アイドル歌謡のお手本
FirstUPDATE2024.1.23
@Scribble #Scribble2024 #アイドル #音楽 #1980年代 おニャン子クラブ うしろゆびさされ組 かしこ 女学生の決意 キャンディーズ 微笑がえし 1987年前半ヒット曲 パロディ 合いの手 秋元康 後藤次利 単ページ

もう、自分でも、何で令和になって、と思うのですが、ここんところ「うしろゆびさされ組」にハマっています。

今思えば、うしろゆびさされ組ってグループ内ユニットの<はしり>で、グループとしてリリースするにはちょっと尖りすぎている、それこそうしろゆびさされ組で言えば、おニャン子クラブの楽曲としてはちょっと、でも、みたいなね、いわば本体とは別の味みたいなふうになってることが多いです。
でもこのうしろゆびさされ組にかんしては、そもそも本体であるおニャン子クラブ自体が「アイドル歌謡としてはちょっと特殊な」というか「セーラー服を脱がさないで」とかね、隙狙いみたいな楽曲が多かったわけで。

となるとグループ内ユニットであるうしろゆびさされ組はむしろもっと正統派というか、「ハイスクール!奇面組」の主題歌を歌うユニットという名目もあったわけで、如何にもな歌謡曲、と言える楽曲が多いんです。
しかしけして<尖り>がないわけではなく、かなりパロディの要素が強いというか、あまりにも典型的にすることでパロディ要素も内包された、みたいになってるのが面白いんです。

まず初っ端の、ユニット名と同タイトルの「うしろゆびさされ組」からしてロックバンドサウンドのパロディで、もっと言えば「ロックバンドサウンドを取り入れた歌謡曲」のパロディになっている。

さらにそのカップリング曲である「女学生の決意」はペギー葉山の「学生時代」の明確なパロディなんだけど、パロディったって曲そのものがフザけてるわけではなく、良くも悪くも「学生時代」をキチンとなぞっている。でも昭和末期に「学生時代」をカリカチュアした楽曲を歌うこと自体がアナクロで、つまりは全体としてパロディになっているんです。


そんなことはどうでもいい。
アタシが度肝を抜かされたのは、ラストシングルとなった「かしこ」です。

これは本当にすごい、というかこの曲にかんしては一見パロディ要素はほぼないのですが、良く聴くとアイドルユニットの解散記念シングルのパロディになってるというか。
アイドルユニットの解散記念シングルでもっとも有名なのはキャンディーズの「微笑がえし」です。

「微笑がえし」は歌詞の中に、それまでのキャンディーズのヒット曲のタイトルを詰め込んだ、誰が聴いても総決算とわかるものになってるんだけど、じゃあそれのパロディってどういうことなんだって話です。

「かしこ」がすごいのは、まるで総決算を装っているんだけど、ではうしろゆびさされ組の楽曲のタイトルが歌詞に散りばめられているか、メロディやアレンジが一部引用されているのか、と言うと、実はまったくされてない。
というか出だしが「♪ シュポポポシュポポポ」と汽車の擬音で始まるのがすごい。
このフザけてるのかマジメな解散記念シングルなのかわからないところが「かしこ」の真骨頂なんです。

「かしこ」のリリースは1987年2月ですが、この頃、1987年1月から4月にリリースされた主な楽曲を挙げておく。

・「愚か者」(近藤真彦)
・「楽園のDoor」(南野陽子)
・「TANGO NOIR」(中森明菜)
・「湾岸太陽族」(荻野目洋子)
・「I Love you, SAYONARA」(チェッカーズ)
・「派手!!!」(中山美穂)
・「Get Wild」(TM NETWORK)
・「SUMMER DREAM」(TUBE)
・「じれったい」(安全地帯)
・「リンダリンダ」(THE BLUE HEARTS)

ま、こんな時代です。
なるべくアイドルの楽曲を中心にセレクトしたけど、楽曲のクオリティで言えば「かしこ」は負けてない、どころか、ちょっと突出してるように思う。
「Get Wild」は2020年に「GetWild退勤」としてちょっと話題になったし、「リンダリンダ」は不滅の名曲という評価もあるほどなのですが、純粋にっつーか公平に、楽曲としての斬新さや完成度、細部のアイデアなどすべて含めると「かしこ」が群を抜いてるような気がしてならない。

アタシはね、アイドル歌謡って歌い手の歌唱力に頼れない分、歌詞にもメロディっつーか曲の構成にも、アレンジにもね、二重三重の仕掛けみたいなのが必要だと思っていて、そういう意味で秋元康も後藤次利も完璧な仕事をしてると思う。
にしてもサビの「♪ かしこッ(しこか!)かしこッ(こかし!)」って合いの手は何なんだ。
こんなフザけた合いの手聞いたことないよ。しかもフザけるのに一切破綻してないってマジ奇跡レベルです。

この合いの手を秋元康が考えたのか後藤次利が考えたのか知らないけど、もうこれだけで「かしこ」がこのコンビの最高傑作だと言い切れるわけで。