とうとうこの時が来てしまいました。いや本当はリアルタイムで何か書きゃ良かったんだろうけど、とてもそんな気分になれなくて。
2023年10月26日、クレージーキャッツのベーシストであり名バイプレーヤーだった犬塚弘さん、通称・ワンちゃんが逝去されました。
もう、書き出し通り「ついに、とうとう、この時が来てしまったのか」という以外の感想はなく、ワンちゃんがメディアに出なくなってからずいぶん経っていたし、たぶんもう人前に出られる状態ではないんだろうな、という察しはついていたとはいえ、実際に訃報に接すると、やはり冷静ではいられなかった。
最後の著作物となったのは佐藤利明氏との共著という形で刊行された「最後のクレイジー 犬塚弘 ホンダラ一代、ここにあり!」で、これが2013年。つまり逝去から10年も前になるわけで、90歳を超えて、もう二度と我々の前に現れることはない、とわかってはいたとはいえ、結局、一度もお話しさせていただく機会がなかったんだな、と。
この人のことはいずれちゃんと書きたいとは思っていたんです。
上記著作以外にももう一冊「飄飄として訥訥-クレージーが青春、いまも青春」という本もあり、つまり自伝めいたものは残しているのですが、犬塚弘単独の論評めいた文章を読んだことがない。
というかどうしても「クレージー第4の男」「ハナ肇の女房役」というイメージで語られることが多く、クレージーキャッツとしての活動を縮小してからになると「名バイプレーヤー」ということになってしまう。
しかし、個人的にはですが、こんなデタラメな役がコナせる役者はいなかったとずっと思ってて、いや犬塚弘さんがデタラメだったって言ってるんじゃないですよ。むしろ本当にマジメな人だったと思うし。
でも普段の人柄やキャラクターをそのまま活かしたような役はイマイチハマらない。なのにハチャメチャな役であればあるほどハマる、そんな貴重きわまる人だったんです。
実は犬塚弘と似た個性のタレントがひとりいます。それが香取慎吾です。
香取慎吾も等身大のような役はどうもハマらないのに、ベトナム人、知的障害者、透明人間、孫悟空、両津勘吉(このキャラクターもある意味人外)、さらに「狂ってる」としか表現しようがないバナナのCMや30代後半でバイトリーダー役のCMとか、とにかく「まともでない」役の方が輝くという特殊な役者です。
犬塚弘も同様で、とくに「馬鹿が戦車でやって来る」や「クレージー大作戦」での知的障害に近いような役柄ではとんでもない光を放つ、という。
他にも「吹けば飛ぶよな男だが」の変なヤクザとか「ニッポン無責任野郎」のコテコテ老けメイクの専務とか「クレージーの無責任清水港」での偽物三五郎とか「クレージー黄金作戦」の酋長とか、「シャボン玉ホリデー」のコントにおける時代錯誤の泥棒とかね、こういう役って「やろうと思って誰でも出来る役」ではないと思うわけで。
長い手足を動かしていると昆虫みたいだろ。
渥美清による犬塚弘評ですが、「昆虫みたい」とはまさにいい得て妙で、最近で言えばアンガールズ田中のように長い手足をクネクネさせるだけで面白くはなるんですよ。
ただし絶対条件として「てらいのなさ」が必要で、ほんのちょっとでも「てらい」が受取手に伝わると誰も笑わなくなる。
だから「どれだけ役に入り込んでいるか」が重要になるというか、演技としてこういうことをやってるんじゃない、自分は昔からこういう人間なんだ、と思い込めるかどうかというか。
よく「役柄に憑依する」とか言いますが、犬塚弘の場合、自身と遠ければ遠いほど憑依しやすかったのではないか。
野球の話で恐縮ですが、どんな打者にもポイントがあって、しかし、それは本当に各人違う。インコースがスィートスポットな打者もいればアウトコースがスィートスポットの打者もいる。
そう考えれば、犬塚弘は(そして香取慎吾も)「ドカベン」の岩鬼正美ばりの超悪球打ちタイプなのかもしれない。大抵の役者にはクソボールと思える球が絶好球になると。
