聴かせてもらおうか、蓄音機のサウンドとやらを
FirstUPDATE2024.9.21
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先日、谷中にあるさんさき坂カフェで行われた蓄音機を聴くイベントに参加させていただいたのですが、もうこれ、何と言えばいいのやら、という感じでして。

実は今まで蓄音機の<音>を聴いたことはほとんどありませんでした。
まったく、ではないものの、非常に小ぶりのものだったり、SPレコードが再生出来るただのプレイヤーだったりで、本格的なというか大ぶりな蓄音機は未体験だった。
ま、戦前文化大好き!とか言ってるわりには、テメエ蓄音機も聴いたこともないのにそんなタワケたこと言ってたのかよ!と言われたら何も言い返せませんが、ま、言っても蓄音機でしょ?SPレコードから出る音は聴いてるんだからそれでいいじゃん、と軽く考えていたんです。

しかし、実際に聴いてみて、何故「蓄音機から出る<音>にこだわる人がいるのか」が痛いほどわかった。
あまりにも説明が難しいのですが、とにかく、生演奏と違うのは当たり前として、現今あるステレオシステムとも違う。本場ジャマイカのサウンドシステムなんかがまだ近いと思うけど、もちろんジャマイカまで言って聴いたわけじゃありませんが。
というかね、蓄音機を聴いてみて、もうつくづく思った。
いったい、良い<音>って何なんだろう、と。

何しろSPレコードなので、いわゆる「クリアなサウンド」ではない。だからね、それこそ現今のステレオで聴いたらっつーかデジタル音源にしたら「ノイズ混じりの悪い音」ということになってしまう。
ただ、先ほどあえてジャマイカ云々と書いたように、アタシはちょっとレゲエをかじっていたのでそう思うんだろうけど、レゲエとかの、いわゆるダブプレートなんかも粗悪な素材でレコードを作っているので(酷いのになると塩ビの下敷きを丸くくり抜いてるのまである)、これも<クリア>とは違うんです。

じゃあダブプレートが悪いのかと言うとぜんぜんそんなことはない。
こと<耳>で聴くことだけを重要視するのであれば、何しろクリアではないのだから「良い音」ではないのですが、間違いなく「良い体感」であり、その体感とやらをより重要視させるために異様に低音域を強調させたようなシステムを組むわけです。
ただし、これは「電気の力」で特定の音域をブーストさせているわけで、自然か自然でないかで言えば、やはり自然ではない。もちろんだからってそれがダメってわけじゃないけど。

その点、蓄音機は、電気を一切使っていない。
だから蓄音機から出てくる音はある意味「SPレコードに記録された音そのまま」であり、たしかにクリアではないんだけど、あまりそんなことが気にならない。とにかく自然な音が体感全振りでこちらに轟いてくる、という感じなのです。
もう正直ビックリしたんだけど、ちゃんとした本格的な蓄音機であれば、ちょっとビビるくらいの音量が出る。「電気の力」なんか一切借りずに、構造だけで<音>が圧倒してくるんです。

このイベントを主宰されたのは音楽研究家の毛利眞人氏ですが、毛利氏曰く「蓄音機の音って懐かしい、というものではないでしょ?」と。もうまさしくその通りで、むしろ新鮮そのもので、ジャマイカ式のサウンドシステムを知らなければもっと新鮮に感じると思う。
とにかく音楽の体験という意味では唯一無二のシステムであり、というかSPレコードをデジタル音源化してもどうしても魅力が削がれてしまう、やはり蓄音機で聴かないとSPレコードのポテンシャルが発揮出来ない、というのが痛いほどわかった。

毛利氏はあえて参加者にも耳馴染みであろう笠置シズ子の「ジャングルブギー」のレコードをかけられたのですが、もう何十何百回聴いたはずの「ジャングルブギー」が蓄音機で聴くとまったくの別物に思えるほどで、あの服部良一サウンドが如何に「迫りくる」感じだったのか痛感した。

これは当たり前なのですが、作曲家、アレンジャーなどのレコード制作者ってのはメディアの特性に合わせて音作りをするのです。それこそ小室哲哉がCDの特性に合わせて異様に音圧を上げたのは有名ですが、当時の人たちは「SPレコードの特性に合わせて」音を作っていたと。
もちろんそれを再生する装置は蓄音機であり、蓄音機で流れた時にどう聴こえるかを計算して作っていたはずであり、そうなると「SPレコードは蓄音機で聴かないとポテンシャルが発揮出来ない」なんて当たり前なのですがね。

「音楽は耳で聴くものだ」と思う人は、まァ、別にいいです。否定する気もないけど、ただ、音楽って全身で聴くものだよね、という人は是非とも蓄音機の音を聴いて欲しいと痛切に思う。
また同カフェでイベントが行われるようなので、とくに東京近郊の人は参加して欲しい。もちろんアタシも行きます。というかこんな至福な時間はないもん。

目を瞑って聴くとマジで戦前にタイムスリップした気分になれる。ありゃもう一種の快楽ドラッグですよ。







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