何でも「VRミックス」というマスタリングの方法があるらしく、それ関連のネット記事を読んでみたのでこんなことを書こうと思ったのですが。
早い話が「2chで擬似的にサラウンド効果を出せる」みたいなことなんだけど、似たような技術は昔からあるし、VRミックスなるやり方も今後どれだけ発展するか普及するかはまるでわかりません。
だからそれはいいんです。それよりエンジニアの人が面白いことを言っててね。
かいつまんで言えば「映像はどんどん進化していってるのに音は置いてけぼりになっている。むしろ一般の人が普通に聴く環境は退化してるんじゃないか」と。
たしかに映像は4Kだ、8Kだ、HDRだ、240Hzだとどんどん進化していき、いやさすがにそこまでは普及には時間がかかるだろうけど、気づけばもうフルハイビジョンなんて当たり前になってしまいました。
ところが音はというと、5.1chサラウンドとか昔からあるけど、ぜんぜん普及していない。サラウンド抜きにしたとしても、アナログレコード→CD→MP3などの圧縮音源、と順調に劣化っつーか退化してるんじゃないか、みたいな話でして。
音にかんしては昔からうるさい人はいる。「電力会社によって音質が変わる」という有名なコピペがあるけど、本当にこだわる人はマイ電柱まで建てる、なんて言われていた。
アタシはずっとこれを嘘だと思ってたんだけど、去年か一昨年かの「タモリ倶楽部」でマイ電柱を建ててる人のことをやってて、本当にいるんだ、と驚愕しました。
こうしたマニアにとっては今はかなり良い時代かもしれません。たしかにオーディオ機器メーカー自体が減少気味だけど、いわゆる超高級オーディオ機器メーカーは元気だし、今なら何たってハイレゾ音源なんてもんまであるわけで、少なくとも昔より悪くはなってないはずです。
ただそれは一般層はまるで関係ない。では今の時代、一般層がどのように音楽を聴いているかというと、スマホを使って圧縮音源を再生、それを付属の、はさすがにアレだけど、それでも5000円以内のイヤホンを使って聴いている。もうBluetoothヘッドセットで聴いてる人も相当いると思うし。
ただでさえ音質が劣化した圧縮音源を、さらに音質を劣化させるBluetoothで聴くなんてマニアなら発狂しそうだけど、もうそういう時代なんです。
アタシはね、先のエンジニアの話を読んで、つまりこれは「盛大なノイズでも乗ってない限り、ほとんどの人にとって音質なんてどうでもいいもんなんだろうな」と思ったんです。
何で劣化した圧縮音源をさらに劣化させてまでBluetoothで聴くかと言えば、それはそっちの方が圧倒的に手軽だからです。
映像はともかく音質にかんしては「手軽さ>>>>音質」なんです。これはもう、絶対的なものだと思うわけで。
音質にこだわる人なんて常にひと握りしかいない。「DATが従来のカセットテープにまるで太刀打ち出来ず、マニア層だけのものになった」という例だけで十分でしょう。
映像はね、品質の悪いものは受け入れられないという歴史があるんです。
テレビの登場はたしかに映画界に致命的なダメージを与えました。しかし映画は衰退こそすれど消滅したわけではない。それは映画には大スクリーンや映像の精細さというアドバンテージがあったからです。
ま、だからこそ映画界の人はテレビを見下したんだろうけど、これは見下しすぎたのが問題なだけで、テレビは映画の代替にまではなれなかったわけで。
もう大半の人が忘れてるだろうけど、DVD前夜にビデオCDなる規格が登場したことがありましたが、あまりの画質の悪さに受け入れられなかった。
地デジの登場と同時にワンセグなんてもんも出てきたけど、これも画質を酷評されて衰退していっている。ニコニコ動画がYouTubeに負けたのも結局は画質だと思うし。
つかもっとそもそもの話ですが、人間って「眼」と「耳」なら「眼」を重要視するもんなんですよ。
メガネなんて最たるもので、一応見えてるんだけど、イマイチちゃんと見えないという理由でメガネをかけてる人なんてゴマンといる。では補聴器はというと、ほとんど音が聴こえない人しか使わない。
眼も耳も年齢とともに劣化します。だからメガネなり補聴器なんてもんがあるのですが、たとえば「音がより高音質に聴こえる」みたいな補聴器があったとして売れるのか、と言われると、たぶん売れない。
年齢によって一定以上の周波数が聴こえなくなるなんて言われているけど、ではそうした耳が劣化した人専用のイヤホンがあるかというとないわけです。今の技術では無理なのかもしれないけど、将来的にもそんなものを作ろうと思う人が出てくるとも思えない。
これからね、映像にかんしてはどんどん進化すると思うし、近い将来には映像なのか現実なのか見分けがつかない高精細かつ色の再現性もリフレッシュレートも高いものが出てくると思う。
一方音は、これからさらに「聴けりゃ何でもいい」という方向に向かうとしか思えない。音楽好きな人間からすれば悲しいことだけど、そういうアタシだって音質なんてたいして求めてないし。つか結局一番聴くのは圧縮音源だしね。
映像に付随する音として考えれば、求められるのは<高音質>ではなく<聴き取りやすさ>でしょう。つまりマスタリングは今以上に重要になるかもしれないけど、高ビットレートとかサラウンドとかは求められずに「ステレオ(2ch)であれば十分」な時代がずっと続くような気がするわけで。
VRミックスってのがこれからどんどん進化したとして、それを一般層が喜ぶかどうか、かなり疑問だなぁ。最初は「おお、すごい」と思うかもしれないけど、そこで終わっちゃう気もする。少なくとも「VRミックスだから」は購入の理由にはならないような。なんて書いちゃうとエンジニアの人に申し訳ないけど。