ゴールデンスペシャルの謎
FirstUPDATE2018.9.22
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謎なんて言うと如何にも思わせぶりだけど、やっぱ、どうも、納得し難いことがあってね。話は「水曜どうでしょう」の1999年放送の企画である「サイコロ6 ゴールデンスペシャル」のことです。

何故「水曜どうでしょう」をゴールデンタイムで放送しようとしたのか、今考えるとかなり謎です。
深夜の人気番組をゴールデンに持ってくる、それ自体はそこまで珍しいことではないけど、その理由がよくわからないのです。
ディレクター陣は「(前企画の)ヨーロッパリベンジで18.6%を記録したから、20%の大台を狙ってゴールデンに進出した」というようなことをたびたび語っていますが、これは常識的に考えてもあり得ない。

何しろ番組最高視聴率の18.6%を叩き出したのは、この「サイコロ6」の前週です。わずか1週間の間にゴールデンの枠を取り、如何にも初めて見る人のためのような企画、収録、編集なんて出来るわけがないのです。
そして放送された「サイコロ6」の視聴率は12%だった。これについて番組中でも、後のインタビューでも「惨敗した」と語られてきましたが、これもよくわからないのですよね。

1999年といえば、たしかに今よりは全体的に視聴率は高かった。アタシは北海道に住んだことはないので詳しい事情は知りませんが、この頃なら12%なら、まァ「平凡」と言っていいでしょう。
しかしあくまで「平凡」なだけで、惨敗なんて言える数字じゃない。そりゃ18.6%に比べたら落ちるけど、実はかなり健闘したとも言える数字なんですよ。

テレビの、とくにバラエティ番組の視聴ってのは視聴習慣というのがことさら求められるのです。毎週、この時間に、このチャンネルに合わせたら、やってる。これが非常に大きい。
逆に言えば、いくら人気番組でも視聴習慣のない時間帯に放送しても視聴率なんてそうそう伸びない。むしろ深夜帯での放送よりも大幅に落とすことも珍しくない。
そう考えれば12%は健闘どころか大健闘とさえ言える数字なのです。

おそらくディレクター陣もそんなことくらいは百も承知のはずです。
とにかく、どういう事情かは不明だけど、枠が空いたのでゴールデンタイムで「水曜どうでしょう」をやってくれ、という打診を受けた。それもかなり早い段階で、そしてディレクター陣が断れないやり方で。

しかし、ここからは想像になるのですが、ディレクター陣の中で「ゴールデンタイム進出は失敗した」という<実績>が欲しかったのではないか、と勘ぐってしまうんですね。
下手に視聴率を取ってゴールデンでの放送が当たり前になると、今までのように好き勝手に番組を作れなくなる。それは嫌だ。このまま深夜帯での放送を続けたい。
ではどうするべきか。簡単です。視聴率が取れない内容にすれば良い。視聴率が悪ければ局も「水曜どうでしょう」のゴールデン番組化を諦めるしかなくなる。あれはあの時間帯だから視聴率が取れるのだと。

ところが実際に出た数字は12%という、実に微妙なものだった。この数字を聞いた時、正直ディレクター陣は頭を抱えたはずです。そこまで悪くない、と。
ならばもう、しつこいくらい失敗したことをアピールするしかない。12%「も」取れたのではなく、12%「しか」取れなかった、というふうに。
幸いなことに前週の「ヨーロッパリベンジ」で18.6%を出した。単体で12%という数字を見せられても悪い感じにはならないけど、18.6%との比較なら、かなり悪化したように見える。
そして、より失敗が際立つように「惨敗」という言葉まで使った。ぜんぜん惨敗ではないのに、おそらくはわかってて、鈴井貴之や大泉洋に「惨敗」という言葉を言わせ続けたのです。

「サイコロ6」は内容的にも、たしかに「水曜どうでしょう」を一度も見たことがない人向けへの配慮はあるのですが、面白くしようという形跡があまりない。
もうこの時期には「水曜どうでしょう」流の面白さの方程式は確立されており、具体的には「車中トーク」が軸になっていました。
ところがサイコロの選択肢の中に車中トークが可能なものが極端にない。唯一レンタカーで四国に行った時くらいですが、不自然なほど車中トークが使われていない。

深夜バスや飛行機はまるで車中トークには向いてないわけで、今までは比較的大声で会話をしても問題ない特急列車での移動手段が選択肢の中にあったのに、それがないのです。
それでも、よさこい号の車中では「いつものように」大泉洋が藤村Dに喧嘩をふっかけているのに、何故か乗っていかない藤村Dの態度もかなり不可解です。
さらに言えば、あきらかにこれまでのサイコロシリーズのような緊迫感が不足しており、何だか手練れた中で、あくまで盛り上げるために「やられてる」感を出してるようにさえ感じる。

しかしこれで、もうひとつの実績が出来た。つまり「もうサイコロはダメだ」という。
もうこの頃になると、ディレクター陣(と企画担当の鈴井貴之)がサイコロ企画をやりたくなかったのではないか。しかし「またサイコロをやってくれ」という視聴者の声もあるし、番組当初の人気企画をこのままフェードアウトさせるのは難しい。
ならば、サイコロを終わらせるチャンスはここしかない。視聴率を取ってはいけないという至上命題の責任をすべてサイコロ企画におっ被せてしまおう、と。

「深夜帯での放送を続けたい=番組のすべてを握っておきたい」

「何かしらの理由をつけてサイコロ企画を終了させたい」

このふたつの命題をクリアすべく「サイコロ6」は作られたとアタシは思ってしまうのです。
DVD発売の時もディレクター陣は盛んに「サイコロ6はあんまり面白くない」と言ってましたが、残念ながらアタシの目にはそこまで面白くないものには映らない。つまらなくしようとしたわりには意外にも「水曜どうでしょう」という番組のエッセンスが凝縮されていて、これはこれで悪くないんです。

というか20年も経つんだしさ、もういいじゃん。当時の事情とか関係なくね、まァ面白いつまらないは置いといたとしても、そろそろ「惨敗」ってのは(ギャグでならともかく本気で)言うべきではないんじゃないかね。







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