クジを2回外したことからすべてがはじまった
FirstUPDATE2023.9.16
@Scribble #Scribble2023 #プロ野球2023年 阪神タイガース 大山悠輔 孤立無援 同年代 近本光司 大山近本ライン 存在 WOW WAR TONIGHT 時には起こせよムーヴメント いつの間にやら仲間はきっと増えてる 単ページ

再び阪神の優勝のことを書きたいのですが、アタシが落涙したのはみっつ。ひとつが「横田慎太郎のユニホーム」、ふたつめが「梅野隆太郎と坂本誠志郎が抱き合っていたこと」、そして最後が「大山悠輔の号泣」でした。

思えば大山の野球人生というか「阪神タイガースにドラフト1位で指名されてから」は苦難の連続だったと思う。
本当は若き4番の大山をベテランの糸井嘉男と福留孝介が支える構図になるのがベストだったのですが、ちょうどそのタイミングで福留も糸井も能力的な衰えが顕著になり、大山をカバーする存在としてはかなり物足りない感じになってしまいました。
これね、言い方を変えれば大山は孤立無援だったと言い換えてもいい。当時の阪神には大山のようなマジメで練習熱心な選手はあまりおらず、福留にしろ糸井にしろ「お手本」にするには偉大すぎる。
唯一、看板選手になれる可能性を秘めていた大山は期待と同時に矢面に立たされ続け、このままでは大山は潰れる、と感じた阪神贔屓も多かったのではないかと思うのです。

しかし、すべての事態を変える出来事が起こった。
最下位に終わった2018年、この年のドラフト会議での阪神の至上命題は「センターを守れる選手を獲得すること」でした。
まず、高校ナンバーワン外野手の藤原恭大を指名しますがクジに外れ、続いて大学ナンバーワン外野手だった辰己涼介を指名するも、またもやクジを外す、という。
そして3回目で阪神が指名したのは大阪ガス、つまり社会人選手である近本光司でした。

この時点で多くの阪神贔屓は落胆したと思う。何だって足以外取り柄のなさそうな、しかもトシを食った社会人の選手を指名するのだ、と。
もちろん事情はあきらかだった。とにかく当時の阪神はまともにセンターを守れる選手がおらず、そもそも大和をセンターで起用していたのも他にまともなセンターがいなかったからです。
それにしても、何で近本?となったのも頷ける。というかアタシは指名直後に文章を書いてますが、あろうことか近本を「近田」と書いている。
つまりそれくらい期待が薄かったのです。

ご承知の通り、近本はリーグを代表するセンター、そしてトップバッターになった。だから結果的には「クジを2回外したこと」は正解だったことになるのですが、もうひとつ、これはあまり指摘されてないんだけど、実は「その2年前に大山を指名していた」のです。
社会人チームに進んだ場合、その選手は一年間ドラフト指名を凍結される。だからほとんどの社会人選手は「社会人チームで2年プレーした選手」ということになります。
要するに近本は大山と同学年だったのです。同い年、とも言える。そして近本は大山同様、練習熱心な選手だった。

もう一度言いますが、あのまま行けば大山は孤立無援で潰れていた可能性もあったんです。
それが、性格はまったく違うとはいえ「ドラフト指名時に歓迎されなかった」「練習熱心」な同級生の近本が入団したことで事態が急変した。
これで完全に「大山近本ライン」が出来た。そしてこのふたりがチームを引っ張るのが既成事実のようになったのです。
新人や新入団選手がチームに馴染むのは難しい。しかしそこは他の選手でも出来る。それこそ今年でいえばその辺の働きは原口文仁や糸原健斗の力が大きかったと言われています。
でも「このチームは誰のチームなのか、誰が中心なのか」も同じくらい重要なことで、そういう選手がいれば「ああ、この人についていけばいいんだ」と思えるんです。

以降に入団した選手、佐藤輝明にしろ中野拓夢にしろ森下翔太にしろ、ある意味、それこそ大山が入団した頃に比べたら簡単になった。だって「大山近本ラインについていけばいい」んだから。
森下なんかわかりやすいけど、自分の将来像を成績云々抜きにして「大山さんのような存在になりたい」ということですからね。いや成績を真似るなんて無理だし意味がない。でも「チーム内での存在」は真似ることが出来るんです。
岩崎優の今があるのも藤川球児さんのような存在になりたいというのがあったからで、んなもん、藤川球児の球筋や成績なんか真似られるわけがない。でも<存在>としては岩崎は間違いなく藤川球児の後継者なんですよ。

もちろんその野手版が大山近本ラインであって、しかしこれはけして狙ったことではない。実際、最初から近本を指名したわけじゃないし、2回も別の選手を指名してるんだから。
つまりは偶然です。偶然、クジを2回も外したことで「不動のトップバッターとセンター」、そして「大山と境遇の似た大山の同学年」の選手を手に入れただけの話であってね。
でも今回こうした成功事例が出来たんだから、あくまで「場合による」「能力があるのが大前提」とはいえ、こうした指名を意図的にやるのはアリなんじゃないかと思える。
たぶん現役を引退する時、大山は「チカがいたからここまでやれた」と思うはずだし近本も「ユースケがいたから」と思えるはずで、そういう体制をフロントが意図的に作っていくって姿勢は大事なんじゃないでしょうか。

よく頑張ったな大山。誰よりも大山が一番苦労したこと、そして大山がその壁を乗り越えてきたことを阪神贔屓はみな知ってるよ。だから去年も書いたように、大山が打席に入る時、他の選手とはムードが異様なほど違うんだから。
だからこそ大山にはこの歌を贈りたい。マジでこれ、大山の歌だと思って聴くと泣けるから。