ソラミミの時代
FirstUPDATE2020.5.6
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 もうしょっぱなからWikipediaに頼りますが、「タモリ倶楽部」内で「空耳アワー」というコーナーが始まったのは1992年らしい。
 しかし当該Wikipediaでも触れられている通り、類似企画はそのずっと前からあり、記事中にある「鶴光のオールナイトニッポン」のコーナーにかんしてはアタシは実際には聴いたことはないけど、そのような面白いコーナーがある、というのは風の噂で聞いたことがありました。

 ここで長々と説明する気はないので、詳しくはWikipediaを読んでもらうしかないのですが、要するに「空耳アワー」は別に目新しい企画でもなんでもない。わりと安易な、そのわりにテッパンな企画っつーか、良い言い方をすればスタンダードだとさえ言えるのかもしれません。
 「空耳アワー」が突出した理由は3つしか考えられない。
テレビ番組の1コーナーでやったこと
映像を上手く使ったこと
しつこく何年も(何十年か)やり続けたこと
 Wikipediaを読めばわかるように、類似企画をおこなっていたのはすべてラジオ番組です。いや鶴光の番組のコーナータイトルで言えば「この歌は、『こんな風』に聞こえる」ってのが全貌なんだからラジオで十分なんですよ本来は。
 ところが「タモリ倶楽部」はあえてそこにコントのような安っぽい映像をつけたんだけど、これこそ「タモリ倶楽部」の制作会社であるハウフルスならではのものだったんです。

 ハウフルスが他のテレビ番組制作会社と一線を画しているのは、とにかく「音楽に強い」ということで、あの映像も音楽への造詣の深さが形になったものだと思う。
 あれ、音楽は音楽として独立していて、映像のコントはいわば「アテ振り」なんです。しかしこのアテ振り芸は、とくにジャズメンが持ち芸にしていた人が多く、クレージーキャッツの谷啓はライブのアンコールでスパイクジョーンズの「Cocktail for two」のアテ振りを行っています。
 しかしこれも元ネタがあって、スパイクジョーンズ自らがアテ振りをした映像が残っています(「Cocktail for two」で検索すれば出てきます)。おそらく谷啓はこれを見て触発されたのでしょう。
 間違いなくハウフルス(のスタッフ)はこうした<アテ振り芸>を知っていた。音楽に映像をリンクさせることで、より面白みが増すことがわかっていた。
 そしてそうしたことをしつこくやることによってソラミミという「取りようによっては駄洒落でしかない」ものをエンターテイメントの域まで高めたのです。

 さて、ここで個人的な話になります。
 アタシは1996年から本格的に音楽活動を始めました。と同時に、メンバーのひとりでもあった友人が経営するクラブで働き始めます。
 何度も書いているように、アタシたちのユニットがやっていたのは、大雑把に言えば「ダブ寄りのレゲエ」っぽいものです。しかし、それこそボブ・マーリーのような「如何にもレゲエでござい」みたいなのを想像されると困ってしまう。何というか、もっと雑多なもので、ある意味ポンチャック的なごった煮音楽でしてね、でも歌謡曲とは違う。
 アタシたちはそれを「450」と称していた。カタカタで書くなら<ヨゴレ>なんだけど、一部地域では「ヨゴレ=ヤ○ザ」の意味があるので当て字(つか当て数字)にしていたわけで。
 ベースはレゲエらしきものだけど、ダンスミュージックならわりと何でも取り入れる、というね。たとえばダイアナキングの「Shy Guy」とかロス・デル・リオの「Macarena」とかは本当によくかけてました。

