強いってどういうことだろう
FirstUPDATE2023.10.23
@Scribble #Scribble2023 #プロ野球2023年 阪神タイガース クライマックスシリーズ 広島東洋カープ 真綿で首を締める 何となく勝つ 単ページ #兵庫 #1980年代 #2000年代 #2003年

えと、無事、阪神タイガースはクライマックスシリーズファイナルステージを突破することが出来ました。ということを前提として。

こう言っては広島ファンに怒られるかもしれませんが、正直、阪神は投打ともに振るわず、先発3人はいずれも「今季最低」と思える出来だったし、打線も好調と言えるレベルだったのは木浪聖也だけ。あとはヒットを打った者、四球をもぎ取った者、結果は伴わなかったけど内容は悪くなかった者、いろいろいたけど、総じて結果だけを見れば低調で、とくに近本中野の阪神の誇る1番2番はまったく機能しませんでした。
一方、広島は阪神対策をしっかりやってきたのが伺え、中でも小園と島内は本当に素晴らしかった。

それでも阪神が勝って、広島が負けた。
これをね、地力の差と見るのは簡単なんだけど、個人的にはどうも、違和感があって。
たしかにアドバンテージ1勝を含めて、阪神は広島を4勝0敗のスイープでやっつけた。でもそれは単純に実力の差だったり、はたまた運だったり、甲子園でやる優位性だったりね、そういうことでもないと思ったのです。
とにかく阪神は「リードした状態で試合を終わらせるのが非常に上手い」としか言いようがない。もちろんそれが「勝つ」ってことなんだけど、それよりも「試合が終わった時点でリードしていた=勝った」って思える試合ばっかりだった。

こういうタイプのチームは今まで見たことがない。
アタシはずっと「2003年の阪神こそ理想のチーム」と言い続けてきましたし、日本一になった1985年も、岡田が監督だった2005年も、何しろ優勝してるんだから当然のことながら良いチームだった。しかし今年の阪神はどの時代のチームとも違う。
もう、しいていえば、一番近いのが1985年で、と書くと間違いなく「打線がぜんぜん違うだろ!」と言われるのはわかっているのです。
でもね、1985年も劇的な逆転勝利って意外となくて、ワンチャンスを活かして中盤に点数を取って、あとは当時基準なら強力と言えた中継ぎで逃げ切るのが基本だった。これは今年に非常に近い。

ただし1985年と決定的な違いがある。
とにかく今年の阪神は「勝つために必要と思われる点数」を取れたら、途端に「数字通り」の凡打線になる。1985年が攻撃の手を緩めずに打ちまくったのとは対照的です。
消化試合で阪神はまったく勝てなくなりましたが、個人技に頼ってたら阪神の攻撃力なんてあんなもんなんですよ。だから「どうしても勝ちたい」と思ってない試合の得点力とかリーグでも下位です。
しかし、逆に言えば「どうしても勝ちたい、そのためにはこの回に勝てるだけの点数を取る」となったら、四球を絡めながらでもきっちり点を取る。

このCSなんかモロにそうなっていた。
この3試合はいずれも広島が先制する展開でしたが、先制されたその裏の攻撃、もしくはその次のイニングに全試合得点をあげて追いついており、結果、広島はいくら先制しても一度も精神的に優位に立てなかったと思う。
こうした真綿で首を締めるような試合運びが今年の阪神の真骨頂で、打てないイニングのが長いし、勝ち越してもトドメを刺すわけでもない。ただただ、僅差のリードした展開のまま、9回の相手の攻撃を抑えて試合を終わらせる。それに特化したチームだったと。

今年のMVPは候補がいない、と言われますが、実際、突出した成績の選手は誰もいない。
それこそ去年の村上宗隆のように圧倒的な選手がいないわけで、どうしても「スーパースターの成績や数で戦力を測りたがる」人には阪神の強さが理解しづらい。
誰もスターがいないのに、んで、いわゆる「死体蹴り」もしないのでチーム打撃成績も見映えがしない。
でもね、これは前に書いたけど、1-0で勝っても10-0で勝っても1勝は1勝なんです。どうしても「馬鹿勝ちするチーム=強いチーム、接戦続きのチーム=たいして強くないチーム」と言いたがる人がいるんだけど、今年の阪神は見映えが一切ないので、あまり野球を見ない人からしたら「強く見えない」のは、まァ当然というか。

アタシがね、指標とかそういうのにあまり興味がないのは、強いってそういうことじゃないと思うから。つか今年の阪神を見ててとくにそう思わされた。
それこそ木浪の打順を上げたらもっと得点力が上がると言われてもね。そりゃセイバー的にはそうかもしれないし、実際、チーム総得点は上がるかもしれない。

でも「だったらもっと勝ってた」とか「勝つにしても余裕で勝てた」とは到底思わない。
勝つのに不必要な点をいくら取っても意味がない。もし唯一意味があるとしたら勝ちパターンの中継ぎを使わなくて済むことですが、これも今年の阪神は「勝ちパターンの登板がかさんだ時は、勝ちパターンを使わなくても良い得点はきっちり取ってた」わけで、だから今年の中継ぎの登板数はたいしたことがないし、そもそも十分な数を用意出来たので休ませながら使うことが出来たわけで。

何かね、もしかしたら、これが本当に強いチームかもな、と思う。
それこそ.350、50本塁打の選手がひとりいるより.280、10本塁打の選手が3人いる方が強いし、投手なら24勝出来る投手がひとりよりも8勝出来る投手が3人いた方が強い。
リリーフにおいても今年の阪神にはJFKに相当する能力の投手はいなかったけど、JFKよりはやや落ちる、でもSHEよりははるかに強力な中継ぎが6人以上いるわけで、何というか、ひとりに集約させるよりもある程度分散してた方がスタミナ面や怪我のリスクを考えても安定した戦い方が出来るんじゃないか。

これが本当に「強い」ということなのかはわからない。たまたまピースがハマっただけ、もしくは岡田采配がズバズバ当たりすぎたというのもあるとは思う。
でも、間違いなく言えるのは、表面上の数字だったりスピードガンの数字ではわからない「勝ち方のコツ」みたいなのがわかってる、言い方を変えれば勝つのに必要のないことには無頓着だったのが今年の阪神と言えるんじゃないでしょうか。

岡田はシーズン前から「何となく勝つチームにしたい」と繰り返し言ってましたが、何だかよくわからないけど、試合が終わったらウチの勝ちだった、みたいな試合をこれだけ重ねることが出来たっていうことは、これぞ岡田が作りたかったチームだと思う。
そんなチームをたった一年で構築した岡田の手腕はもっと称賛されて然るべきだと思うし、ある意味「監督にとって采配が如何に枝葉であるか」の良いサンプルになった気もするわけで。

それにしても早かったなぁ。いくら岡田が有能でも任期が終わる頃にやっと形になってきたな、くらいだと思ってたのに。というか岡田が言うように今の選手の吸収力はすごいわ。







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