ぬかるみの街・辻堂
FirstUPDATE2018.10.24
@街 #湘南 #レトロ 単ページ 辻堂 関東特殊製鋼 湘南テラスモール ぬかるみ

 アタシは1968年生まれなんですが、昔のことを知ってるようで知らない、実に微妙な時代に育ちました。
 実体験があろうがなかろうが、平成生まれだろうが二十一世紀生まれだろうが、どうも「三丁目の夕日」的光景に郷愁を覚える人が多いみたいだけど、アタシのトシではこういった如何にも、みたいな昭和30年代っぽい世界はもうなくなっていました。
 駄菓子屋もありゃあ、砂利道もあった。大人は子供の前だろうが平気でタバコを吸ってたし、池を挟んで戦争ごっこみたいな遊びもした。

 そうやって上手くピックアップしてやれば「まだまだ古き良き光景が残っていた」と言えそうなもんだけど、現実には相当違う。駄菓子屋ったって店先のアーケードゲームをやりに行ってただけだし、砂利道なんてほんの僅かしか残ってなかったしさ。
 もう今ではよほどの田舎でも見かけませんが、あの「舗装されてない生活道路」ってのは、たしかにものすごく嫌な存在でした。
 ってアンタ、さっき子供の頃にはほとんどなかったって書いてなかったっけ?と言われそうだけど、アタシが体験したのは子供の頃じゃない。だから「街」シリーズなわけでして。

 辻堂。神奈川県の、いわゆる湘南地方にありますが、そんなに知名度は高くない。今でも中居くんの出身地ってくらいしか知られてないんじゃないのかね。
 駅前には「湘南テラスモール」というデッカいショッピングモールがありますが、アタシは映画を観る時くらいしかに行かない。余裕で「よく行ける距離」に住んでるにもかかわらず、避けようとすら思うっつーか。
 というのもね、ここ、駐車場代がかかるんですよ。
 すぐ近くの湘南モールフィルは無料、少し距離はありますが、ららぽーと平塚も最近になって平日は無料になった。
 となると目的がはっきりしてない限り、つまり映画を観るとか今日はこれを絶対に買うとかって決めてない限りは行けないのです。
 しかしこれはしょうがない。他に合わせて駐車場を無料にするわけには行かない。何故ならテラスモールは辻堂駅の目の前にあるからです。んなことしたら通勤とかに使われてエラいことになるよ。

 あと、どうも好ましくないのが、何つーか、テラスモールってモールフィルやららぽーとと比べて妙に小洒落すぎてるんですよ。無意味にって言ってもいい。
 そんなに気取らなくてもいいのに、と思う反面、<アレ>がこうなったのか、と思うとちょっと感慨深いものがあったりもするんです。
 というのも、今から20年以上前、アタシは辻堂近辺に住んでいたんです。いやこれでは嘘だな。最寄り駅は辻堂駅なんだけど、駅から歩いて20分近くかかる。だから近辺と言っていいのかどうか。
 つってもこの頃アタシは原チャリ移動が基本だったので、別に駅から遠いってのは苦にならなかった。というか電車に乗ること自体が少なかったから駅に行く機会もあんまりなかったし。

 そもそもこの頃、つまり1990年代半ばの辻堂駅なんて、本当に何にもなかったのです。
 昔は駅前に関東特殊製鋼の工場があった。らしいけど、アタシが辻堂に住んでた頃にはすでになくなっていた。けどテラスモールなんてまだぜんぜん、影も形もない頃です。
 つまり、工場もなければショッピングモールもない、本当に何にもない、どう転用されるのか皆目見当がつかない、巨大な空き地が駅前に存在していたのです。
 しかも、ちょっと記憶が曖昧なんだけど、その巨大な空き地、別に柵で覆われてるわけでもなく、普通に通行することが出来た。クルマは通れなかったように思うけど、歩行者が通るのは問題なかったはずです。
 アタシが駅を使うのは、大雨の時とか大雪の時とか、早い話が原チャリ移動が不可能な時だけでした。そんな時はさすがにバスで辻堂まで行くんだけど、さっきも書いたように「徒歩20分未満」ってのは微妙な距離で、すでに雨やなんかが止んでると余裕で歩けたり出来るんですね。

 でも雨上がりに歩いて帰るのは、何となく嫌だった。
 アタシの住居の位置からして、巨大な空き地を通り抜けた方が圧倒的に早い。しかし空き地なので当然舗装はされていない。雨上がりなどとくにグチャグチャのボコボコの「総ぬかるみ状態」で、靴どころか確実にズボンの裾が汚れる。
 ああ、あれを歩くのか。けど舗装された道で帰るってのも、それはそれで超大回りだし、雨も止んでるのにバスってのももったいないなァ、みたいなね。
 結局、アタシは空き地を通り抜けることが多かった。やっぱ距離の短さには勝てない。自堕落且つビンボーな人間だから、どうしても空き地ルートを選んでしまう。
 所詮巨大な空き地だから街灯なんかあるわけがなく真っ暗です。いくら足元に注意を払ってもバシャン!だったりグジュ!だったりは避けられない。ああ、これ、靴洗わなきゃいけないな、なんて思いながらひとり寂しく家路に向かうってのは、今考えるとなかなか味わいがあります。

 だから今でも、辻堂っていうと、このイメージが強い。テラスモールなんて常に意識の外にある。言われてみればあったな、くらいです。
 記憶の中の辻堂は、まともな商店などまったくない、暗くて寂しくてぬかるみだらけの街なんです。
 なんて書くと、マジで「三丁目の夕日」の頃の話みたいでしょ?でも実際はたかだか20年ほど前。もう二十世紀も終わろうとしていた頃なんです。アタシもこの頃に生まれて初めてケータイなるものを契約したし、アタシはやってなかったけどインターネットをやってる友人もいたしね。

 何つーか、いろんな意味でぬかるんでたわ。アタシも時代も、辻堂の駅前も。

辻堂駅前にあった関東特殊製鋼の工場を画像を探してるんだけど、少なくともネットには落ちてないね。あっても加工されたものかすげぇ粗いのしかない。となると結局アソコに行くしかないのか。どこかは言わないけど。




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