アタシが手を染めた悪質なイタズラ
FirstUPDATE2019.10.3
@Scribble #Scribble2019 #与太話 単ページ ただの泥棒 大学時代

ま、大学時代の話を書こうと思うのですが、思えばこの頃、すべての判断基準が「笑えるか否か」だけだったような気がする。モラルとして、というよりは「笑えないほど酷いこと」なら止めておこう、みたいな。

<笑い>において、その時々の空気感ほど重要なことはありません。とてもじゃないけど万人が面白がれるようなことじゃなくても、その瞬間、仲間内では爆発的に笑えることがある。
ただしそれはあくまでその空気感だから面白いのであって、ネタとして誰しもが面白がると思ったら大間違いです。
あの時、あれだけ笑えたんだから、仮に半分以下になったとしても、誰でもそれなりに面白いだろ、なんてあり得ない。むしろ相手の顔が強張ってしまうケースさえ珍しくない。

昨今のバイトテロの類いはそこがまったくわかっていない。いやそれにしてもあまりにも笑いのレベルが低すぎると思うけど、仲間内で面白い→世間的にも面白いはず、という発想そのものが間違ってると言いたいわけで。
とはいえ、思えばアタシも、さすがにバイトテロほどではないけど、低レベルで悪質なイタズラをした経験がある。それも一度二度程度ではなくね。
ただしそれは、ほぼ、いや全部だな、大学時代の話です。何しろ「笑えるか否か」だけが判断基準だったから。言い方を変えれば「笑えるのであれば何でもやるつもりだった」とさえ言えるわけで。

あれはたしか大学2年の頃だったと思う。
この頃は「まったく無意味に、仲間3、4人と夜中にドライブをする」ってのが日常になっていたのですが、完全に<無意味>では面白くない。やっぱ、何らかの目的があった方がいいわけです。
どういう経緯でそうなったのかは憶えてないんだけど、とにかく「片っ端から近隣にある大学に行こう」なんてことになってね。

それだけなら普通っぽいけど、アタシたちの行動時間は夜中です。夜中に勝手に大学の敷地に入って遊ぶっつー。
だからと言って器物破損をして喜んだりはしなかった。つかそれは仲間内の間ではただの「笑えない冗談」でしかないので、そういうのはしない。
ただ、犯罪めいたことを何もしなかったのかというと、結構やった。ま、それもたいしたことではないんだけど、一番印象に残ってることを書いていきます。

あれは某大学に行った時のことです。名前を出すわけにはいかないのでA大学としておく。
A大学の入口のところに「学生の車両での侵入を禁止します。A大学」というタテ看板が置いてあってね。
これはウチの大学もそうなんだけど、基本的に学生はクルマで登校しちゃいけないわけですよ。んなことを許可したら収拾がつかなくなる。だいたい大学の駐車場なんてたいして広くないんだから。
でも、そこを、何としてでもクルマで来たいのも学生でして、鍔迫り合いが繰り広げられることになってしまうのです。

入口のところには通常警備員が立っています。だから普通にクルマで入っていこうとしたら止められる。でも逆に言えば警備員がいない時なら自由に入れるわけで。
「○時から○時は警備員がいない」
みたいな情報を共有してね、どうにかクルマ通学を実現させていたんですね。
ウチの大学は夕方からは警備員がいなかったので、アタシはなるべく夕方から学校に行くようにしていました。夕方ならもう授業は全部終わってるから、駐車場もガラガラで停め放題だったし。
え?授業も終わってるのに何をしに学校に行くんだって?遊びに、に決まってるじゃないですか。
知りませんでした?大学はね、ただの娯楽施設ですから。

たぶんA大学でもウチの大学と同じことが繰り広げられていたのは間違いなく、それでこんなタテ看板を設置したんでしょうな、てのは簡単に想像出来た。
そのタテ看板を見て、仲間内のひとりがこんな提案をしてきた。

「あのタテ看板、パクろか?」

うん。完全に犯罪です。けど何度もしつこいけど、ただ単にパクる(現注・=盗む)だけなら面白くないわけで、そんなことにノるわけがない。

「いや、ちょっとオモロイこと思いついたんや」

オモロイ?ホンマかいな。ま、この際コヤツの話に乗ってみるか。
アタシたちは誰もいないことをいいことに、まんまとタテ看板をクルマに積み込んだ。馬鹿笑いしながら。どうですこの鮮やかな手口は。
まァね、こんなもんは持って帰ってもしょうがないわけです。インテリアとして、部屋のオブジェになるかというと、ならない。かといってこれが夜のオカズになるわけもない。「侵入」という言葉だけで興奮を催すような高度な性癖の人間は誰もいなかったし。
じゃあどうするか。<オモロイこと>を思いついた仲間は「B大学に行って」とドライバーに指示した。何故に?

B大学につくと、さっきパクったタテ看板を設置しだした。たしかにB大学は敷地が広く、なんでも学生のクルマ通学も認められてるらしかった。
・・・けど、正直あんまりオモロくはない。たしかに突然こんな看板が立ってたら学生はビックリするかもしれないけど、どうせ警備員がすぐに撤去するだろうから意味も薄い。
何よりたいして、いやぶっちゃけぜんぜん笑えないのが問題で、結果としてオモロないことのために犯罪に手を染めたことになるわけで、ビミョーな空気が流れた。
かといって、看板をA大学に戻す気力もなくなっていた。もういいや、今日のことはなかったことにしよう、と。

それから数ヶ月が経ちました。
いつものように夜中にドライブしていたアタシたちは偶然B大学の前を通った。

「そう言うたらここに看板置いていったことあったなぁ」

「あの看板、どうなったんやろか」

「そら、A大学に返したんちゃう?B大学はマジメな大学やし」

「もしかしたら隅っこに放置されてるかもしれんで。見に行ってみようや」

B大学の入口の前まで来ると、いきなりアタシたちがパクった看板が見えた。あれ?普通に置いてあんじゃん。
しかしその看板の文言を見て目を疑った。

「学生の車両での侵入を禁止します。B大学」

何と「A大学」と書いた箇所に上から紙を貼って「B大学」にして再利用していたのです。
さすがにこれは笑った。あり得んだろ。つか普通、A大学に連絡して「オタクの看板が何故かウチにあるんです。申し訳ありません。お返しします」とかならなかったのかね。A大学とB大学はクルマなら30分もかからない距離なんだから余裕で返しに行けるのに。
そりゃあ、最初にこんな悪質なイタズラをしたのはアタシたちですよ。でも勝手に大学の名前を書き換えて再利用するB大学も相当なモンだわ。

それにしても、まさか「オモロイこと」がこんな時間差だったとは。つかもしB大学の対応まで織り込み済みでこのイタズラを考えたのならアイツは大天才ですよ。ま、んなことはあり得んけどね。







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