そういや「水曜どうでしょう」の藤村Dが面白いことを言ってて、つまり「市民の足としてJR北海道を立て直すのは無理」と断言した上で、普通に走ってるだけで車窓の景色がサマになるのはJR北海道しかないんだから、もっともっと観光路線としての色を強めるべきだ、と。
この意見の実現性はともかく、発想自体は面白い。これは藤村Dがもともと北海道の人間じゃないから言えることだと思うけど、同じく北海道出身じゃないアタシもそう思う。アタシは別に「北の国から」とか見てないし、そもそも北海道に何の思い入れもないけど、あの車窓は間違いなく日本の最高峰だと思う。それくらい素晴らしい。
って、アンタ北海道で電車に乗ったことあんのかよ、と思われるでしょうが、やっと本題に入ります。
1996年の初春、北海道北部に住む友人の家に遊びに行ったことがありました。てなことは2017年に書いた。それを読んでもらえればわかるように、温泉に行って女湯が見える岩風呂に行ったり、松山千春の生家に行ったりして大はしゃぎしました。
しかし旅である限り、終わりがあるのも当たり前で、アタシは帰路につくことになります。
行きは飛行機で女満別の空港まで行ったんだけど、帰りも同じでは面白くない。そこで「電車で釧路まで行って、そこからフェリーで東京まで帰る」というプランをたてた。もちろん時間はメチャクチャかかるけど、何か面白そうだなとね。
友人宅の最寄り駅から釧路まで、たしか5時間くらいかかったと思う。とにかく時間がかかったし、それは事前に把握していました。
けど車中、退屈することがまったくなかった。一応車中で読むように本を持ってたんだけど、ほとんど目を落とさなかった。
というのも、車窓から見える景色があまりに素晴らしかったから。
とくに釧路に近づくほどに素晴らしくなった。ま、いわゆる釧路湿原ってヤツですか。何だこの幻想的な景色は、と。アタシはね、こういう幻想的な景色にはあまり関心のない人間なんです。なのに、そんな人間でさえ、車窓から目を離せなくなるほどとか、これはいったいどんなレベルなんだ、とね。
釧路に着きました。
ホテルは予約はしてあったんだけど、何しろ釧路なんて初めてだからどんなホテルかまったく知らない。ネットもない時代では外観の確認さえ出来ないのは当たり前だったし。
何か、そこそこ立派な名前だったように記憶しているけど、ホテルの外観はかなりみすぼらしかった。外観だけでなく内装も相当だった。
ま、言っても一泊だけだしね。ちゃんと暖房が効いてれば、それだけでいいやと。
部屋に入って明かりを点けようと、・・・点かない。昔ながらの紐を引っ張るタイプの蛍光灯だったけど、何度紐をパチパチやっても、まったく点かないのです。
そりゃあね、暖房さえ効いてればとは思ったよ。でも蛍光灯が点かないのはさすがにマズすぎる。
フロントに電話した。あのぉ、電気が点かないんですけどぉ。
30分くらい待たされて、やっとオッサンが来た。蛍光灯管ふたつぶら下げて。
ま、当たり前だけど、照明なんて天井からぶら下がっているわけです。つまりかなり高いところにあるので、何かに登らないと蛍光灯の交換なんて出来るわけがない。
なのにそのオッサン、フシギな動きをしている。しゃがんだと思ったら伸び上がって、を繰り返している。
おいおい、まさか<伸び>だけでやろうとしているのか?んなアホな。
「すいません。届きません」
当たり前だ。つか普通は脚立かなんか持ってくるものだろ。
「脚立ですか。そういうのは当ホテルにはありません」
どんなホテルだよ。
「すいません、ちょっとよろしいですか」
アタシが返答する間もなく、オッサン、ベッドの上に上がった。おいおい、そこ、今日アタシが寝るんだけど。きったねー靴下のまま上がるなよ。
こうなった以上、もういいわ。それより部屋が真っ暗なままの方が困るんだし。
だけれどもね、そりゃあ多少は高くはなって蛍光灯に手は届くようにはなったけど、ベッドなんだから安定性が悪いことおびただしい。しかもそのベッド、後でっつーか寝てみてわかったけど、相当スプリングがヘタってたし。
オッサン、何度もグラグラッとなりながら蛍光灯を替えている。これが脚立とかなら支えておくとかも出来るけど、ベッドだからそれも出来ない。ただ、オッサンの曲芸を見守るしかない。
オッサン、ようやく綱渡りを終えたようで、そそくさと帰っていった。この間、実に一時間。たかが蛍光灯の交換に一時間もかかったのか。
それにしても、いくら北海道が距離的にロシアに近いといっても、まさかボリショイサーカスばりの曲芸をホテルの部屋で見ることになるとは。つか本当なら「釧路=湿原の素晴らしさ」になるはずだったのに完全にオッサンに全部持っていかれたよ。いいのか釧路!