主役からワキへの移行の難しさ
FirstUPDATE2023.8.16
@Scribble #Scribble2023 #テレビドラマ #フィクション @クレージーキャッツ 織田裕二 @植木等 渥美清 小林信彦 シッコウ ビッグマネー キムタク トメ アテ込んだ役 単ページ

どうにも、こんな記事を見つけたもので。ま、何しろ悪名高い日刊ゲンダイDIGITALの記事なので信頼性はアレだけど。


上記リンクではさも簡単に「キムタクもワキに回るべきだ」なんて書いてあるけど、これね、相当難しいことだと思うんですよ。

「主役をずーっと続けて、歳をとったら、どうなるの?」
ぼく(筆者注・小林信彦)は無邪気な質問をした。
待ってましたとばかり、彼(筆者注・渥美清)はこう答えた。
「トメになるんだ。クレジットに主役の名前があって、脇役の名がずらずらっとあってさ、最後に線が引いてあって、重い役者の名前がある。これをトメというんだ」
おそらく<止め>と書くのだろう。主役→トメ、それが彼の理想であった。


これは小林信彦著「おかしな男・渥美清」からの引用ですが、日刊ゲンダイDIGITALの記事によると織田裕二は『「シッコウ!!~犬と私と執行官~」(テレ朝系)に出演中。主演は伊藤沙莉(29)で、織田はエンドロールで最後に名前が出るいわゆる「トメ」という立場』らしい。
つまり渥美清が描いた理想の「主演役者の<その後>」を織田裕二が体現している、と言えるんです。
実際、織田裕二は主役でないとというか単独主演でないと輝かないと思われていた役者のひとりだったと思う。逆の言い方をすれば、力を発揮出来るシチュエーションを用意してやれば絢爛たる華と<押し出し>でフィクションを牽引しまくれるという実に貴重な役者だったわけで。

って、ここまで書けばアタシが心から敬愛する、あの人に似た立ち位置だったと理解してもらえるはずです。
あの人、とはもちろん植木等さんで「植木等が光り輝くようなシチュエーションを用意出来れば、あり得ないレベルのオーラを放射するけど、少しでもズレると凡百の役者、コメディアンに成り下がってしまう」という難しい人でした。
つまり「植木等ありきの企画ならいいけど、後から植木等を当てはめたような役ではまるでダメ」ということになる。
もちろん、徐々に当てはめた役にも対応出来るようにはなったのですが、それでも「上手くコナしただけで、必ずしも植木等がやる意味はない」という映画やドラマも結構ありました。

でもね、仮に順列的にはかなり下でも、要するに主役でなくても「その役が完全に植木等をアテ込んで作られた役」なのであれば、植木等は輝けた。だからこそ晩年まで比較的良い仕事が出来たんです。
とくに晩年の「ビッグマネー!~浮世の沙汰は株しだい~」はトリプル主演のひとりとして出演し、原作のある作品であるにもかかわらず植木等の役柄はまさに「植木等をアテ込んだ役」で、あれはもう、植木等にしか出来ない役柄でした。

アタシは「シッコウ!!」というドラマは見てないんだけど、織田裕二が演じるのはどうも完全に「織田裕二をアテ込んで作られた役」のようで、それならば織田裕二の出番の多い少ないにかからわず「ワキ役・織田裕二」が成功する可能性が高いというのは理解出来るんですよ。
それくらい「元主演役者」には気遣いが必要で、そういうことを安易に考えると誰も得しない結果になりやすいってのは黄昏時の植木等さんの映画やドラマを見るとよくわかるんです。

じゃあキムタクにも同じことが当てはまるのか、というと、実はさらに難しい。
もちろんキムタクをワキに配置するとしても、キムタクの役は「キムタクが演じるありき」なのは当然として、それだけではちょっと成功は難しい。
アタシはね、以前も書いたようにキムタクの演技にたいして基本的に肯定的なんですよ。いや「ヒムセルフ役者」としてのキムタクは日本のフィクションで頂点まで行ったとすら思っている。
つまりワキになろうが「キムタクを活かす」となった時点で、結局はヒムセルフに近い役になってしまうわけで、それではたんに「キムタクの出番が少ないキムタクモノ」になってしまう。

そこで、です。別にリメイクにする必要はないんだけど、この際「ビッグマネー!」のフォーマットをそのまま活かす、というのはどうでしょうか。つまりはトリプル主演のひとりにしてしまうと。
いやね、マジメに考えたら実現不可能なのはわかってるけど、アタシなら香取慎吾とキムタクでドラマを作りますよ。
途中までまったく共演シーンがなく、もう、最終回の最後の最後で香取慎吾とキムタクが対峙する、みたいな展開にする。
しかし「香取慎吾とキムタクのダブル主演」ではない。あくまでトリプル主演です。となると植木等に相当する重鎮的な存在が必要になる。

これね、もし10年ほど前なら田村正和一択だったと思う。
田村正和も主演にこだわった人であり、古き良き映画スターのセルフイメージを守り抜いた人でもありました。
こういう人がトリプル主演のひとりならば、キムタクにも斜陽のイメージは持たれづらい。いわば昔のオールスター映画に近いニュアンスも出ますし、田村正和なら意外と剛も柔もどちらもイケるので、わりとどんな内容でも対応出来たはずです。

ま、存命でない人の名前を出してもしょうがないんだけど、他、となるともうまったく候補がいない。
もはや量産化時代に映画スターだった方の大半は亡くなられてるし、ご存命であってもトリプル主演のひとりがつとめられるほど、現在でもネームバリューがある人なんていない。
せめてビートたけしがもうちょっと元気でね、あといろいろクリアならイケるかもしれないけど、もう無理だよ。
あとはなぁ、西田敏行とか寺尾聡なんかも、何かちょっと違うし。

だったらさ、性別は変わっちゃうけど、まったく想定外のところで藤山直美とかどうですかね。香取慎吾とキムタクと藤山直美のトリプル主演。想像出来ないでしょ?だからいいんじゃないかと思ってみたり。







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