物真似と似顔絵の境界線
FirstUPDATE2024.4.12
@Scribble #Scribble2024 #知見 #笑い 著作権 物真似 似顔絵 他人のフンドシ 芸の力 エノケソ 東海林二郎 上岡龍太郎 松村邦洋 単ページ

何度も書いてきたことですが、さすがにここいらで、本気で著作権についてしっかりと整備するタイミングなんじゃないかね。

昔はね、一般人が著作権について考えることなんて皆無だったんですよ。
著作権を気にしなきゃいけない業界は限られていたし、個人が非商業で、となったらミニコミ誌(同人誌)や自主制作映画くらいしかなかった。当然「組織」としてやる場合はもし何かあっても責任は組織が取らなきゃいけなかったとはいえ、いきなり個人に弁済が云々みたいな話になることはなかったわけで。
それがね、インターネットなんてもんが普及して、つかSNSが当たり前の時代になってね、もはや誰でも著作権侵害で、となる可能性が出てきたと。

著作権だけでなく肖像権だったり隣接著作権だったり、もうありとあらゆる法律が絡んでて、はっきり言えば自由なんてないんです。
ある意味「抜け道」と言えるのが引用なんだけど、この引用も法律的観点で言えばマジでわかりづらい。
しかも結構弁護士によって見解が違ったりするし、つかどこまで厳密に見るかでまるで話が変わってくる。
となったら、いったい一般人の誰が著作権という法律をわかってるのか、となったら「誰もわかってないまま」というのが現状なんです。

この辺の話は近々長文を書く予定なのでおしまいにして、その長文ではオミットしたことを書きたい。
つまり、エントリタイトルにある「物真似」と「似顔絵」についてです。
物真似にしろ似顔絵にしろ、本人または肖像権を管理する団体に許可を得てやる、ということはほぼありません。つまり「無許可」が基本ということです。
実際、物真似の業界では「物真似は無許可でやるもの」という慣例があるらしく、例外的に御本人と対面した場合に「公認」という形で許しを得ることはありますが、これも御本人の「公認」というだけであって法的な処理がされたわけではないのです。

これは似顔絵も同様なのですが、すべてが曖昧なままいろんな経緯があって、物真似や似顔絵は「肖像権などの契約を交わす必要がない」という<慣例>になっており、これを整備するのは本当に難しい。というか下手にそこに手を入れると物真似芸人や似顔絵師は死滅してしまいます。
それこそ、例えばコロッケクラスであればそうしたことが可能でしょうが、売れてない物真似芸人なんていくらでもいる。当然生活は苦しく例えば物真似をするための使用料を払うとなったらそれだけでマイナスになるはずで、となると新しい物真似芸人は生まれてこなくなるのです。

いやね、物真似にしろ似顔絵にしろ、実際のところ「他人のフンドシで銭儲けをしているか否か」は非常に微妙なところで、どちらも「当人の能力がなければ商売として成り立たない」のですよ。
今よりさらにユルい時代、具体的には戦前期において「エノケン」ならぬ「エノケ<ソ>」や「東海林太郎」ならぬ「東海林<二>郎」と言った、物真似というよりはイミテーションタレントが当たり前のように営業を行っていた時代がありました。
いや、そんなことを言えば美空ひばりだって「笠置シズ子のイミテーションタレント」として世に出てるわけで、真似を封じるとどうしても新しい才能が芽吹きづらくなる。

色川武大の著作によると「東海林二郎」は歌唱力も悪くなかったらしい。つまり<芸>の能力はあったということなのですが、だからこそ色川武大は疑問に思っている。ここまで東海林太郎を模倣しなくても通用する歌唱力がありながら、何故この人はイミテーションタレントに甘んじているのか、と。
実際、物真似芸人はとてつもない芸達者なことが多く、下手したらモノホンよりも芸達者な場合もある。
じゃあ何で自身の<芸>を物真似に絞るのか、それはたぶん「物真似という芸が好きで好きでたまらない」からなんじゃないかと。

上岡龍太郎は「物真似芸人はリクエストしたら楽屋裏でもどんどん物真似をやってくれる。それが他の芸人とは違う」というようなことを語っています。
たしかに漫才師が他の芸人からリクエストがあったとして、楽屋裏で漫才をやる絵は想像出来ないけど、物真似芸人ならばいくらでも想像出来る。求められなくても次々に物真似をやりたがる、例えば松村邦洋を見ればよくわかります。

つまりね、物真似という<芸>は他の芸とは根本的に異なるのです。
これは似顔絵にも同じことが言え、絵が上手いからといって必ずしも似顔絵が上手いわけじゃない。逆に画力がない人でも異様に似顔絵が上手い人がいる。
つまりね、下手に法的に整備したら、こうした特性を持つ人が潰れてしまうのです。
だから誰の真似をどんなふうにやってもいい、その代わり御本人が怒ったら止める、という中途半端なことになってしまうんだけど、「無許可でやるのが基本」というのをキープしようとするなら、この中途半端な状態を維持するしかない。

ま、世の中、何でもかんでもクリアにしたらいいってわけじゃないってことですよ。曖昧なままだから成立する商売がある限りはね。







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