間違っても犬塚弘はコメディアンに向いてないし、コメディアンになろうとも思ってなかった。同じくコメディアンなんてやりたくなかったけど、やらせたら天才だった植木等とは違う。
しかしその実直な性格もあって、絶好球と言う名の悪球をフルスイングし続けた。そりゃ植木等のような特大ホームランは打てないけど、絶好球さえくれば<笑い>を支える存在にまでなれたと思うんです。
ただ、もったいない、という気持ちもあって、クレージーキャッツの、というかグループとしての活動が縮小してからは名バイプレーヤーという地位を得たこともあって奇想天外な役はやらなくなってしまった。
それこそヤバい行動を取りまくる痴呆老人のような役をやれば、とんでもないことになった気がするんです。
犬塚弘の死は「クレージーキャッツの消滅」を意味します。
ハナ肇が逝去した時、思わず植木等が「クレージーキャッツは今日で解散です」と口走ってしまい、後日、解散を撤回するという経緯がありましたが、以降、ひとり欠け、ふたり欠け、どんどん存命メンバーが減っていったにもかかわらず、クレージーキャッツは正式に解散しなかった。
2006年に「クレージーキャッツ+Yuming(=松任谷由実)」名義で「Still Crazy For You」という楽曲が作られ、これが最後のクレージーキャッツ名義の活動になったわけですが、この楽曲以降、犬塚弘が逝去するまでの17年間、何の活動実績もないままクレージーキャッツという名前は続いていた。
要するに、とっくに開店休業中ならぬ開店廃業済だったのですが、それでも先述の通り、2013年になってもなお「最後のクレイジー」と題した著作を出しているのは「オレが死ぬまではクレージーキャッツを守る」という犬塚弘の強い意志があればこそだったと思う。
というか、これ、メチャクチャ変な話だし、取りようによっては失礼に思えるかもしれないけど、最後のひとりが犬塚弘で本当に良かった。たぶんあの世で他のメンバーもそう思ってたんじゃないか。
犬塚弘さん。正直94歳まで生きてくれて残念も何もない。ただただ本当に、これだけ長期に渡って、途中からはたったひとりでクレージーキャッツを守ってくださってありがとうございます。
そしてクレージーキャッツに入ってくれて、んで途中で抜けることなく完走してくれて、もう感謝しかない。
「笑って笑って幸せに」において犬塚弘の歌唱パートは「♪ アナタが笑ァってくゥれた時 ただそれだァけで僕たちは~」でしたが、犬塚弘さん、アナタがクレージーキャッツにいてくれたおかけで、そしてとんでもない役をいっぱいやってくれたおかげでアタシたちは、悩みも疲れも吹っ飛んで、何より一番、一番幸せでした!
これはたぶん、自分がトシを取ってきたからなんでしょうが、誰かが亡くなる、ということにたいしてネガティブな感情が湧いてこなくなってきました。 もちろん直後はショックもショックなんだけど、ある程度時間が経てばね、ま、どうせそのうちアタシもソッチに行くんだから、と思えるというか、どのみち人間、誰でも死ぬんだからと思えるようになったというか。 ましてや犬塚弘さんは大往生も大往生なので、もう素直に「ここまでクレージーを支えていただいてありがとうございます」以外には言いようがない。 つかさ、あとがきで書くようなこっちゃないけど、どう考えても現世よりも<あの世>の方が楽しそうなんだよな。 だって向こうに行けばクレージーキャッツ全員揃ってるんでしょ?つーことは叶わぬ夢だったクレージーの生演奏が聴けるかもしれないんだよ!? あー、早くあの世に行きたい、とはさすがに思わないけど、少なくとも死ぬことにネガティブな感情はなくなったな。それはそれで面白そうというか。 ま、もうちょっとね、現世でやり残したことがあるんでね、あと何年かはわかんないけどさ。 |
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