ま、たまにはこういうフィクショナルなものもいいのではないかと。
「私の名前はミミザーリィ。ご覧の通りオッサンだが、私は君たちの味方だ」
味方?
「そう。君もずいぶん辛い思いをしてきただろ。よく頑張ったな。でもこれからは私がついている。もう安心したまえ」
・・・あ、安心したまえって、何を安心したらいいのさ
「君は大人からこんなことを言われてきたな。社会的な常識を身につけなさい、とか、あなたは我慢が足りない、とか、耐えることを覚えないと、とか」
うんうん、言われてきた!そうなんだよ
「ふふっ、そう言われて辛くなった気持ちはよくわかるぞ。古い価値観を押し付けられてな、可能性を全部押し潰されて。でもな、若者というのは本来もっと自由なものなんだ。君も大人の言うことなんか無視して、もっともっと自由に生きたらいいんだよ」
ほ、ほんと?ほんとに自由になっていいの?
「ああ、構わないとも。礼儀?敬語?コミュニケーション能力?そんなものは全部大人が引き受ければいいんだ。つまり大人は自分がラクをしたいがために君たちにそんなものを押し付けてくるんだ」
そうなんだよ。まったく、老害ってのは本当に困るんだよ
「老害、か。言い得て妙だな」
で、でも・・・
「何だい?」
いくら自由にやろうったって、今の世の中、何をするにもお金が・・・
「何だ、そんなつまらないことか。それなら私の全財産を君に授けよう。軽く見積もっても10億はあるぞ」
え?ミミザーリィさんってそんなにお金持ちだったの?
「違う。これは私がコツコツ貯めた金だ。君のような未来ある若者に授けるためにな」
で、でも
「何だ?10億じゃ足りんか。まあ、若いうちはいろいろ金を必要とすることが多いからな」
い、いや。10億もあれば十分だよ!でも全財産を僕に預けたらミミザーリィさんはどうやって生活するの?
「私か?私はボロ家に住んで生保でも受けながら質素に生活するさ。大人なんだからそれくらい若者のためにやらないと嘘だろ」
そっか。大人は我慢する役割だもんね!若者の犠牲になるなんて当然だよね!
「時に、君はまだ独身かい?」
独身どころかピカピカの童貞だよ!
「そうか。ではどんな女性がタイプなんだ?」
そ、それは、純粋で頭が良くて、料理が上手くて、アイドル並に可愛くて、いっぱい稼いでくれて、それでいて僕のことだけを一途に愛してくれるような・・・
「何だその程度か。お安い御用だ。ちょっと待っておれ・・・ほれ、連れてきたぞ」
うわっ、黒髪で僕の好みにピッタリだ
「ヨシオさーん!愛してる~!!」
何だかいきなり愛されたぞ。ありがとうミミザーリーさん!
「ははっ、困ったことがあったらいつでも言い給え。さらばじゃ!」
十数年後
「元気にやっとるか」
あ、ミミザーリィさん、お久しぶり!僕も嫁も元気です!
「そうか。それは良かった。ところで今日は君の40歳の誕生日だったな。おめでとう」
ありがとう!今日で僕も40歳だよ!立派な大人だよ!
「時に、君、貯金はどれくらいある?」
え?
「君、私が10億授けた時に、ちょっと不満げな顔になったな。当然、それよりも多く貯金してるんだろうな」
ちょっと待ってよ。あれはミミザーリィさんがくれたお金だろ?今僕がいくら貯金があるかなんか関係ないだろ!
「関係あるんだよそれが。いいか、次は君が私の役割をする番なんだ。若者に財産を授けて、無礼な若者のフォローを全部やらなきゃいけない」
そ、そんな馬鹿な!
「40歳になったんだろ?自分でも言った通り、君はもう大人だ。いやオッサンだ。つまり君もただの老害になったんだ。自分では世間についていってるつもりかもしれないけど、君の価値観は古くなったんだよ。つまりだな、老害のオッサンになったならば、若者の犠牲になるのが当たり前だろ」
いや、そんな、あ!嫁は?彼女は僕の生き甲斐なんだ!
「年増好きの若者がいれば、もちろん譲ってやらなきゃいけないぞ。それとこの家も明け渡さないとな。未来ある若者のために」
じゃあ僕はどうすればいいのさ!
「ボロ家で生保だな。なに、私も経験したことだ。それが大人の役割だから。というか、大人は若者の犠牲になるのは当然だ、と言ったのは君だからな」