結構ヤバい選択
FirstUPDATE2023.9.12
@Scribble #Scribble2023 #世間の話題 #1960年代 ジャニーズ事務所 渡辺プロダクション @渡辺晋 @ハナ肇 タレント帝国 竹中労 タレント上がり 単ページ

世の中には「まさかそこまで莫迦じゃないだろ」と思っていたら、想像をはるかに超える悪手というかヤバい選択をする人たちってのが結構いるわけで。

話はもちろんジャニーズ事務所のことなんですが、やったことの是非はともかく(いや<是>はあり得ないけど)、現在ジャニーズ事務所が立たされているっつーか置かれている状況って、誰が見ても<難局>なんですよね。
そんな難局で、タレント上がりの素人を社長に据える、というのはあまりにも理解出来なさすぎて、正直言葉を失いました。
すでに新社長に僕のソーセージがドータラみたいな話が出ているというか、実際に記者会見でも質問されて答えに窮してたみたいだけど、素人経営者ってだけでもマズいのにタレント上がりとか悪手にもほどがある。

何しろ今回は海外メディアからの突き上げでこんなことになったわけで(これも「こんなことになった」本当の理由はあるってのはわかってるけどそれは割愛)、こうなった場合、とにかく「ジャニーズ事務所は変わった」ということを印象付けなきゃいけないわけです。
なのに「現社長は代表取締役に留まる」とか「株式は現社長が保有したまま」とか「事務所の名前はそのまま」とか、こんなの中学生が見ても「何が変わったの?」としか思えないはずです。

ま、それはいい。そんなことよりですね。
おそらくもっとも芸能界を騒がせた暴露本、と言えば、「光GENJIへ」でも「洋子へ」でも「芸能界本日モ反省ノ色ナシ」でもなく(あえて著者はすべて割愛)、その影響力を考えるならやはり1968年に発行された「タレント帝国」だと思うわけで。
この本の著者は、まァさすがにこれだけは書かなきゃしょうがないんで書くけど、竹中労。検索してもらえればどういう立ち位置の人だったか何となくわかると思います。

んでこの「タレント帝国」ですが、これね、コタツ記事っつーかただの伝聞をさも真実かのように書いたような、いい加減な暴露本ではない。
かなり綿密な取材をしてあることは疑えず、そういう意味ではちゃんとした本なんですよ。
ただし全体を見れば相当悪辣な内容で、竹中労のバイアスがキツすぎてまったく共感出来ない。
つまりメチャクチャなバイアスがかかった&取材は綿密、というね、一見相反することを両立しているってのは、ある意味前代未聞の書籍だと。

「タレント帝国」で切り込んでいるのは、というか強烈なバイアスで攻撃対象になっているのは渡辺プロダクション、つまりはナベプロです。
だからナベプロ関係のことは殊更詳しい記載があるわけなんですが、さっきも書いたように、いくらバイアスが強くても何の調査もせずにメチャクチャ書いてるわけではないので、資料やデータにかんしてはかなり信用度が高い。
その中に非常に面白い資料がある。あくまで「タレント帝国」が発行された1968年時点での話ですが、ナベプロの関連会社一覧と主要スタッフの名前が掲載されているんです。

注目して欲しいのは最下段。「野々山定夫」という名前にピンときた方は鋭い。そう、野々山定夫の芸名は「ハナ肇」。クレージーキャッツのリーダーだったその人です。

たしか1980年代前半、体調のすぐれない渡辺晋に代わって「ハナ肇がナベプロの社長になるんじゃないか」という噂が流れたことがあった。
しかしその噂をハナ肇は一蹴している。タレントと会社経営ではまるで仕事内容が違う。出来るわけがない、エトセトラ。
たしかにね、「共同プロ」なるナベプロ関連会社でハナ肇こと野々山定夫が重役に名前を連ねているのは単なる名義貸し程度の話だったかもしれないし、少なくともハナ肇が経営に、というかカネ勘定までしていたとは思いません。
それでも渡辺晋の中に「そのうちハナもナベプロの重要ポストに就かせるかもしれない」くらいはあったはずで、そうなるとハナ肇をナベプロ社長に、というのはまったくの与太話だとも思えないんです。

ただ結果的にはハナ肇はナベプロの社長にはなってない。
いやね、話を元に戻しますが、仮にハナ肇がナベプロの社長になってたとしても、今回のジャニーズ事務所のような<難局>ではなかった。正直言えばナベプロの<落ち目>の頃なので簡単ではなかったかもしれないけど<難局>とは雲泥の差です。
ナベプロも順風満帆とは言い難かったけど、ここまで「タレント上がりの社長」はひとりもいません。
タレントという言葉が適切かはわかりませんが、ナベプロの渡辺晋もだし、ホリプロの堀威夫、田辺エージェンシーの田邊昭知など、黎明期の芸能プロダクションは「元表側の人間」によって作られ、また動かされていってたんです。

つまり彼らは「表側の人間が経営者側に回ることの難しさ」を嫌というほど肌でわかっていたはずで、だからこそ「タレント上がりの社長なんて難しすぎる」ってわかってたと思う。
そういう意味ではジャニーズ事務所は設立年を考えれば非常に珍しい「タレント上がりではない」経営陣による同族企業だった。
たぶん、だからこそ「その選択はマズい、というかヤバい」ということにセンシティブになれなかったのかもしれない。

というか、これは誰が悪いのかと言えば、もう先代の社長ですよ。あ、こないだまでの社長の母親ってことね。
ま、この話は長くなるからもういいや。