今さら「君の名は。」を観た五十路のオッサン
FirstUPDATE2023.2.1
@Scribble #Scribble2023 #映画 単ページ 松本清張 砂の器 君の名は。 トリック #東京

今さらもいいところですが、ちょっと、嫌なことがあったんでね、こういう時は映画でも見るのが一番なんですよ。で、録画するだけして見てなかった「君の名は。」でも見るかと。

さて、松本清張は「砂の器」を執筆するにあたって「ズーズー弁」「犯人と刑事の心理」「超音波」を柱にする、と決めたらしいですが(と考えるとハンセン病は<柱>じゃなかったってことだから他の病名に置き換わっても問題ないか)、何故か、いや理由ははっきりしてるけど「超音波」は一度も映像作品には採用されたことがありません。
まァね、さすがに超音波殺人は現実離れしすぎてるし、映像で見せられるとちょっと嘘くさくなってしまうので妥当です。

それを言うなら「君の名は。」の<柱>は「自然災害」「すれ違い」「叙述トリック」ということになるのか。んでそれをSF的な発想でまとめたと。
ま、もちろんこれはアタシの想像に過ぎない。でも個人的には「男女入れ替わり」はたいして重要ではないと思うんですよ。というか<柱>を実現させる方法として「転校生」他で使われた男女入れ替わりというルーティーンを用いたんじゃないかと。

このうち「自然災害」と「すれ違い」はいわば骨格の部分になるんだけど、物語として考えたら「叙述トリック」がないと成立しない。
叙述トリックったってすごいとか画期的とかじゃなくて、あくまで「軽い」叙述トリックなんですが、軽かろうがなんだろうが、後半に入ったタイミングで実に上手く叙述トリックを明かしたな、と。
ま、狭義であれを叙述トリックというのかは知らんけど。

たぶんね、あそこが観客にとってのターニングポイントだったと思う。あの軽い叙述トリックで「どういうこと?」とか「ありふれた<手>だな」みたいに醒めた目で見た人はどうしても作品にたいしての評価が低くなってしまうし、逆に「お!そう来たか!」と思えた人は必然的に評価が高くなると思うんです。
ではアタシがどうだったかで言えば「お、そう来たか!」派で、つまり、面白かったかつまらなかったかで言えば、面白かったという評価です。

唯一理解出来なかったのは、クライマックスのお祭りのシークエンスで、あそこはもうちょっと、村の人たちに「とまどい」みたいなのがあっても良かったんじゃないの?停電になって、村内放送もあるのにあまりにも安閑としすぎ、というか。
でもケチをつけたいのはそれくらいで、と書くとメチャクチャ評価が高いみたいだけど、例の叙述トリックを含めても「まあまあ面白い」くらいでした。

ただね、評価としては<まあまあ>レベルでも、好きか嫌いかで言えば、意外かもしれないけど、かなり好きな作品です。
アタシのような「街好き」、そして「東京好き」からすれば、あれだけ丹念に東京を描いてくれたら嫌いになる要素がない。
これはね、かなり根本的な不満なんだけど、舞台となる地域をボカした作品が多すぎるんですよ。せっかく「東京」とは決めてあるのに、具体的にどの街とはわからないようにしてあるっつーか、モデルを悟られないように変えてあるというか。
こんなの街好きからしたら余計なことで、そこはリアルであればリアルであるほど「かさ増し」になると思うからね。

アタシの中で「シン・ゴジラ」の評価が高かったのはそうした理由もあります。「シン・ゴジラ」は東京近郊に住んでる人なら「あ、あそこだな」と一発でわかるレベルだったから。
あとは本サイトにも書いたけど(リンクは面倒なんでナシ)「男女7人夏物語」のロケ地なんか細かい番地までわかるわけでね。
もちろんね、劇中でそのものズバリを描いてしまうと許可取りが大変なんだろうなってのは想像出来るんですよ。とくに実写の場合は。
そう考えると「君の名は。」が「アニメ作品だった」というメリットはかなり大きい。言っても<絵>なんだから基本「そのまま」で、変えなきゃいけないところだけ変える、というのが実写に比べるとはるかにやりやすいからね。

つまり、アニメでありながら、実写を超えるほどの臨場感を獲得しているわけで、じゃあその臨場感がどうやってもたらされたか、それは心理描写とかではなく<街>の描き込みと、これまた想像になるけど<街>への思い入れがあったからこそ、なんじゃないか。
いやもっと言うなら、あの徹底的した<街>の描き込みがなければ叙述トリックが通用しない。ちゃんと「2016年東京」が描けているからこそ「2013年の架空の村」が活きるわけだから。

まァね、一応「天気の子」も録画したのを持ってるんでね、見てもいいかな。正直こっちはあんまり期待してないんだけど。
でも万が一「天気の子」が<まあまあ>だったら「すずめの戸締り」を観に行ってもいいかもな。まだ上映してるみたいだし。







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