 アタシがやってたユニットがよくイベントをおこなっていた、そして不肖アタシがカウンターの中でカクテルなんかを作っていたのは<クラブ>です。もちろんナイトクラブじゃない。踊る方のクラブです(って書くと、ナイトクラブも踊るじゃないか!ってツッコまれるかもしれないけど)。客の大半は、まァ踊りに来ているといってもいい。一部には喋りにくるものやナンパ目的もいたけどさ。
 では客は「Shy Guy」や「Macarena」でどのように踊っていたかです。
 おそらく原型はパラパラだと思う。ほぼ下半身を動かさず上半身、いやもう腕だけだな、を使って踊るアレですね。
 パラパラが優れているのは他人とのシンクロだったり、上半身と下半身の連動といった、いわば身体能力のあるなし関係なく、極端にリズム感が悪い人以外それなりにサマになるんですよ。しかもダンスの大敵とも言える「照れ」も、何しろ腕を動かしてるだけなのでだいぶ弱いってのも日本人向きだった。

 ただしウチのクラブでの踊りはパラパラとは若干違った。
 「Shy Guy」で言えば「Follow me」の箇所なら妊婦を連想させるフリだった。歌詞は「Follow me」なんだけど「はらみ(妊み=妊娠する)」と聞こえるのでそういう振りになったと。
 正直これがウチのクラブ発祥なのかはわかりません。んでこれがどれくらい普遍的なフリだったかはまったくわからないんだけど、こうした<ソラミミ的>なフリは、大阪のごく一部かもしれないけど、あったかなかったかで言えばあったことはあったんです。
 アタシがクラブで働いていた1990年代後半、もちろん当たり前のように「空耳アワー」のコーナーは放送されていました。
 それでも<ソラミミ的発想>が巷に広がっていたかというとそうじゃないと思う。たぶんウチのクラブでおこなわれていた「ソラミミパラパラ」も全国的にどの程度当たり前だったかというと、まったく当たり前でなかったことは間違いないと思うわけでね。

 ところが2000年代に入って、思わぬところから<ソラミミ的>発想が飛躍することになった。
 「空耳アワー」っつーか「タモリ倶楽部」が放送されていたテレビでもなければ、クラブやディスコといったダンスフロアでもない。
 ソラミミの次なるステージは「新しいプラットフォーム」だったインターネットです。
 1990年代までの、いわば黎明期のインターネットは完全に文字の文化でした。
 これは当時のインターネット回線を考慮するなら当然で、映像はおろか画像さえもインターネット経由でやりとりするには大きすぎた。となるとインターネットの特性である「リアルタイムでのやりとり」を殺さずに利用するには文字(つまり文章)でしか難しかったんです。
 ISDNの普及とともに画像(あくまでサイズが小さいものに限定され、大きい画像は忌み嫌われていた)を使ったことがおこなわれるようになりますが、だんだんと<動画>への渇望も見られるようになってきた。しかし当時の貧弱なインターネット回線では、いくら再生時間が短くてもアップロードもダウンロードもままならない。

 そこで活用され出したのがFLASHという技術を使った簡易アニメーションで、とくに2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)では笑わせることに特化したFLASHアニメーションが多く作られることになります。
 音楽も画像も既存のっつーかインターネットに落ちているものを使い、組み合わせとタイミングとアイデアの妙で面白おかしいものをこしらえる。簡易で安易だけど、その分「中身勝負」なところがあり、ユニークなFLASHアニメがたくさん作られたんです。
 一般には2000年代初頭のこの時代は「FLASH黄金時代」と言われている。今見るとたしかに当時のインターネットの<ノリ>がキツすぎるし、技術的にはまったく見るべきものはないのですが「自分の技術を使って人を楽しませてやろう」という気概は理解してもらえるはずです。

 この頃のFLASHアニメで大いに活用されたのが<ソラミミ的発想>で、もちろん「ゴノレゴ」や「ペリー」(開国してくださいよぉ~!ってヤツね)といったソラミミとは違う傑作もありましたが、原曲をほぼ弄ってない「All I Want」(♪ ドーラえも~ん!っての)から、パッチワーク的に音源を若干弄った「ドラえもん絵かき歌」や「ギャバソ」などは完全に<ソラミミ的発想>で映像、つまりFLASHアニメが作られています。
 そしてある意味、少なくとも知名度的に頂点となったのは「恋のマイアヒ」で、<ソラミミ的発想>で作られたFLASHアニメは社会現象になったんだから。

