もう正直ね、こういう議論があること自体がおかしいというか、話としてはメチャクチャ簡単なことなんじゃないかと。
最初は出来る限り文章で「見逃し三振がアリかナシか、という議論が如何に無駄なことか」を書こうと思ったのですが、そんなことをしなくても図を作成すれば一発じゃないかと。
アタシは本職が本職のクセにこうした図を作るのが大嫌いなんだけど、ま、いいやと。そこまで複雑なもんじゃないっつーか、メチャクチャ簡単な図だから。
もうこれだけで、わかる人にはわかると思いますが一応補足を。
何しろ「見逃し三振」の是非ですから、ここからはすべて投手が2ストライクをとった状態であるということをご理解して読んでください。
どういう形であれ、とにかく投手が打者を2ストライクまで追い込んだ。あと1ストライク取れば三振ということになります。もちろん見逃しでも空振りでもどっちでもいい。
で、です。この図で言えば<赤>のゾーンに投手が投げればチームとしての方針がどうであろうが打者は振りに行く。実際、仮に「見逃し三振オッケー」の方針であっても<赤>ゾーンを見逃しすれば打者に非がある。もちろんタイミングが合わず振れなかったということもあるもしれませんが、それでも褒められたことではない。
逆に<青>ゾーンの球、つまり完全なるボール球を振れば、これもやっぱり打者に非があるわけで、仮に空振りではなくても<青>ゾーンの球を強く弾き返す高い確率は低いんだから当然です。
となると問題は<黄>ゾーンの球ということになる。というか、この<黄>ゾーンを振るべきか否かがチーム方針ということになるというかね。
ここで確率論になるのですが、アタシは<黄>ゾーンに投手が投げ込める確率、そして打者が強い当たりを打ち返せる確率はともにかなり低いのではないかと見ています。
もっとはっきり言えば、追い込んだ状態で<黄>ゾーンに投手が投げられれば、もうそれは投手の勝ちなんですよ。バットに当たってもヒットになる確率は低いんだから。
しかしここが野球の面白いところで、同じ<黄>ゾーン内でも「ストライクゾーンとボールゾーン」に分かれているんです。
ここを見分けられる打者はほぼいない。完全に球種を把握しておかなきゃいけないし(つまり手元まではストライクゾーンでも変化してボールゾーンになることはいくらでもあるし、もちろんその逆もある)、さらには審判によってゾーンが違ったりもするわけです。
そして、これは当たり前の話ですが、打者が見送ってみないことには投げた球がストライクかボールかはわからない。
つまりフェアだろうがファールだろうが空振りであろうがバットを振れば、どこのゾーンに投げていようが自動的にストライクかボールかの判定はキャンセルされるわけで。
じゃあもし、投手が見事に<黄>ゾーンに投げ込んできたら打者はどうすればいいか、です。
よく「クサい球(=<黄>ゾーン)はカットして甘くきた球(=<赤>ゾーン)を打ち返せばいい」と言われますが、これは相当な高等技術で、そんな臨機応変にスイングを切り替えられるわけがない。
もうひとつ、スイングはそのままで打球をフェアゾーンには飛ばさない、というのもあるけど、これまた高等技術であって、アタシもかれこれ50年近くプロ野球を見てるけど、こういうことが当たり前に出来た打者は両手で足りるくらいです。
ということは、極端に言えばベストナインが獲れる程度の、もしくは1回や2回タイトルを獲ったレベルの打者では無理ということになるし、仮にそういうことが出来る選手が打線にいたとしても最高でひとりふたりいればすごいんです。
じゃあそうしたレジェンドクラスではない、一流以下の打者がどうすればいいか、となると、もう「<黄>ゾーンの球は無条件に見逃す方がはるかに<マシ>」なんです。
心配しなくても、追い込んでから<黄>ゾーンに<だけ>投げ込める超ハイクラスな投手なんかいない。どれだけレベルが高くても、やっぱり<赤>ゾーンにも<青>ゾーンにも行ってしまう。
だったら<赤>ゾーンだけ振る、そして<青>ゾーン、さらに<黄>ゾーンも見逃す。これを徹底していれば、そりゃ見逃し三振は増えるかもしれないけど、打撃を崩す「きっかけ」も減り、つまりは好調をキープしやすくなるわけです。
いやね、これが高校野球とかならまだわかるんですよ。
何故なら高校野球は一発勝負で、期間も短い。打撃が多少崩れようがこの一打席にすべてを賭ける、という姿勢は、ま、アリかナシかで言えばアリかもしれない。もちろんポストシーズンの最終盤、日本シリーズの第7戦の終盤ならば、これも理解出来ないこともない。
しかし長丁場のペナントレースにおいては打撃の調子を崩すことの方が「その一打席でヒットを打つ」ことより大事なことだし、調子を崩せばチームに迷惑がかかるし、単純に打撃成績が落ちて自分も損する。
しかも無理矢理<黄>ゾーンを打ちにいったところでヒットになる確率も低く、ならば見逃し三振上等で見送る方がはるかに理に適っています。
だいたい「選球眼が良い」と言われている選手って、本当にすべての球を瞬時にストライクかボールか見極めているわけではなく、基本的にゾーンを狭めて打席に入ってる選手だと思うんです。
さっきの図で言えば、<青>ゾーンよりもさらに狭くして、つまり「自分がコンタクトするに自信のあるゾーン」にだけ絞って、もうそこだけ振る。そこ以外は打ちたくなっても我慢する、我慢出来る選手が「選球眼が良い」と言われる打者ではないかと。
打てる球だからバットを振る、仮にストライクであってもどうせ打てないんだからバットは振らずに審判に判定を委ねる。これも打撃スタイルのひとつだと思うわけで。
まァね、さらに言えば三味線を弾いたり(狙ってない球をわざと空振りして悔しそうな表情を浮かべる、とか)、もっともっと深い駆け引きがあるはずで、となると「見逃し三振オッケー」なんて初歩の初歩、アマチュアならともかくプロのチームが「見逃し三振厳禁」てなことを、方針としてやるようなこっちゃない、というのがアタシの結論です。
そもそも「振らなきゃ何も起こらない」なんて高校野球以下のレベルでやることで、高校野球はストライクゾーンが相当広い上に審判のレベルの問題でガバガバだし、内野守備もおぼつかないのでエラーや内野安打になる確率も高い。さらに地方大会ではグラウンドコンディションも良いとは言えないのでイレギュラーも頻発する。
だから高校生が<?>ゾーンを振るのは十分理解出来たとしても、アタシが言ってるのはプロ野球です。つかプロ野球選手だよね?だったら議論するまでもないと思うのも当然です。
というかそれがレベルでしょ。投手は<?>ゾーンは振らないと理解した上で、如何に<青>ゾーンを振らせるか、<赤>ゾーンで如何に打ち損じさせられるかの勝負だと思うし、打者は如何に<赤>ゾーンを打ち損じなく弾き返せるかの勝負をする。それがプロ野球なんじゃないですかね。