ドリフターズの代表曲をただ一曲だけ挙げるというのは実に難しい。
おそらくレコードセールスとしてもっとも売れたのは、1970年のレコード大賞において大衆賞まで受賞した「ドリフのズンドコ節」でしょうが、これが、どうも、何か違う気がしてね。
「ドリフのズンドコ節」は「民謡や軍歌などのカバー」「加藤→仲本→高木→荒井→いかりや→全員の順で各コーラスを歌う(一部の楽曲は高木と荒井の順が逆、また全員のコーラスがないものもある)」「グルーヴィな合いの手が入る」「ロックやR&Bなどにアレンジされたブリッジが大胆に挿入される」ナドナド、<ドリフソング>のフォーマットを確立した記念碑的な楽曲です。
しかし「ドリフの代表曲」と訊かれて「ズンドコ節」と答える人はほとんどいないと思う。
加藤茶が植木等の「スーダラ伝説」の向こうを張って「ズンドコ伝説」という大メドレー曲をリリースしたことがありましたが、どうもね、曲の内容というよりタイトルがピンとこなかった。
たしかに、まァ、植木等が<スーダラ>なら、ドリフが<ズンドコ>ってのはわかるんだけど、何か違うよなぁ、と。
つまり「ドリフのズンドコ節」は代表曲のようで代表曲でない、今ではイマイチ印象の薄い曲に成り下がったというか。
じゃあ普通、ドリフソングとして思い浮かぶであろう楽曲を並べてみれば
・全員集合のテーマ(北海盆唄)
・ビバノン音頭(いい湯だな)
・ドリフ大爆笑のテーマ(隣組)
これじゃただのヒット番組のテーマ集でしかなく、しかも肝心のドリフの面々の<歌声>はさっぱり聴こえてこないものばかりです。(初期の「全員集合」や「ドリフ大爆笑」はもっとはっきり歌っていたけど)
そこで「ドリフの歌声が聴こえる」という条件を追加する。これで「ヒゲダンスのテーマ」や「ドリフのわんダードッグ」も省かれる。良かった良かった。
となると先に挙げた「ドリフのズンドコ節」に加えて下記の楽曲が代表曲になると思うわけで。
・いい湯だな
・ミヨちゃん
・ドリフのほんとにほんとにご苦労さん
・ドリフの早口ことば
・ゴーウエスト
ドリフターズをコメディチームとして考えるなら妥当な選曲だとは思うのですが、実はアタシにとってこれらの楽曲が一番ではありません。
ここまでは長い長い前フリ。いよいよ本題に入ります。
アタシにとって一番となると、もう「ドリフのバイのバイのバイ」しか考えられないわけで。
1976年に放送された「8時だョ!全員集合」で「バイのバイのバイ」を歌った時の映像ですが、これが本当にすごい。レコードテイクもいいけど、何しろ映像なので動きが見える。そして動き込みで見るとドリフがエノケン(エノケン一座)から連なる「日本の正統派コメディチーム」であるのが嫌がうえにもわかります。
正統派、なんて言うと古臭いことを嬉々としてやってるようなイメージをもたれるかもしれませんが、そうじゃない。あくまで音楽と動き(ダンスと呼べるようなものでなくてもいい)をベースにした笑いを「その時その時の新しい感覚で絶えず更新していく」ことこそ正統派に求められることなのです。
「バイのバイのバイ」は1976年の楽曲なのでR&Bやソウルの影響が濃厚で、とくにいかりや長介のJB顔負けのシャウトがすごい。
この人は年代的にはR&Bやソウルの影響を受けているわけがないんだけど、それこそ「全員集合」の合唱隊などを見てもわかるように、天性の黒人的感覚を持ってるとしか思えないほど、こういうことをさせるとハマるんです。
いかりや長介の黒人的カッコよさと対比のように加藤茶の可愛さが浮かび上がり、他3人が支えるという構図はまさに<正統派>と呼ぶのに相応しい。
「バイのバイのバイ」は非常に古い楽曲で、1865年にアメリカで作られた「ジョージア行進曲」が原曲です。
日本に入ってきたのも古く、1900年代初頭にはすでに衆知となり、とくに1919年の添田さつき作詞バージョンは世間に広く浸透しました。
だからもう、幾多の人が、時勢に合わせて歌詞を変えながら歌い継いできた曲であるわけで、カバーを中心に楽曲をリリースしてきたドリフが歌うのは、必然だったと言ってもいい。
ただドリフ版は「時勢に合わせる」というよりも「加藤茶の個性に合わせる」といった感じで、加藤茶の可愛らしさが引き立つ、どちらかというとほのぼのした感じに仕上がっています。
安心感のある超がつくスタンダードナンバーのメロディ、加藤茶に合わせたほのぼの歌詞、いかりや長介のソウルフルなシャウト。すべてがバラバラにならずに一体となって迫ってくるのがこの「バイのバイのバイ」なんです。
加えてアタシの年齢も大きい。
アタシは1968年生まれなので「バイのバイのバイ」を見ていたのは7~8歳ってことになるわけです。
子供の頃、何も考えずに、素直に「全員集合」を見て笑っていた頃の感覚に引き戻される。
そんなことを考えながら「バイのバイのバイ」の映像を見ると、目頭が熱くなる。じわーっと涙が滲み出して、目の前が霞んでくる。
そうか、そうなんだよな。アタシがずっと追い求めているのは<これ>なんだよな、と実感する。
エノケンのような原液に近いものから、クレージーキャッツによって完成に近づいたものまで、アタシがこういうものを求めていた理由はすべてドリフだったんだ、と。
アタシは識者からドリフの評価が低いことへ何度も嘆いてきた。しかしそれなりにエノケンやクレージーキャッツを見てきたからこそ自信を持って言える。ドリフターズはそんな程度の低いコメディチームではない。
どっちが上か下かなど野暮なことを言うつもりは毛頭ありませんが、少なくとも「音楽と動きをベースにした笑い」の系譜の中に入れてもまったく見劣りはしないと思うのですがね。
この度、ついに動画を貼り付けたけど、いつまで保つかなぁ。消えたら対処します。 それはともかく、何度も何度も見返して、それでもこれだけ泣けてくる動画もない。何かいろんなモノが塊になって降ってくるっつーか。 |
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