ベッドでドン・ペリニヨン
FirstUPDATE2018.6.6
@Scribble #Scribble2018 #1980年代 単ページ 浜田省吾 ハマショー MONEY ドン・ペリニヨン 貧乏人

えと、1986年の話です。
この年の年末、アタシは生まれて初めてアルバイトをしました。ま、この頃アタシは高3だったから「初アルバイト」としては相当遅いレベルになりますか。

どんなアルバイトかって?これ、何て言えばいいのかなぁ。ま、酒のアテみたいなのをね、イカにトビコをまぶしたようなのとか、とにかくああいうのですよ。それを小分けにして容器に入れていくっつー。
ただこのバイト、勤務時間が夜中だった。何で夜中だったかとかぜんぜん憶えてないけど、夜の10時頃から朝の5時くらいまで、みたいな感じだったと思う。
クラスメイトに誘われてね、あんまりバイトへの興味はなかったんだけど、半分付き合いみたいな感じで始めたのです。
さて、アタシは今までほとんど高校時代の話を書いてません。いや書いてることは書いてるか。でも基本的にひとり遊びのことだけで、マイコンとかゲームとか鎌田敏夫とか、そういうのだけです。
普通高校の頃なんて一番馬鹿やってる時代なので、いくらでも書けることがありそうなもんだけど、アタシの場合何もない。
何しろ友達とかぜんぜんいなかったんだから。いやマジで。

ところが高3になってね、何でかわかんないけど、とにかくクラス全員異様に仲が良かったんです。イジメみたいなのもないし、とにかく和気藹々としていて、みんながみんなを尊重する、という当たり前のことが出来ていたのが高3の時のクラスだったんです。
それでもアタシは積極的に友達を作ろうとは思わなかったんだけど、クラスの雰囲気がこんな状態なら嫌でも喋るようになるし、どこかに遊びに行くようにもなるわけで。
そんな時、とあるクラスメイトから「バイトせえへん?」と誘われた。ややこしいので彼をFとします。
「夜中やからあんまりやりたがるヤツがおらんねん。どうや?」と。
家に帰ってね、母親に「バイトしよかと思う」と告げた。つかこの時点ではあんまりやる気がなくて、どうせ母親にダメと言われることを前提として許可を貰いにいったのです。ま、普通に考えれば夜中のバイトなんて反対されるに決まってるから。
ところがアタシの意に背反して「やったらええやん」と。それで引っ込みがつかなくなっちゃった。

当日、工場みたいなところに行くと、バイトはアタシとF、あとFの友達が3人、みたいな感じでした。
ただFの友達3人は同じクラスでないどころか同じ学校でもない。人見知りのアタシとしては結構辛いなと。
しかもひとりは女の子でした。正直可愛いとは程遠いけど、何しろウチの高校は男子校なので、女子と喋る機会がない。カノジョがいるヤツとかクラスで5人もいない感じだったので特に引け目を感じることはなかったけど、それでもただでさえ人見知りなのに、女の子までいたんじゃあ、これはヤバいなぁ、と。
ただ、女の子を含めたFの友達3人とも気さくな感じで、すんなり馴染めた。これは自分でも意外でした。

工場内はバイトだけで監視員みたいな人もいない。つまり相当自由に出来る。喋りながらの仕事ももちろんオッケーだし。ま、やることやってれば、みたいな感じでした。
ある日Fがラジカセを持ってきてね。たしかに工場内は無音なので、音楽でもかけてくれた方がありがたいんだけど、その時Fが持ってきたカセットテープが、山下達郎、山本達彦、浜田省吾、の3本でした。
正直ベスト盤なのか、何かのアルバムなのかもいまだに知らない。だって基本的に興味のない人たちだから。「音」としても、少なくともアタシが好みそうな音でないことは当ブログを読んでいただいている方には明白でしょう。
山下達郎のことは以前書いたことがあるけど、この人はある意味「印象に残らないことがすごい」って人なので、高校生のアタシは興味を惹かれない。山本達彦なんて、どんな感じの音楽をやってたのかさえ記憶がない。つまりそれほど印象が薄かったのでしょう。

で、浜田省吾、通称・ハマショーです。
さすがに山下達郎や山本達彦に比べたらハマショーの印象が強くなる。関西弁で言うところの「イキった」歌唱とアレンジなんだから、まァ当然です。
中でも「路地裏の少年」と「MONEY」はインパクトがあり、特に「MONEY」はジス・イズ・ハマショーと言えるほど、強烈な印象を残しました。

♪ くォの町のォメインストリィ わずかァ数百メトォォ
 すァびれた映画館とォ ヴァアがッごろォ軒~

今改めて聴くと、うん、正直に言いましょう。
ヒッジョーにカッコ悪い!
しかし「カッコ悪すぎてカッコいい」って気分もあって、ここまでカッコつけてると、一周回ってカッコいいんじゃないかと。
歌詞もわかるようでよくわからない。わからないけど、ストレートなカネの話をカッコつけて歌うっつーことには賞賛を贈ってもいいんじゃないかね。
そういや友人がドン・ペリニオンの意味がわからなくて、当時聴いた時「ベッドでドン・ペリニオンってどんだけイヤラシイことするんだ」と思ったそうだけど、百歩譲って「純白のメルセデス」と「プール付きマンション」はいいとして、「サイコーのオンナとベッドでドン・ペリニオン」ってのはなぁ。
何つーか、この歌の主人公の妄想ってよりは「浜田省吾が必死になって考えた贅沢」って感じなのがビンボー臭いというか。つかビンボー人の発想だよねこれ。

んで、これが重要なんだけど、別に「MONEY」の歌詞と当時の心境がリンクしてたわけでもないんですよ。
アタシがカネに苦労するようになるのは翌年大学に進学して以降であり、この頃はまだカネのありがたみとかわかってなかった。たしかにうちの家はビンボーだったとは言え実家でヌクヌクしてたし、「バイト?どっちでもいい」と思っていた時点でカネの重要性なんかわかってるわけがない。
だからアタシにとって「MONEY」はあの頃のBGMでしかないんだけど、逆に言えば歌詞の世界観とかまるで関係なく、純粋なBGMになってくれた。
その後Fとも、バイト仲間だったFの友達3人とも縁はなくなったけど、「MONEY」を聴くだけで、いとも簡単に彼らのことを思い出す。

元気にやってんのかなぁ、とも別に思わないんだけど、それでも軽く鼻唄を歌うだけであの頃が懐かしく思い出されるのはたしかなわけでね。
でもさ、よりによって懐かしさを喚起する歌詞が「ベッドでドン・ペリニオン」ってのはどうなのよ?







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