かなぐり捨てる
FirstUPDATE2023.11.14
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はい、昨日はScribble書くの忘れてました。いや思い出したのは思い出したんだけど、思い出したのが23時20分。んなもん、さすがに日付が変わるまでに書けるわけがない。てなことで昨日はお休みさせてもらったと。

昨日は月曜日。つーことは野球ネタの日なんですが、さすがにタイミングがタイミングなんで「しっかり書きたい」ネタがあったんですよ。
しかししっかり書くには後40分じゃどうしようもなかったわけですが、何をしっかり書くつもりだったか、それはもちろん阪神タイガースの日本シリーズの戦いについてです。
とその前に、面白い記事を見つけた。


何かもう「熱男=無責任男」みたいな話になってて、というか松田宣浩が熱男キャラを演じることついて

もちろん疲れはしますよ。正直、めちゃくちゃしんどい。だから球場を出たら、わざと“寒男”になって充電していたんです。引退して、今は熱男のスイッチを入れることがないから疲れないんで、寒男になることもない。だからいつだって僕は元気です!


おいおい、植木等とまったく同じこと言ってんじゃん。
野球エントリだから簡単に書くけど、植木等ってどうも「素顔はクソ真面目」と思われてるみたいというか、NHKでやった「植木等とのぼせもん」というドラマでも「素顔は暗くて真面目」というふうに描かれていたけど、ぜんぜんそんなことはないですからね。
当然、無責任男ほどはブッ飛んではないけど、違う意味で変人で、関係者の意見も「極貧時代も底抜けに明るかった」で一致しています。
さすがにそれでも無責任男を演じるのはかなりパワーがいったみたいで、全盛期の植木等の素顔はまさしく「寒男」状態だったらしいけど、もう無責任男を演じなくて良くなってからは、素も無責任男っぽくなった、と自ら認めています。

要するに、熱男にしろ無責任男にしろ、周りを巻き込むほどのエネルギーを放射させようと思ったら、とてつもないパワーが必要という話なんですが、これって「仕事だから」レベルで割り切れるものではないと思う。
やはり、いろんなもの、とくにプライドをかなぐり捨てないと、ここまで出来ないと思うんです。
ひと口に「かなぐり捨てる」なんて言いますが

1 身につけているものを荒々しく取って放り出す。「上着を-・てて身構える」

2 全部捨て去る。「恥も外聞も-・てて懇願する」(デジタル大辞泉より)


こんなの、簡単に出来るこっちゃないよ。
たしかにね、意識の話っちゃあそうなんですよ。でも人間、プライドを捨てるというのが一番、何よりも難しい。いや大半の人間は「プライドを捨てたくないから努力する」のかもしれない。
でもね、スポーツって時に、どれだけカッコ悪いと思われたっていい、この後の選手生命がなくなってもいい、という感じで、目の前の試合というかプレーに命懸けになる、ということがあるんです。
そこまでやってるからこそ、大の大人が泣く。無難にさえやってりゃ毎年何億、何十億というカネが入ってくる人間が、今、この試合に勝ちたい、というだけで、んでそこまでやって良い結果が出なければ、それはやっぱり、大人だろうがなんだろうが泣いてしまうと思うんです。

アタシが「eスポーツがダメだ」と思う最大の理由が<そこ>で、彼ら、何もかなぐり捨ててないんですよ。
あんなマスクして腕組みしてね(「あまちゃん」で語られていたのように、腕組みは「弱い自分を隠す」ための典型的なポーズ)、そんなしょーもないカッコつけてるのが一番カッコ悪いし、見てる側も熱くなれない。
だからね、プロレス的かもしれないけど、窮地に追い込まれたプレイヤーが、演出でいいから「マスクを脱ぎ捨てる」みたいなことやりゃいいのにな、とずっと思ってて。
そういうね、目の前のことに勝ちたい、そのためにはすべてをかなぐり捨てる、要するに人間の<業>ですよ、を露呈させるのが見ている側が本気で熱くなる要因なんじゃないかと。

異様に長々と前置きを書きましたが、ここからが本題です。
日本シリーズ第7戦、阪神の先発は青柳晃洋でした。
正直、青柳が先発ということに不安を抱かなかった阪神ファンはいないと思う。とにかくずっと、シーズン中は不安定で、最後の最後まで「イケる」という姿を見ることはありませんでした。
とはいえ、昨年まで2年連続で最多勝を獲得した投手なので投げさせること自体はわかるんだけど、相手は第2戦で抑えられた宮城大弥です。となると1点2点が重くのしかかる展開が予想され、阪神だって点を取られだしたらすぐに伊藤将司にスイッチする算段だったんだろうけど、どう考えても青柳は怖すぎるわ、と。

アタシは第6戦終わりで、先日東京に遊びに来ていた友人と電話していたのですが、青柳先発は怖すぎるわな、みたいな話の結論が<ピッカリ投法>だったんです。
青柳は何より頭髪についてイジられるのを嫌がっており、もちろん自らイジることもない。
もし、そんな青柳が、オリックス打線を抑えるために、すべてを「かなぐり捨てて」ピッカリ投法を繰り出せば

「たぶん(阪神を除く)11球団は嗤うだろうけど、阪神ファンは泣くと思う」

友人の言葉ですが、アタシもまったく同じです。
いやね、当然のことながら、ピッカリ投法なんてもんは存在しない。水島新司先生じゃないんだから。山井のグラサンもあそこまで光らないよ。
でも、ピッカリ投法レベルで、青柳が背負ってきたものをかなぐり捨てられることが出来れば、これは勝機があるんじゃないか。

実際、青柳のピッチングは、坂本誠志郎のリードを含めて、いろいろと「かなぐり捨ててきたな」と思えるものでした。
球種はほぼストレートとツーシームのみ。坂本もミットの位置は常にド真ん中。つまり「スピードボールをド真ん中めがけて投げて、適当に散らばってくれたらそれで良い」という構えです。
こんなの、2年連続最多勝の投手にすることじゃないですよ。はっきり言えば「どうせコーナーへの投げ分けなんか出来ないんだから」という、いわば投手を莫迦にした構えです。

しかし、この日の青柳はそんなことはどうでも良かったと思う。そんなプライドよりも、今日、試合に勝つ。チームを日本一に導く。そっちの方がはるかに大切だとわかっていたと思う。
そうして上手い具合に立ち上がった青柳でしたが、オリックスもたまに投げるスライダーとチェンジアップに面白いようにバットが空を切った。つまり完全に青柳ペースになったのです。

先日も書いたように、日本一は「ただただ嬉しい」と「ホッとした」が混在した感情になっただけで、リーグ優勝の時のようにボロ泣きしたわけじゃない。
そんなアタシが第7戦で唯一泣けたのが青柳のピッチングです。
いやピッチングそのものというよりは、青柳がすべてを理解して「かなぐり捨てた」ことに感動したのです。
青柳は変則投手です。つまりは本格派ではないので、どうしても、いくら2年連続最多勝を挙げても「エース」という感じに思われづらかった。
でも最後の最後に、エースの姿を見せてくれた。あれだけ、チームの勝利のために「かなぐり捨てて」やれるのはエースしかいない。

だから2024年の阪神タイガースのエースも、村上頌樹でも伊藤将司でもなく「青柳晃洋」なんです。







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