エントリタイトル、やけに「サ」が多いな。いや結構タイトルは迷ったんだけどね。微妙にネタバレになるし。
東京ってのは本当、ドエリャアところで、何で東京なのに名古屋弁なのかはさておき、こないだね、実に21年ぶりに九段下にある昭和館に行ったんですよ。
ここって、知らなかったんだけど常設展示以外のフロアは何と無料なんですよね。ということはつまりですよ、4階の映像音源資料を無料で楽しめるわけで、ああ、こんなことならもっと早く来るべきだった。
正直ビックリしたのが写真です。
これも数が多いんだけど、何と映画のスチールまで所蔵されており閲覧することが出来る。まさかなぁ、と思って確認してみたらちゃんと戦前エノケン映画のスチールも相当あるんですよね。
しかもですよ、これがちょっと、今まで見たことがないレベルの高画質で「孫悟空」のスチールなんか今まで見た中でダントツ綺麗だし、低画質のしかないと思っていた「エノケンの頑張り戦術」の壁をバックにエノケンと金井俊夫が掴み合いしてるスチールなんか「何だよ、ちゃんと高画質のが現存するじゃん!」と。
正直ね、あんまり時間がなくてゆっくり見れかったんだけど、ここまで充実してるんだったらこれはまた来たい。いや来るわ。とくに映像関係は個人が撮影したものとかジュリアン・ブライアンが撮影したと言われる映像とか、ああもう、誰か言ってくれよ!という感じでして。
って、時間がないって何があったんだって話ですが、アタシが行った8月18日の14時から、ずっと観たかった「チョコレートと兵隊」が上映されててね、あ、もちろんこれも無料ですよ。
だから言ったでしょ?東京ってのはホント、どうなってんのこりゃ。こんな貴重な映画をさ。
で、その「チョコレートと兵隊」ですが、思ってたよりずっと良かった。ま、期待値が低すぎたってのを差し引いてもらわなきゃいけないけど。
藤原釜足と沢村貞子のマジ夫婦も良かったけど、子供の描き方が本当に良くて、うん、かなりグッときました。
ただ・・・、何だか終盤になるにつれ、もう、これはアレのアナザーストーリーとしか思えなくなってきて。そうです。エントリタイトルでネタバレしてるのでとっとと書くけど、つまりは「サザエさん」のね。
カマさんこと藤原釜足ってぇと、何たって江利チエミ版映画で波平をやってるわけですよ。ま、この頃はまだ原作で名前がなかったので厳密には「お父さん」役だけど。
アタシはね、江利チエミ版の清川虹子こそが原作のフネに一番近い配役だったと思ってたんだけど、さすがにさ、清川虹子ではちょっとコワモテすぎるし、やっぱ「女学校の出」に見えないなぁってのも思ってて。
でも後のテレビ版の乙羽信子とか吉行和子とかよりはまだぜんぜん清川虹子のが原作寄りだと。つか乙羽信子と吉行和子って「アニメのフネ」ですよねベースが。だからあくまで「原作のフネ」役なら、ね。
でも「チョコレートと兵隊」を見て考えをあらためた。フネ役のベストは沢村貞子です。
って「チョコレートと兵隊」と「サザエさん」は何の関係もない。強いて言えば「お父さん役の藤原釜足が後にサザエさんでもお父さん役をやった」くらいの共通点しかない。だから「フネ役は沢村貞子がベスト」ったって、フネ役はやったことないからね。
それでも波平とフネの夫婦であるなら、子供たちもサザエとカツオとワカメになるわけで、実際ね「チョコレートと兵隊」でも長男はカツオよりちょい下くらいの年齢で、ちゃんと丸坊主だし、長女はワカメよりもやっぱりちょい下くらい、んでヘアスタイルも例のワカメちゃんカットです。
「長女」という表現でもわかるように「チョコレートと兵隊」はふたり兄妹であり、サザエさんの存在はない。
ただし高峰秀子演じる従姉妹がサザエさん的存在で(年齢的には独身時代のサザエさんよりぜんぜん若いけど)、これ、もうサザエさんの世界じゃないかって気がして。
「サザエさん」の連載開始は1946年です。んで「チョコレートと兵隊」は1938年。約8年の時代差がある。しかしもし、サザエさんの時代設定をリアルタイムである「戦後の混乱期」ではく「日中事変が起こっていたとは言え、こと生活という意味ではのんびりしていた戦前期」に置き換えたら、マジで「チョコレートと兵隊」になるんじゃないかと。
「サザエさん」と違って「チョコレートと兵隊」はあまり観れない作品なのでネタを割っちゃいますが、「お父さん」は出征した後に現地で戦死する。その後にちょっとだけ話があって幕になるんだけど、もしこの話の続きを描けば完全に「波平が戦死した世界線のサザエさん」になったのではないかと思うんです。
この映画でのお父さんとお母さんは本当に優しい人たちです。とくにお父さんの子供たちを思う気持ちは本当に泣ける。原作の抜けまくった波平ともアニメのやたらガミガミうるさい波平ともまったく違います。
だからこそ、これはあの、カツオっぽい少年(一郎=演・小高まさる)の見た夢がサザエさんの世界なんじゃないか。
あんな優しいお父さんじゃなくてもいい。ただ、とにかく、生きて、僕らのそばにいてくれたらいい。どれだけトボけてても、どれだけガミガミうるさくても、お父さんがいるだけで僕は嬉しいんだ
ちなみにこの映画、というかこの話、実話を元に作られているらしく、劇中同様、明治製菓の職員がモデルとなった一家を訪ねて桐生まで行ったそうです。
つまりカツオのモデル、もとい、一郎のモデルは実在しており、いやカツオのモデルでないとも言い切れないんじゃないかと。つかこの一家の話がサザエさんの発想のひとつだと否定する材料はない。
長谷川町子はすでに田河水泡の弟子を経て漫画家デビューしており、年齢で言えば「チョコレートと兵隊」が公開された頃は18歳。「サザエさん」の連載開始はその8年後だけど、もしかしたら「チョコレートと兵隊」の家族構成が漠然と頭の中にあったのかもしれない。
となるとお父さん≒波平役として藤原釜足を起用するのは既定事項だったのか?ま、江利チエミ版映画が制作された頃は藤原釜足と沢村貞子はすでに離婚済みだったから、フネ役を沢村貞子にってわけにはいかなかっただろうけど。