 面白いのが、Wikipediaによると第三次パラパラブームの立役者だったと言われる木村拓哉が6年の時を経て「恋のマイアヒ」をパラパラふうに踊ったことで、ソラミミはテレビとダンスに先祖返りしたのです。
(いちいち全部のリンクを貼るのは面倒だから(リンク切れの可能性もあるし)ココでも見てください)
 まァね、ここで終わればめでたいっていうかハッピーエンドなんだけど、この後「恋のマイアヒ」のFLASHアニメを巡ってひと悶着があったのですが。ま、本エントリの趣旨から大幅にズレるので詳しくはWikipediaの「のまネコ問題」の項を読んでください。

 この騒動以降、FLASHアニメは急速に勢いを失った。
 最大の理由はブロードバンド回線が普及したことで簡易なFLASHアニメではなく普通の動画のやりとりが可能になったこと、それに合わせてYouTubeなどの動画サイトが誕生したことであり、つまりたまたまこのタイミングでFLASHアニメが衰退しただけで騒動の影響はゼロに等しい。
 ただし有名税っつーか、限られたコミュニティでやってたことが有名になりすぎると大企業が絡んできてややこしくなるっつー教訓めいたものはあったかもしれないけどね。
 動画(=実写)全盛時代になって、ソラミミは再び「駄洒落の延長」まで戻ってしまいました。
 もはやインターネットで<ソラミミ的発想>で<何か>を作ってる人なんて皆無に近いし、とくに昨今は音源の使用にかんしてうるさい時代なので(YouTubeでは「アカペラで歌う(ヴォーカリスト含む)」だったり「自分で演奏する(DTM含む」で既存曲を利用するのは著作権的にオッケーだけど(包括契約済)、パブリックドメイン以外の既存の音源そのものを使うのはアウト)、もうかつてのソラミミFLASHアニメを発表する場もありません。
 テレビでは相変わらず「タモリ倶楽部」が頑張っているけど、もうキラーコンテンツとしての地位を確保しすぎていて他番組も類似企画が出来なくなってる。
 最初の方に書いたように、ソラミミってのは別に「タモリ倶楽部」の発明でも専売特許でもない。スタンダード企画でありルーティン企画であるとさえ言えるんです。でも「それ、空耳アワーの真似だよ」と言われるのがわかっているのでどこもやらない。

 せっかく「タモリ倶楽部」がさ、アテ振りという古典的な芸を上手く咀嚼して「映像付きソラミミ」ってのを開発したんだから、もっと広がってもいいとは思うんです。
 となると一番ふさわしいステージはインターネットになると思う。
 著作権の問題があるのは百も承知だけど、Spotifyとか、いや日本のソラミミ文化がわかるっていうことで言えば日本発のLINE MUSICとかDヒッツとか楽天ミュージックとかか。そういうサブスクリプションサービスがね、ソラミミネタを投稿出来るシステムを作ればいいんじゃないかね。
 もちろん下品すぎたりモラル的にヤバいのはダメだけど、そういうって実はFLASH黄金時代にもほとんどなかったし、原曲を弄れないって制限はあるけど、それでも面白い動画が出てくるような気がするんですよ。

 もしかしたら一番の問題は現今「簡易にアニメーションが作成出来るツールがない」ってことかもな。ま、あることはあるし、もっと簡単に、それこそスマホで作成可能なアプリも作ろうと思えばいくらでも作れるとは思う。でももうFLASHほどのスタンダードにはなれない。
 となるとサブスクリプションサービス会社が自らそういうアプリを開発するしかないね。いやアタシはそういうのこそニコニコ動画がやればいいと思うんだけど、まァそれはいいか。

安齋さん、見た目は完全におじいちゃんになっちゃったけど、見た目以外は変わらないな。相変わらず声もたけーし。
しかしあの年齢であれだけ声が高い人って見たことないよ。ある意味一番の空耳かもしれないな。




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