しつこいけどアタシはグラフィックデザインを生業にしておるわけですが、そもそもアタシのグラフィックデザイナー人生は某地方タウン誌から始まったので、つまり初っ端の時点で「自分が作り出したものが出版物になる」というのを体験しているのですよ。
しかも結構好き勝手に駄文を書かせてもらっていたので、グラフィックデザインだけでなく、自分の書いた文章が活字になるってのも相当早い段階で味わっている。
ま、時代的にはDTP黎明期で、厳密には<活字>、つまり活版印刷の時代じゃなかった。だから自分の書いたものが活字になったことがあるかないかで言えばないのかもしれない。
それでもね、活字かどうかはともかく、やっぱ自分ガ手掛けたものが印刷物になるってのは最初は嬉しいんですよ。
それこそ新聞の折込チラシであっても最初はうれしかった。ただね、こういうのってどんどん当たり前になっていくわけで、当たり前になってしまうと「色味が悪いなァ」とかアラに目が行っちゃって喜びなんかゼロになるわけで。
でもね、それがプロになるってことだと思うんです。
自分が書いたものが活字になる、とか、自分のデザインが印刷される、とかって、いわばプロへの第一歩で、プロ野球選手で言えば入団発表で初めてユニホームを着た段階だと思う。
要するにです。それで満足してちゃホンモノのプロにはなれない。何がホンモノかって言い出したらキリがないけど、それで長期間オマンマを食っていくことは出来ない、というか。
爆笑問題の太田が「仲が良いとか悪いとか関係なく、プロの芸人は誰しもとんでもなくスベった経験をしている。そう思えば仲間に思える」というようなことを語っています。
あと、これはたしかテレビブロスの連載だったと思うけど、どんなジャンルであれ他人に自分の作ったものを見せるのがどれだけ怖いことか。誰にも見せてない人間が「自分は優れている」とか「自分は才能がある」とか、チャンチャラおかしい、みたいなことも書いていたと思う。
つまりね、爆笑問題太田が言いたいのは、ジャンル問わず第一線で活躍するような人は必ずデッドロックにぶつかっている。一度も痛い目に合わずにのし上がるような人間などいない、ということです。
これは本当によくわかる。つかアタシも、プロというのは痛い目に合ってきた人のことだ。だから安請け合いはしない。その代わり請けたからにはどれだけ困難でも死にものぐるいで自分の仕事を遂行する人だと。
つまり、言い方を変えれば、こういうことがない人はどれだけ優れていようがプロでもなんでもない。所詮は「優秀なアマチュア」だと。
ただね、ここからが重要なのですが。
例えばアタシは物書きが本職ではない。こうやって駄文を書き連ねるのはただの趣味です。
もしただの趣味でしかないのであれば、それこそ入団発表でユニホームに袖を通しただけで十分なんですよ。プロとして、つまりは生業にしていくつもりがないのであればプロの「入口」に立っただけでも余裕で満足してしまう。
アタシはそういうのもアリだと思っているんです。ただし自ら「プロです!」と名乗らない条件であれば。
アタシがこうやってインターネットに駄文を書き始めたのは2003年です。
それ以降、自分の書いた文章が一度も活字になったことがないかと言えば、あることはある。もちろん「植木等ショー!クレージーTV大全」の巻末リストがそれなんですが、ま、あれは所詮調査内容のリストだし、というのもある。
でもね、これでもまだ恵まれている方というか、ずーっと物書きを目指してて「一度も自分が書いた文章が活字になったことがない」なんて人はいっぱいいる。そう思えば恵まれているのでしょう。
もちろんこれは世代的なこともあります。
今はメディアへの感覚というか距離感が変わってしまったので一概には言えませんが、アタシより上の世代だと、やはりね「活字への憧れ」を強く抱いている人が多いように思うわけで。
もうアタシより上の世代、というと、ほぼ高齢者ってことになるわけですが、さすがにその年齢になると、よほどの変人以外「物書きとして食っていく」とかは考えないでしょう。つまり「生業にする気はないがプロの入口に立ってみたい」と思っている人はゴマンといるような気がする。
だったら、そういう人たちを相手に商売が出来るんじゃないか、と。
もちろんこれだって、現今でも自費出版てな方法があるにはあるんだけど、正直自費出版はハードルが高い。しかも自費出版絡みで詐欺めいた事件が多くあったせいで、もはや「自費出版」という言葉のイメージまで悪くなってしまった。
つかね、自費出版って何も書店で並ぶほど刷る必要はないんですよ。周辺の人に配るとしても、せいぜい10部もありゃいい。あくまで「人生の記念品」なんだから。
こういうのも今ならぜんぜん可能なんですよ。つか同人誌のシステムを利用すればかなり安価に出来る。言うまでもなくDTPの知識は必要だけど、つまりアタシのようにDTPの知識がある人間であれば「きわめて小ロットで、ほとんどコストをかけずに<書籍>が作れる」ということに他なりません。
ま、アタシはね、今の今までそうしたことを考えたことすらないし、活字への憧れが強い人たち狙い撃ちの商売をしようと思ったこともないんだけど、マジで誰かやればいいのに、と思う。
しかしなぁ、一回、試しに、同人誌システムを利用した簡単な小冊子くらいなら作ってもいいかな、と思っています。
これが成功したら「より本格的に<見える>書籍ふうのものを」とか「これ、商売になるから「活字への憧れ世代」をターゲットにしてひと儲け」とかじゃなくてね、あくまで体験としてやるのも悪くない気がする。
それにしたって、そんなもん作る時間がどこにあるんだよ?と言われたらそれまでなんだけどさ。でも間違いなく面白そうなのは面白そうなんだよなぁ。