの球を投げられるようになればプロの選手になる可能性もあるんですよね。

つまりです。野球は団体スポーツでありながら、他の団体スポーツに比べると圧倒的に「個対個」の要素が強いスポーツなんですよ。
個対個となると「名勝負」という言葉を使いやすい。もちろんチーム対チームでも名勝負という表現は成り立つんだけど、野球の場合は個対個でも名勝負という言葉が使える。古くは長嶋茂雄対村山実とか王貞治対江夏豊とか掛布雅之対江川卓とか、巨人と阪神に限定してもこれだけ語り継がれてきた名勝負があるんですよね。

変な話、だから本来格闘技寄りの梶原一騎が野球モノで成功をおさめることが出来たと思うわけで、そう考えれば野球は「団体スポーツの皮を被った個人スポーツ」と言っても間違いじゃない気がする。つまり格闘技の団体戦にも通じる要素が非常に多い。
しかし、わずかながらも団体スポーツの要素としてあるのが連携プレイとも言えるんだけど、どうしても連携プレイにかんしては「玄人好み」っぽくありすぎる。
アライバコンビ（中日ドラゴンズの荒木雅博と井端弘和）によるグラブトスゲッツーとか、それなりの濃度がある野球ファンなら痺れるけど、少なくとも「わかりやすい」ことはないんですよ。

でもね、この辺が野球の魅力だと思う。
つまり楽しみ方が多層なんですよ。すんごいビギナーでも打者と投手の対決だけに絞って見るだけで楽しめるし、深いファンはアライバのプレイに酔いしれることも出来る。さらにマニア的な観点で言っても、野球はデータの算出をしやすいスポーツであり、試合を見なくてもデータ（指標なども含む）だけでも楽しめたりする。
そう考えると野球というスポーツは「ビギナー向けであり、ファン向けであり、マニア向けである」と言い切ることが出来る究極のスポーツなんじゃないかと。

しかし致命的な欠点もあって、単純明快さがない。何だかゲームの話になっちゃうけど、究極のRPGゲームとか究極の格闘ゲームを作ろうと思って、過去の名作にあった要素を全部取り込もうとして、それでも必死でゲームバランスを整えたものの、何だかやたら複雑になっちゃった、みたいな感じです。
その点サッカーは本当に単純明快で、あの単純明快さが世界的に受け入れられている理由だろうし、逆に野球はその複雑さから魅力を伝えるのが難しいと。

アタシはね、サッカーの単純明快さも好きなんですよ。もちろんボクシングなどの格闘技、あと格闘技と言っちゃうと変な感じだけど相撲だってやっぱり単純明快で、でも、だからこそ熱くなれる。
つまりね、どっちが上だとか下だとかって話じゃなくて、単純明快な良さもあれば複雑な良さもある。んで団体スポーツの良さもあれば個人スポーツの良さもある。それだけの話です。

ただし、それでも、団体スポーツと個人スポーツの要素を兼ね備えているのは本当に野球くらいだと思う。攻撃側守備側の概念があるカーリングでもそういうのはないし。
つまりね、野球＝チームスポーツとは必ずしも言い切れないし、じゃあ何なんだ、と聞かれた時に返答に困る、非常に中途半端なのが野球だと。
そうだとしても、この中途半端さが、んで複雑さが日本人にジャストフィットしたんだろうし、それを否定しても何も始まらん。また今後変わるのか？と言われても「わからんけど可能性は低いだろうな」としか言いようがないわけで。

マジ、つくづく、野球ってのは、というか野球を取り巻く環境っつーか野球を受け入れる環境はよくわからん。わからんから「世界的スポーツ」になれんのだろうけどさ。